よりよい解決策を提供する素材メーカーが適切な支援の確保に苦戦しており、ファッションのサステナビリティは困難な状況に直面している。
7月30日、米国企業のボルトスレッズ(Bolt Threads)は、2018年にローンチした菌糸ベースの代替レザー、マイロ(Mylo)の生産を停止したと突然の発表を行った。ボルトスレッズは総額2億1300万ドル(約295.5億円)を調達しており、直近では2018年にシリーズD資金調達ラウンドを実施している。この記事に関して同社にコメントを要請したが、返答はもらえなかった。
キノコを使った代替レザーであるマイロは、これまででもっとも有望な革新的なファッション素材のひとつだった。2016年から同社と共同でマイロのテストと開発を行ったステラ・マッカートニー氏などが使用している。2022年、同氏のブランドはこの素材を使ったバッグ、フレイム(Frayme)を発表した。
2020年、マッカートニー氏はこの素材の規模拡大を支援するため、アディダス(Adidas)とケリング(Kering)を誘ってマイロコンソーシアム(Mylo Consortium)を結成。マイロ素材はその後、両社によって試験的に使用されている。アディダスはスタン・スミス(Stan Smith)のトレーナーでテストを行い、ケリングのバレンシアガ(Balenciaga)も試作品に用いた。だが、マイロは2000ドル(約27万7000円)という高額のバッグであるフレイム以外の商品化には至っていない。
現在、ボルトスレッズはマイロを広く商品化するための出資者を探しているが、当面のあいだ、生産を一時停止する。同社によると、一時停止の理由は、投資家がAIを含む他の機会に目を向けたためだという。しかし同社がマイロの生産を継続できない要因があると思われる。その追加要因とは?
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
よりよい解決策を提供する素材メーカーが適切な支援の確保に苦戦しており、ファッションのサステナビリティは困難な状況に直面している。
7月30日、米国企業のボルトスレッズ(Bolt Threads)は、2018年にローンチした菌糸ベースの代替レザー、マイロ(Mylo)の生産を停止したと突然の発表を行った。ボルトスレッズは総額2億1300万ドル(約295.5億円)を調達しており、直近では2018年にシリーズD資金調達ラウンドを実施している。この記事に関して同社にコメントを要請したが、返答はもらえなかった。
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キノコを使った代替レザーであるマイロは、これまででもっとも有望な革新的なファッション素材のひとつだった。2016年から同社と共同でマイロのテストと開発を行ったステラ・マッカートニー氏などが使用している。2022年、同氏のブランドはこの素材を使ったバッグ、フレイム(Frayme)を発表した。
2020年、マッカートニー氏はこの素材の規模拡大を支援するため、アディダス(Adidas)とケリング(Kering)を誘ってマイロコンソーシアム(Mylo Consortium)を結成。マイロ素材はその後、両社によって試験的に使用されている。アディダスはスタン・スミス(Stan Smith)のトレーナーでテストを行い、ケリングのバレンシアガ(Balenciaga)も試作品に用いた。だが、マイロは2000ドル(約27万7000円)という高額のバッグであるフレイム以外の商品化には至っていない。
現在、ボルトスレッズはマイロを広く商品化するための出資者を探しているが、当面のあいだ、生産を一時停止する。同社によると、一時停止の理由は、投資家がAIを含む他の機会に目を向けたためだという。しかし同社がマイロの生産を継続できないのは、以下に挙げる追加要因も影響していると思われる。
3つのPを満たす:価格(Price)、性能(performance)、地球環境(planet)
素材のイノベーションブランドは、ブランドやメーカーの関心を集めた時点では、通常ラボの段階にある。課題となるのは、最終的にその素材を必要とされる規模で生産することだ。
投資会社マテリアル・インパクト(Material Impact)のパートナーで、素材イノベーション企業ジェン・フェニックス(Gen Phoenix)のCMOであるエリス・ワイナー氏は次のように述べる。「性能要素、サステナビリティや地球への配慮、そして価格の標準は、企業が達成しなければならない本当に意味のある指標だ。スタートアップは、これらの要件を満たすのに苦労することが多く、ラボスケールや限定生産の開発しかできないかもしれない。マーケティングの観点からすれば、それで十分だが、ブランドがこの3つの要件を満たすまでは製品を主流に乗せることはできない」。
ジェン・フェニックスは、最近ではコーチ(Coach)のサステナブルなサブブランドであるコーチトピア(Coachtopia)のローンチに協力している。さらにドクターマーチン(Doc Martens)やジャガー(Jaguar)と組んで、両ブランドの代替レザー素材生産の規模を拡大した。同社は、航空、鉄道、バス業界へのサービス提供からスタートし、過去15年にわたって耐久性のあるリサイクルレザーの生産で高い評価を獲得してきた。
素材イノベーション企業ナチュラルファイバーウェルディング(Natural Fiber Welding)の創業者ルーク・ハーバーホルス氏いわく、「現在、ほとんどのレザーは1平方フィート(929平方センチメートル)あたり2ドル(約277円)から5ドル(約692円)の範囲で販売されている」。同社はオールバーズ(Allbirds)とラルフローレン(Ralph Lauren)のためにプラスチックフリーのレザー、ミラム(Mirum)を生産している。ブランドによいマージンを提供しない代替レザーは、「CEOに売るのは難しい」とハーバーホルス氏は述べている。
適切な契約書の作成
近年、ブランドやメーカーと取引するスタートアップのあいだでは、オフテイク契約が標準となっている。テキスタイルイノベーション&IP企業ハイキュー(HeiQ)のCEO、カルロ・セントーゼ氏の説明によると、オフテイクとは、ブランドがバリューチェーン・パートナーと今後5年間に購入する材料の価格、品質、量について合意する契約を結ぶことだ。
「オフテイク契約は銀行取引可能な契約だ。スタートアップはこの契約書を持って銀行に行き、貸付を得て約束を果たすことができる」とセントーゼ氏は言う。また、別の形でオフテイクを採用する場合もある。ヒューゴ・ボス(Hugo Boss)のCEO、ダニエル・グリーダー氏がポリエステルに代わるセルロース糸に直接投資したのは、2022年にハイキューがまだラボの段階だったときで、オフテイクはその後に行われている。
さらに、ラルフローレン、オールバーズ、ステラ・マッカートニーの場合はいずれも、投資会社コラボファンド(Collab Fund)経由で、一部所有権を取得する形でナチュラルファイバーウェルディングに投資することでリスクを取っている。
オフテイクはブランドを守り、一方で先行投資はスタートアップにさらなる安定性をもたらす。「ファッション業界では、ハードなオフテイク契約は存在しない。なぜなら、性能、コスト、規模が(設定された)基準を満たしているかどうかがつねに条件となり、それによって初めてブランドは取引を行うことができるからだ」とハーバーホルス氏は言う。
これはマイロの成功に水を差すことになる可能性がある。「(開発)プロセスのかなり早い段階で書類にサインすることはできるが、その後はかなりの条件付きとなる」とハーバーホルス氏。「事業の引き受けに関しては、誰もがいたちごっこに参加している。 そこにはブランド、スタートアップ、投資家などが絡んでくる。リスクを取ることを考慮して書類上で物事を特定しようと試みたり、時間を有効に使ったりすることの複雑な駆け引きなのだ」。
ジェン・フェニックスは、パートナー・ブランドと通常の5年計画ではなく10年計画を立てている。「これは、素材サプライヤーと大手ブランドとのあいだで結ばれる従来の定型的な契約ではない」とワイナー氏は述べた。「スタートアップは、途中で困難に遭遇してもペナルティを課されることはない。そうなればスタートアップは廃業に追い込まれるかもしれない。そうではなく、10年間は一緒に協力することを意味している。つまり、まずこの関係の精神について考えよう、それから両パートナーを保護し、管理されたリスクテイクを奨励する文言で、その精神を尊重する契約を共同で開発しようではないか、ということだ」。
厳しい経済状況下でのリスク管理
最終的には、素材のイノベーションに投資しているブランドが現在経験している解決しがたい問題よりも、新しい技術に投資しないコストのほうが大きくなる可能性が高い。リニューセル(Renewcell)のチーフコマーシャルオフィサーであるトリシア・ケアリー氏は、「グローバルに活動するなかでわかったのは、ヨーロッパのブランドのほうが動きが早いこと。サステナビリティの向上がすぐに求められていることを理解している」と語っている。リニューセルは繊維から繊維への素材イノベーターの最大手の一社で、H&Mといったブランドと仕事をしている。「米国のブランドのほとんどが、いまだに素材のイノベーションが真に意味することは何かを理解しようとしている状況だ」。
ケアリー氏は欧州で販売するブランドに影響を及ぼすとされるEUの規制について言及し、次のように述べた。「近い将来の問題は、サステナブルな素材へのアクセスと、それに従わない場合の罰則に関するものになるだろう。したがって特に製品責任の拡大に関しては、イノベーションと変革を行わなければ、長期的には実際にさらに多くのコストがかかることになる」。
「投資家として我々を興奮させるのは、サステナビリティに大きな変化をもたらすことができる技術や素材である」とワイナー氏は言う。「ブランドにとって、もっともリスクのある選択肢は、何もしないこと、あるいは何かをするにしてもあまりに遅すぎることだというのが我々の信念だ。一般的にシニアリーダーシップはそれをわかっている。真のカテゴリーリーダーの組織は、この新しい環境、この気候危機が、これまで以上に多くのリスクを要求していることを理解するだろう」。
マクロ経済環境を乗り切ることができれば、リスクを取るブランドこそが報われることになる。コーチは、コーチトピアの製品を発売して2日以内に2度完売しており、スケーラブルな素材イノベーションの可能性を示している。
[原文:‘A tough sell to CEOs’: Fashion sustainability is taking a hit in the current economy]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)