2020年に創業10年周年を迎えたファッション・マーケットプレイスのジェーンが、昨今大きく成長している。その成長は、主にソーシャルコマース、特に2020年7月に利用を開始したインスタグラム・ショッピングによるものだという。
2019年末にタリーブ・ノアモハメド氏は、オンラインマーケットプレイスであるジェーン(Jane)のCEOに就任した際、同社が収益面では健全でも、ブランド認知が低いことに気付いた。
「ジェーンは毎年数億ドル(数百億ドル)の利益を上げており、常に黒字で、何千人もの顧客を抱えている。だが面白いことに、当時我々の名は世の中にほとんど認知されていなかった」と、ノアモハメド氏。同氏はファーフェッチ(Farfetch)で最高成長責任者を務めていた人物だ。
2020年に創業10年周年を迎えたジェーンは、アパレルからペット用品までの幅広い商品を、10ドル(約1100円)から3500ドル(約39万円)と、幅広い価格帯で販売している。これまでの総収益は10億ドル(約1100億円)で、2020年の収益は2億5000万ドル(約276億円)以上を記録。また同年12月には、トリチウムパートナーズ(Tripium Partners)が主導した、シリーズAの資金調達ラウンドで4000万ドル(約44億2428万円)を獲得している。ノアモハメド氏によると、こうした最近の収益とオーディエンスの成長は、主にソーシャルコマース、特に2020年7月に利用を開始したインスタグラムショッピング(Instagram Shopping)によるものだという。実際、同社のソーシャルコマース経由の売上は、2020年11月から2021年3月までのあいだに27倍に増加。2020年7月から2021年2月のあいだに、インスタグラムショッピングとFacebookショップス(Facebook Shops:主にインスタグラム経由)で20万ドル(約2212万円)以上の売上増を記録し、その期間中にインスタグラムアカウントで1万8700人の新規フォロワーを獲得した。なお現在、同社のインスタグラムアカウントには、60万人以上のフォロワーがいる。
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ソーシャルコマース盛況ぶりの背景
ソーシャルコマースはこの1年で着実に成長している。ハリスポール(Harris Poll)の調査によると、Z世代の43%と、ミレニアル世代の49%がすでにソーシャルメディアでの購買行動を経験している。さらに2021年は、アメリカ人の3分の1以上が2020年よりも多くの商品購入をソーシャルメディアで行うと見られている。ノアモハメド氏によると、こうした盛り上がりの背景には、パンデミックの影響やソーシャルメディアの利便性が高まったことなどがあるという。
「パンデミックを通じ、私たちは小規模業者へのたくさんの支援や応援が集まるのを確認した」と同氏は述べる。「ソーシャルコマースは、創業したばかりの中小企業に向いている。大手ブランドはペイドソーシャルで大きなスペースを占有しているが、それでも人々のあいだでは、インスタグラムショッピングで(中小規模のブランドを)見つけ、それを友人におすすめし、その友人がさらに別の友人におすすめするといった現象が見られている。むしろ、ここ最近この傾向は強まったといえるだろう」。
ノアモハメド氏によると、これまでにジェーンの取引の80%以上がモバイル上で行われているため、顧客(ほとんどが女性)はすでにモバイルショッピングに慣れ親しんでいる層だと想定されている。
シームレスな体験が重要
「インスタグラムは、我々ができないことを実現してくれる。アルゴリズムを掘り下げ、私たちよりもはるかに多くのことを予測してくれるのだ」とノアモハメド氏はいう。「またインスタグラムは、ユーザーを同プラットフォームから離脱させることなく購買に導くことができる。インスタグラムにおける我々の顧客の大半は、はじめから我々の商品を購入するためにインスタグラムにいるわけではない。インスタグラムでの購買行動は非常に衝動的なものだ。そこで求められるのは、統合されたシームレスな体験を創り出すことにほかならない」。
なお、インスタグラムショッピングを開始して以来、ジェーンのサイトとモバイルアプリへの訪問者の80%以上が、検索以外のチャネルから流入するようになった。その大半はソーシャルメディアだが、eメールといったほかのチャネルもこの数字に貢献しているという。
ジェーン以外では、セフォラ(Sephora)やウォルマート(Walmart)などの企業がソーシャルコマースの成長に強気を見せている。セフォラのeコマース事業のゼネラルマネージャー、キャロリン・ボジャノウスキ氏は、6月1日にクォーツ(Quartz)に対し、「来年、ソーシャルコマースはさらに成長する兆候がある」と語っている。
ブランドを取り込もうとするソーシャルメディア勢
一方ソーシャルメディアたちも、より多くのブランドを取り込むためにあらゆる手を使っている。TikTokは、英国で新しいソーシャルコマース機能の試験運用を行っており、ウォルマートのような大手企業にアプローチしているし、ピンタレスト(Pinterest)も新機能を追加している。
ピンタレストのコンテンツ、およびクリエイターパートナーシップを統括するアヤ・カナイ氏は、「以前から、ピンタレストユーザーの購買意欲の高さは認識していたが、それがこの1年でさらに急増していることにワクワクしている」と述べた。同氏によると、ピンタレストをソーシャルコマースに活用しているユーザー数は、2020年3月から2021年3月のあいだに200%以上増加したという。
良い口コミはビジネスに貢献する
ノアモハメド氏は、こうした潮流は業界全体で今後さらに強まるだろうと予想する。
「これは、何も目新しい購買行動ではない」と同氏は強調する。「良い口コミはビジネスに貢献する。より多くの人々が、我々のアプリやエコシステムにつながるソーシャルメディアを活用する人が今後さらに増えれば、我々にとっては新規顧客を獲得するチャンスが生まれる」。
[原文:How fashion marketplace Jane used social commerce to reach $250 million in annual sales]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)