CTV(コネクテッドTV)はデジタルメディアの流行語と言っても過言ではない。これまでテレビ画面に大きな予算を割いてきた広告主が、高度なターゲティングというCTVのうたい文句を受け入れているためだ。それに加え、いまこそ変わるべきときだと広く考えられている。
CTV(コネクテッドTV)はデジタルメディアの流行語と言っても過言ではない。これまでテレビ画面に大きな予算を割いてきた広告主が、高度なターゲティングというCTVのうたい文句を受け入れているためだ。それに加え、いまこそ変わるべきときだと広く考えられている。
しかし、移行は一筋縄ではいかないだろう。価格を巡る論争、複数セラーとの契約、そしてもちろん、データの断片化は、この最新分野における直接購入とは何かさえほとんどわかっていないことを意味する。
また、キャンペーンの自動化を急ぐと、しばしば、バイヤーから見えないものが多くなる。格安のインベントリー(在庫)をプレミアムな放送時間に見せかけるなど、不透明な行為が助長されるシナリオだ。
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しかし、透明性を高めるための取り組みは行われており、こうした努力が改善につながると楽観視している人もいる。
イーマーケター(eMarketer)によれば、米国のCTV広告費は2022年、191億ドル(約2兆2030億円)と予測されており、2024年には295億ドル(約3兆4020億円)まで成長する見通しだ。予測担当シニアアナリストのピーター・バーレ氏は成長の要因として、キャンペーン活動が「正常に戻る」こととインベントリー価格の上昇を挙げている。
CTVとオープンプログラマティックは同じではない
2010年代前半から半ばにかけてプログラマティックが台頭したときのように、大部分のアドテク企業はCTVの流行を自社のブランドに関連づけたいと考えている。この比較は合理的だが、両者には顕著な違いがある。
たとえば、プログラマティックは当初、パブリッシャーが収益化できない広告インプレッションからいくらかの利益を得る手段として採用され、おもに広告オークションやオープンアドエクスチェンジを経由していた。
一方、広告付きCTVの大量売買、つまり、有名ブランドのストリーミングサービスで良い部分を値切るための交渉は現在手作業であり、最大70%のインベントリーがこのように取引されているとも言われる。価格交渉が進行中であることを理由に匿名を希望している複数の関係者によれば、多くの場合、このような大量の広告インベントリーはアップフロント契約の一部として割り当てられるという。
簡単に言えば、CTVの広告枠の需要が供給を上回っているということだ。しかし、どのような強気市場でも、バイヤーは注意しなければならない。アドテクの初期に広く見られたごまかしが再び頭をもたげているためだ。
価格でもめていると、消費者の注目を逃す恐れも
広告主のメディア予算が消費者の注目に後れを取ることは、決して新しい現象ではない。新しいメディアフォーマットは広告主に測定の課題を突き付ける。その結果、2010年代には、モバイル広告が台頭をはばまれた。このトレンドが繰り返される証拠がほしければ、ニールセン(Nielsen)がまさにいま直面している課題を見ればいい。
価格設定が障害になることもある。とくに、広告主はしばしば「既得権」を利用し、リニア(従来型)TVの優遇価格をCTVに適用しようと試みる。
一方、ほとんどのネットワークは異なる見方をしている。ネットワークの代表として交渉の席に着く幹部の多くは、価格設定の際、ストリーミングサービスが力の不均衡をリセットする機会をもたらすと捉えている。
大手メディアエージェンシーの関係者が米DIGIDAYに語ったところによれば、2021年のアップフロント交渉では、リニアTVの価格をCTVでは受け入れられないというだけの理由で、ネットワークが「トップクライアント」の広告購入を拒否することもあったという。交渉が進行中であることを理由に匿名を希望しているある関係者は「対応に困った」と振り返る。「あのレベルのクライアントはノーと言われることに慣れていない」。
別の大手メディアエージェンシー関係者によれば、主要放送局の広告枠は人気が高いが、もっとも安価なインベントリーを優先するクライアントもいるという。
このエージェンシー関係者(同様に匿名を希望)は「CPMなど、どう測定しても最安値の入札価格を求めるクライアントもいる。自分たちのモデルにフィードされる限り、彼らは安価なCTVインベントリーも受け入れる」と話す。「正直なところ、彼らはそうしたエクスチェンジにあるインベントリーの質の低さを知らないのではないかと思うこともある」。
しかし、ディスプレイ広告におけるアドテクの初期が教えてくれたように、広告主がキャンペーンのために可能な限り安い広告枠を手に入れることに執着すると、詐欺師の餌食になるリスクがあり、ブランドセーフティまで危険にさらすことになりかねない。
ここから話は複雑に…
ほとんどの広告主は、インベントリーへのもっとも直接的な経路を確立することがデジタルメディア取引のもっとも効率的な手段だというだろう。多くの広告主がそのために「アドテクの経路」を利用しており、CTVの世界ではプライベートマーケットプレイスが人気を得ている。
しかし、直接取引のインベントリー価格を巡って意見が対立すると、キャンペーンの約束を果たさなければならないというプレッシャーから、インベントリーをオープンマーケットに求めるメディアバイヤーも出てくる。話が複雑になるのはここからだ。不透明と言い換えることもできる。
プログラマティックメディア取引の複雑な世界を解明しようと試みるコンサルティング企業ジャウンス・メディア(Jounce Media)が2021年9月、3万7360のCTVプロパティのサプライパスを調査したところ、この領域にはいくつもの課題があることが判明した。
ジャウンス・メディアの報告書には、「再販供給に関連するサプライチェーンの複雑さが増している」と記されている。「CTVの入札リクエストの半数近くがマルチホップ(複数の中継点)によるサプライチェーンにつながる。その結果、パブリッシャーの取り分が減り、詐欺も誘発される」。
この複雑さの要因は、コンテンツの所有者、配信者、再販者という複数のセラーが存在し、その多くがCTVアプリの大部分を「共同で収益化」していることにある。しかも、「CTVの世界では、『直接販売』が何を意味するかさえ完全にはわかっていない」と報告書は述べているのだ。ただし、「価値を付加する仲介者」がサプライチェーンにいることはたしかだろう。
断片化はバイヤーを盲目にする
キャンペーン測定プラットフォームを提供するライトボックスTV(LightBox TV)の共同創業者でCEOのマーク・ギブリン氏は米DIGIDAYの取材に対し、「現在のところ、ほとんどのバイヤーにとって、オープンエクスチェンジで購入するのはリスクが高すぎる。多くのバイヤーはプログラマティックの経路を使い、可能な限り1対1の取引に近づけようとしている」と語る。
しかし、ギブリン氏はさらに、同じインベントリーに複数の経路が存在することは言うまでもなく、CTVの世界ではデータシグナルが複雑に断片化しているため、バイヤーはしばしば、広告インプレッションがいくつの手を経由したかを把握できないと述べている。「どこで購入しているかがわからなければ、サプライチェーンから請求される料金の内訳もわからなくなる」。
ほとんどの場合、バイヤーはあらゆる広告取引で「ホップ(hops)」の数を最小限に抑えようと試みる。ホップとは、広告が配信されるまでに広告インプレッションが売買される回数のことだ。たとえば、グループエム(GroupM)はプレミアム・サプライ(Premium Supply)イニシアチブの一環として、2020年にCTVプロバイダーのスポットX(SpotX、現在はマグナイトの一部)と提携し、サプライパートナーと優遇価格で取引している。
ハバス・メディア(Havas Media)、IPG、オムニコム(Omnicom)などの持ち株グループもサプライパートナーと同様の契約を結び、プログラム参加の条件として、透明性の保証、さらには特別価格を求めている。
非公開の再販?
一部のメディアバイヤーは、需要が限界に達し、慎重さを欠くサプライヤーが自社の広告枠と非公開の第三者から調達したメディア枠をセット販売していることに懸念を示している。
メディアオーナーが第三者から広告枠を購入し、自社のファーストパーティデータを加えて再販する行為は「オーディエンス拡張」と呼ばれる。デスクトップディスプレイ広告の世界では珍しいことではない。
しかし、初期段階にあるCTV分野のほうがむしろ、非公開のこうした行為が広く行われているのではないかと危惧する声もある。利益の拡張があまりに魅力的なためだ。ジャウンス・メディアはマーケターに対し、アドエクスチェンジからDSP(デマンドサイドプラットフォーム)まで、アドテクサプライチェーンの各階層で、インベントリーの再販に関するポリシーを精査するよう助言している。
オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group:以下、OMG)のデジタルアクティベーション担当マネージングディレクター、ライアン・ユーザニオ氏は「積極的な対策が必要だ。私たちはこのようなサプライパスの評価に特化したチームを持っている」と説明する。
アメとムチの手法
OMGは2021年後半、コネクテッドTV信号の標準化計画(Connected TV Signal Standardization Initiative)の「行動喚起」を発表。番組ジャンルなど、広告プレースメントの透明性を高めてほしいと呼び掛け、IDシグナルに関しては、IPアドレスをターゲティングシグナルとして使用するのを止めるよう強く求めた。さらに、自社のメディアプランへの広告プレースメントを希望するサプライヤーに対し、IABテックラボ(Tech Lab)のads.cert 2.0プログラムで提唱されているフラウド対策を実行するよう要請した。
最高アクティベーション責任者のミーガン・パグリウカ氏は米DIGIDAYの取材に対し、AMCネットワークス(AMC Networks)、マグナイト、Yahooなど、多くのパートナーがこのイニシアチブに賛同しており、さらに賛同者が増える見込みだと説明している。
2022年も本格始動し、テレビの放送時間の取引交渉が再び始まろうとしている。大手持ち株グループの関係者が米DIGIDAYに対し、アップフロント前の会議で起こっていると思われる動きをいくつか説明してくれた。
OMGのパグリウカ氏は、現在進行中のイニシアチブで概説されている原則への賛同者が増えることで、クライアントがリニアTVからCTVにより多くの予算を振り分けることができるようになり、この移行が本格化すれば、コネクテッドデバイスのインベントリー価格に対する考え方のギャップも埋まると述べている。
「私たちはクライアントに『もっと賢い方法で、もっと多くの予算をCTVに振り分けましょう』と提案するため、説得力のあるデータを示したい」とパグリウカ氏は語る。「ニールセンの過去データを見ているだけでは、CTVにもっと資金を投じるべきだと確信できない…コードカッティングは現実だと皆で騒ぎ立てても、実際のプランニングデータを見せるほどの説得力はない」。
一方、別の持ち株グループ関係者は、バイヤーはアメとムチを使い分けることを恐れないため、主要放送局は価格設定について姿勢を崩す覚悟をしておくべきだと述べている。
「アップフロント前の会議で、彼ら(放送局)は『民主的な方法でCTVインベントリーを有効活用する』と言っていたが、これは基本的に、もっとも高い金額で入札した者に売るという意味だ。多くの人にこれを伝えることはとても大胆で勇敢な行動であり、彼らはそれを実行した。しかし、それはアップフロント前の話であり、現実にはCTVで妥協しない限り、リニアTVの契約で予算を獲得することはできないだろう」。
[原文:‘It’s not entirely clear what direct even means’: CTV’s rise is not without its growing pains]
RONAN SHIELDS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)
Illustration by IVY LIU