IABの年次イベントNewFronts2日目となる5月4日には、デジタル動画プラットフォーム、パブリッシャー、プログラマーがバーチャルステージに登壇した。NewFrontsの伝統に則り多数のセレブも登場した各社のプレゼンテーションに共通するテーマは「ショッパブル動画」と「Cookieレスターゲティング」だった。
2021年5月3~6日、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:以下、IAB)の年次イベント「ニューフロンツ(NewFronts)」が今年も開催された。初日のCTV(コネクテッドTV)プラットフォームオーナーと広告支援型ストリーマーに続き、2日目となる5月4日には、デジタル動画プラットフォーム、パブリッシャー、プログラマーがバーチャルステージに登壇した。
当日のプレゼンテーションに共通するテーマは「ショッパブル動画」だった。コンデナスト(Condé Nast)やベライゾン・メディア(Verizon Media:まもなくヤフー[Yahoo]に改称される)などの企業は、オーディエンスが視聴を邪魔されることなく画面に表示される商品を買えるようにするための取り組みをアピールした。また、いかにもメディア企業の動画プログラミングのショーケースといった感のあるイベントにしては、予想以上にCookieを用いないターゲティング広告の各種選択肢にも焦点が当てられた。だが、その一方で、参加企業各社はニューフロンツの伝統をしっかりと守り、自社のプレゼンテーションにセレブを揃えることも忘れなかった。
重要なポイント:
- デジタル動画広告の次のフロンティアは、どうやら「ショッパブルコンテンツ」のようだ。数社がこの分野における新たな可能性やチャンスをアピールしていた。
- サードパーティCookieの終焉という観点から、メディア企業各社はコンテクスチュアルやアイデンティティといったターゲティング広告のソリューションに注目している。
- ポップシンガーのマイリー・サイラスやビリー・アイリッシュ(それぞれ、YouTubeとVevoのプレゼンテーションに登場)、俳優のモーガン・フリーマン、インフルエンサーのキャシー・ホー。彼らをフィーチャーしたプレゼンテーションからもわかるように、メディア企業はスターの力で、デジタル動画コンテンツのサポートに対する関心を広告主から集めることができると信じている。
YouTube
今年で10回目となるYouTube「ブランドキャスト(Brandcast)」は大勢のスターが顔を揃え、同プラットフォームが持つ影響力と文化を強く印象づけるイベントだった。その顔ぶれと内容は多岐に渡った。司会を務めたコメディアンのハサン・ミンハジ、マイリー・サイラスによるコンサート。カート・ヒューゴ・シュナイダー、キャシー・ホーといった、何百万人ものフォロワーを抱えるYouTubeクリエイター。彼らのまわりで組み立てられ、解体されるさまざまなセットが組まれたサウンドステージ。そのステージ上を動き回るスターたち。このプレゼンテーションがフォーカスしたのは、YouTubeクリエイターたちの台頭と、彼らが制作するコンテンツを通して届けられる多様な声と情熱だ。当日のブランドキャストでは、出席者があらかじめ選んだ関心や事業目標に応じた、さまざまなセグメントが配信された。
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YouTubeCEOのスーザン・ウォシッキー氏は、同社が今年、力を入れている分野を次のように挙げた。ひとつは「リビングルームエクスペリエンス」への投資(2020年12月には、1億2000万人がYouTubeまたはYouTube TVを大画面で視聴した)。もうひとつはプロダクションイノベーションへの投資だ(ショートフォーム動画機能「ショーツ[Shorts]」──インスタグラムにおけるリール[Instagram Reels]とTikTokに対するYouTubeの回答──の米国内における拡充と、年内の世界展開が力説された)。
Googleの南北アメリカ大陸担当プレジデントのアラン・シーゲセン氏によれば、YouTubeはこのふたつの分野を結びつけて、よりインタラクティブな広告プロダクトをCTVで展開していく予定だという。その第1弾は「ブランドエクステンションズ(Brand Extensions)」だ。ユーザーがCTV広告をクリックすると、ブランドのサイトまたはアプリへの対応リンクがそのユーザーのスマートフォンなどのデバイスに送られるという仕組みのプロダクトだ。この広告フォーマットは、予定では今年末までに世界展開されることになっている。
また、YouTubeは「YouTubeセレクト(YouTube Select)」プログラム内に新たなオプションも導入しており、広告主に向けてさまざまなクリエイターやパブリッシャーのチャンネルをキュレートしている。米国内の広告主は今年から、黒人歴史月間(Black History Month)やプライドマンス(Pride Month)、母の日といった、その時期の重要な文化的イベントに特化したシーズンごとのスポンサーシップを購入できるようになる。
さらにYouTubeは、オリジナル番組の新作ラインナップもしっかりとプロモーションした。俳優ウィル・スミスのフィットネス生活に密着する全6話のドキュメンタリーシリーズ。今夏配信開始される、アリシア・キーズのプライベートに迫る新作ドキュメンタリーシリーズ。ヒップホップジュエリー「アイスコールド(Ice Cold)」のレンズを通して、人種的不平等をめぐる問題にメスを入れるドキュシリーズ。アジア・太平洋諸島系米国人のセレブ、シェフ、活動家、クリエイターを一堂に集め、その文化に迫るスペシャル……などが、今後「YouTubeオリジナルズ(YouTube Originals)」に登場することになっている。
コンデナスト
コンデナストでグローバルCRO兼米国売上担当プレジデントを務めるパメラ・ドラッカー・マン氏によれば、同社は今年に入り毎月6500万人の視聴者にリーチしているという。だが、コンデナストがピッチをかけるのは、このオーディエンスリーチだけではない。商品販売のための新機能「コンデナスト・ショッパブル(Condé Nast Shoppable)」についてもフォーカスしている。
この新機能では、コンデナスト傘下のメディアで動画を見たユーザーがセレブやモデル、インフルエンサーが着ている服など、その動画に登場する商品をクリックすれば、それを直接購入することができるようになる。ドラッカー・マン氏によれば、この機能は「単なるアドオンやQRコードとは違う」という。いずれはヴォーグ(Vogue)の「7・デイズ・7・ルックス(7 Days, 7 Looks)」や「ビューティー・シークレッツ(Beauty Secrets)」、GQの「グルーミング・ゴッズ(Grooming Gods)」に組み込まれる予定だ。
番組といえば、コンデナストは同社が発行する全タイトルのうちの17誌で、シリーズ75作品と新作パイロット50作品の動画コンテンツを展開することになっている。たとえば、ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)動画チャンネルの再ローンチや、ヒルソング教会に関する同誌の暴露記事をベースにしたドキュメンタリーシリーズなどである。ヴァニティ・フェアはまた、ポッドキャスト「ダイナスティ(Dynasty)」のローンチにより、オーディオ分野にも進出することになっている。
同ポッドキャストは権力者の一族に焦点を当てる番組で、第1話ではウィンザー家が取り上げられる。インテリアデザイン雑誌のアーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)には新作シリーズが3作品登場することになっている。どれもサステナビリティにフォーカスする番組で、メゾン・トゥルーバイ(Maison Trouvaille)創業者のエリック・ガルシア氏や、ボナペティート(Bon Appetit)テストキッチンのスター、ブラッド・レオーネ氏らが司会を務める。ヴォーグはウェルネス関連のコンテンツを掘り下げていくことになっている。コンデナスト・エンターテインメント(Cond Nast Entertainment)のプレジデント、アグネス・チュー氏によれば、その口火を切るのはケンダル・ジェンナーとYouTubeヘルス(YouTube Health)がタッグを組む番組で、「ファッションというレンズを通して」メンタルヘルスにメスを入れるという。
コンデナストはまた、GQの新しいリニアチャンネルも年内にローンチすると発表した。同チャンネルが従来型TVで配信されるのか、無料の広告支援型ストリーミングTVサービスで配信されるのかは、明らかにされていない。GQのスポーツ専門チャンネルであるGQスポーツ(GQ Sports)は2020年、オーディエンスの3桁成長を記録した。コンデナストの発表によれば、YouTubeの視聴回数は2100万回を超えたという。同社はすでに、来年のスーパーボウルに向けた構想を明らかにしている。そのなかのひとつは、GQの動画インタビューシリーズ「エピック・カンバセーションズ(Epic Conversations)」のライブ配信となる。
コンデナストは現在も、同社各雑誌の内容を映画やテレビにライセンス供与する試みを続けている。そのなかのひとつが、Netflixで2021年に配信が予定されている「エスケイプ・フロム・スパイダーヘッド(Escape from Spiderhead)」だ。同作はジョージ・ソーンダーズの短編小説を出典とするSFスリラーで、初出はニューヨーカー(The New Yorker)だった。同じくNetflixで配信されることが決まっている「ラスト・チャンス:バスケ編(Last Chance U: Basketball)」も、GQの2014年の記事をベースにしている。この作品は、エミー賞を受賞したカレッジフットボールシリーズ「ラスト・チャンス(Last Chance U)」のスピンオフドキュシリーズだ。
昨年はコロナ禍により中止となったメット・ガラ(Met Gala)。だが今年の秋に、新たなライブプログラミングとともに帰ってくることが決まっている。パート1は「イン・アメリカ:ア・レキシコン・オブ・ファッション(In America: A Lexicon of Fashion)」で、今年9月に開催される。パート2の「イン・アメリカ:アン・アンソロジー・オン・ファッション(In America: An Anthology on Fashion)」は2022年5月に開催が予定されている。一方、ヴァニティ・フェアのオスカーパーティは、カスタム動画コンテンツとシリーズをさらに充実させて、2022年に帰ってくることになっている。
A+Eネットワークス
ニューフロンツ初登場のテレビネットワーク、A+Eネットワークス(A+E Networks)は2019年後半からさまざまな無料の24時間体制・広告支援型ストリーミングチャンネルのローンチに取り組んできた。そしてこれらのチャンネルが、売上とオーディエンスを拡大するための新たなチャンスを同社にもたらしてきた。
A+Eネットワークスでアドバンストアドバタイジングおよびデジタルセールス部門のシニアバイスプレジデントを務めるイーサン・ヘフトマン氏は、同社の目標は「消費者がアクセスしたい場所」にコンテンツを配信することだと述べた。そして「彼らがどのプラットフォームを利用するのか? それについては、我々の力ではどうすることもできない。だから我々は、彼らがメディアを消費している場所がどこであれ、そこにコンテンツとブランドを届けようとしている」と付け加えた。
A+Eネットワークス初のニューフロンツでのプレゼンテーションは「TVエブリウェア(TV everywhere)」と銘打たれた。そこで発信された最大のメッセージが、ヘフトマン氏のこの発言だった。TVエブリウェアとは、自社が所有・運営するサイトとアプリ、従来型・ストリーミング型の有料TV、広告支援型ストリーミングサービスで、A+Eネットワークスのコンテンツを視聴できるようにする取り組みのことだ。ストリーミングネットワーク以外では、この「TVエブリウェア」コンセプトの一環として、オーディオとソーシャルのオーディエンスの拡大や、広告主獲得のチャンスについてのディスカッションも行われた。
同社が所有するA&Eやライフタイム(Lifetime)、ヒストリーチャンネル(History Channel)などのチャンネルにおける新たな番組編成については、俳優のモーガン・フリーマンがプレゼンテーションに参加して、自身が出演するヒストリーチャンネルの最新シリーズ「グレート・エスケープス(Great Escapes)」の番宣をおこなった。同シリーズでは「これ以上にないほど大胆な脱獄劇」が取り上げられることになっている。まもなく配信開始されるドキュメンタリーシリーズ「リンカーン(Lincoln)」には、リンカーン元大統領に関する実験的なデジタルコンテンツも含まれている。A+Eネットワークスでマルチプラットフォームプログラミング部門担当責任者およびエグゼクティブバイスプレジデントを務めるポール・カバナ氏によれば、同社は今後、デイリーコンテンツを拡大していく予定で、「ディス・デイ・イン・ヒストリー(This Day in History)」などの番組や、スマートスピーカーを使ったフラッシュブリーフィング、ショートフォームコンテンツなどをテレビまたはオンラインで展開していくという。
A+Eネットワークスでデジタルメディアセールス部門のバイスプレジデントを務めるステイシー・ダンジス氏によれば、同社の各種アプリは1億3700万ダウンロードを記録しているという。また、同社の動画のデジタルとソーシャルの全プラットフォームにおける年間の視聴回数は90億回に達していると、同氏は述べた。大画面視聴の60%をコネクテッドTVが占めており、視聴全体の26%をビデオオンデマンドが占めているという。ダンジス氏によれば、同社は近年、女性映像クリエイターの起用に力を入れており、多種多様な背景を持つ女性たちを演者と制作スタッフに抜擢しているという。
テグナ
ローカルブロードキャスターのテグナ(Tegna)も、今回がニューフロンツ初登場となった。同社は2020年、米国内の64のローカルメディアプロパティを介して、70万本以上のデジタルコンテンツを配信、広告主に240億インプレッションをもたらした。テグナの各種デジタルプラットフォームには、毎月平均7000万人近くのユニークビジターが訪れて、78億分の動画を消費した。
テグナの発表によれば、同社は今後、リニアTVとストリーミングのキャンペーンのパフォーマンスを測定するためのアトリビューションソリューションを拡大していくという。自動車業界と旅行業界に向けては、各業界に特化したパフォーマンスデータを提供していく。こうしたカテゴリーの広告主は、テグナとプレミオン(Premion:地域・地元の広告主向けCTV広告ソリューション)で実施したキャンペーンの売上データと指標にアクセスできるようになる。同社の広告分析サービスであるテグナアトリビューション(TEGNA Attribution)は2021年初夏、金融情報企業のIHSマーキット(IHS Markit)と提携して、自動車広告ソリューションをローンチすることになっている。また、メディア測定プラットフォームのアライバリスト(Arrivalist)と提携して、ジオロケーションインテリジェンスデータを活用して、ロケーションアトリビューションソリューションを旅行関連の広告主に提供することも決まっている。
ベライゾン・メディア
ベライゾン・メディアといえば、プライベートエクイティ企業、アポロ・グローバル・マネージメント(Apollo Global Management)への売却と、「ヤフー」へのリブランディングのニュースが巷を騒がせている。そんなベライゾン・メディアのプレゼンテーションには、CEOのグル・ ゴウラッパン氏(同氏は新会社でもCEOを務めることが決まっている)が登場し、同社の現状について語った(同氏のジャケットに描かれたヤフーのロゴには、まだ「!」がついていたが、リブランディングの一環で、いずれ消えることになっている)。「これからも成功し続けるために、ベライゾンの最良の部分を残し、学んだことを新会社の米ヤフーに注ぎ込む」と同氏は述べた。
ベライゾン・メディアもまた、ショッパブル動画の可能性についてのディスカッションをおこなった。プレミアムセールスおよび戦略部門担当責任者およびバイスプレジデントを務めるマリン・ジャクソン氏によれば、昨年の成長率は40%だったという。また同氏の口からは、没入型コンテンツやブランデッドコンテンツ 、AR広告をはじめとする、いまのデジタルのフラットな世界を超えた体験の未来についても語られた。
米ヤフーのニュース、ファイナンス、スポーツ、ファンタジースポーツなどのバーティカルのもとで提供される同社のコンテンツサービスのディスカッションに続き、米ヤフースポーツ司会者のジャレッド・キー・キャンベルがNFLクォーターバックのラッセル・ウィルソンともに登場した。米ヤフーのレポーターで司会者のブリトニー・ジョーンズ=クーパーから、ベライゾン・メディアと提携する広告主が同社のDSPを介して利用できる多種多様な広告プロダクトについての概要が説明された。なかでもとくに力説されたのは、間近に迫るCookieレスな未来に向けた2つのソリューションだった。ひとつは、ファーストパーティのアイデンティティデータをベースとする「ConnectID」で、モバイル、CTV、あるいはデジタル屋外広告(DOOH)のユーザー最大5億人をターゲティングできる。そしてもうひとつは、コンテクスチュアルターゲティングプロダクトの「Next-Gen Solutions」だ。
米ヤフーファイナンスのアンカー、マイレス・ウトランドも登場し、ベライゾン・メディアとクーラー・スクリーンズ(Cooler Screens) の提携について述べた。クーラー・スクリーンズは店舗用冷蔵ショーケースのガラスを、広告を表示できるデジタルスクリーンに代える事業を展開している。同氏によれば、今年8月までに2000枚のスクリーンを展開して、5500万人の顧客にリーチする見込みだという。
[原文:Cheat Sheet: Shoppable video and cookieless targeting steal the show on the second day of NewFronts]
SARA GUAGLIONE(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)