7月中旬、Chrome115のリリースを終えたGoogle。待望のプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の追加アップデートも、準備が整ったところだ。 5月のタイムライン更新に続き、Googleでは現 […]
7月中旬、Chrome115のリリースを終えたGoogle。待望のプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の追加アップデートも、準備が整ったところだ。
5月のタイムライン更新に続き、Googleでは現在、Chromeユーザーに向けてプライバシーサンドボックスAPIを徐々に展開する予定で、7月の約35%を皮切りに、8月には60%に拡大し、9月から10月までに99%を目指す。
今年の秋には、サンドボックスのテスト終了に伴い、Chromeの次のバージョンを展開する予定だ。さらには、現在使用しているサンドボックステスト版コントロールを置き換えるために、広告プライバシーコントロールの更新も計画しており、追加技術情報リリース予定の8月中旬には、交換が実施されることになる。
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CMAとの連携
Googleは更新情報のブログ投稿で、APIの出荷もサンドボックスのタイムラインにおける「重要なステップ」であると伝えている。サンドボックスの6つのサンドボックスAPIには、Topics API(インタレストベース広告の信号を生成)のほか、サードパーティのトラッキングなしでオーディエンスをリターゲティングできる専用APIや、キャンペーン用アトリビューションの提供方法を供給するAPIがある。
Googleは、「これで、オリジントライアルでテストを実施していたサイトから、生産時にAPIを統合したサイトへの移行が開始できる」とブログに投稿し、「今後も引き続き、弊社のコミットメントに基づき、競争・市場庁(CMA)と密接に連携したうえで、非推奨拡大のステップに踏み出す」と記している。
今回の更新の数週間前には、英国のプライバシー監視の指導的立場でサンドボックス開発の監督を担う競争・市場庁(CMA)が、サンドボックスの試験に対して新たなガイドラインを発表している(サードパーティCookieを排除すると、パーソナライズ広告に依存する企業で、新たな競争がもたらされるのではないかという懸念が生じているが、Googleは2021年、その懸念に対処するためCMAの監視強化に同意した)。
今回のガイドラインによると、テスト結果の報告は、とくにアドテク企業と関連があるだけでなく、CMAが実施する「プライバシーサンドボックスが競争に関する我々の懸念を払しょくする方法として設計されているのか評価する」のにも役立つ。
Googleをはじめとするデジタル広告の巨大IT企業は今後も、プライバシーと競争の問題に関連して、欧州と米国におけるさまざまなデジタル広告事業で、ますます厳しい監視に直面することになる。2023年6月には、欧州委員会がGoogleの広告事業がEUの反トラスト法に違反しているとして、同社に対し新たな訴訟を起こし、Googleの強大なアドテク事業を解体する可能性も示唆した。
一方、裁判所や政治家や規制の監督省庁などさまざまな組織が、Google以外の企業による広告目的のデータ収集の手段に圧力をかけている。たとえば、ノルウェーではメタ(Meta)の行動ターゲティング広告に新たな規制がかけられた。また、フランスでは個人データの処理に対してアドテク大手のクリテオ(Criteo)に罰金が科されている。
データを握っているのは依然としてGoogle
一部のマーケターからは、GoogleとAppleの新しいプライバシー対策はユーザーのプライバシーではなく、自社の事業を守るためではないかいう声も挙がっている。ダラス本社のエージェンシー、ジーニアス・デジタル・マーケティング(Genius Digital Marketing)の創業者で戦略部門の統括も担うアーロン・メツガー氏は、「すべてのデータを握っているのが依然としてGoogleであることを考えると、Googleの話はすべてが、まやかしのように思える」と話す。しかしながら、GoogleもAppleも利益のあがる広告がほしい状況は変わりがないため、広告の効果に大きな影響が出るとは思わないという。
「私たちのプライバシーを高めるために、データを利用できないようにする巨大IT企業などいない」とメツガー氏は言い、「そういう話ではないのだ」と言い添えた。
米DIGIDAYがアップデート情報の深掘りでGoogleにインタビューを求めたところ、残念ながら断られた。Googleではこれまで2年間にわたりサンドボックスの開発に遅れが出ているため、アドテク業界では、先に進むべきなのか、このまま様子を見るべきなのか決めかねている企業が見受けられた。
サンドボックスがマーケティングの未来図の一角を担う?
一方で、サンドボックス内で使うプログラムの構築をすでに始めた企業もある。たとえば先月の2023年6月、モバイル計測ソリューション最大手のアップスフライヤー(AppsFlyer)は、プログラマティックDSPのリマージ(Remerge)と提携し、モバイル市場向けアンドロイド専用ツールを作ることにしたと発表している。
「この業界にしてみれば、Googleがサンドボックスを展開してから既存のIDを削除するまでのこの期間が頼りの綱だ」と、アップスフライヤーの製品担当バイスプレジデントであるロイ・ヤナイ氏は話す。
ヤナイ氏によると、Googleの手元にはアップスフライヤーが提供したフィードバックがあり、すでにそれがサンドボックスに反映されているという。たとえば、アップスフライヤーは、「アプリ開発企業が最初のクリックもしくは最後のクリックで、自社のプログラムやアトリビューションを自己評価できないようにサンドボックスを修正できないか」という問題を提起した。すると、Googleはすでに更新を行い、開発業者が1度ではなく2度アプリをダウンロードしても、アプリインストールキャンペーンで2度支払いをしなくてもすむように修正されていた。しかしながら、「クロスプラットフォームやクロスデバイスの可能性を盛り込むなど、ほかの分野にもまだ改善の余地がある」と、同氏は見ている。
「いろいろと指摘はあるものの、サンドボックスは堅牢なソリューションだ」とヤナイ氏は言う。「今後、ひとつのアトリビューションソースだけに依存することにはならないと思う。サンドボックスしかないという未来図は描けないが、サンドボックスがマーケティングの未来図の一角を担うのは間違いない」。
プライバシー保護の取り組みやユーザーの習慣を変えるには時間がかかる
「サンドボックスが使われるようになると、Googleがもっと強くなるだけだ。ユーザーのプライバシーを適切に守るというよりも、すべてのデータをGoogleが独り占めできるようになるのだから」と話す人もいる。広告ブロッカーのゴースタリー(Ghostery)でCEOを務めるジャン=ポール・シュメッツ氏は、「Chromeアップデート内であっても一旦承諾してしまえば、Chromeユーザーは自分のプライバシーを完全に守れるわけではない」と話す。
また、「ユーザーはプライバシーが守られていると思うと、自分のデータの共有に同意する可能性が高くなる」とも言い、「同意するといっても、ユーザーが必ずしも細かい字で書かれた説明まで常に読んでいるとは限らない。たとえ100回『いいえ』をクリックしてきたとしても、どこかで1回『はい』をクリックしてしまえば、その『はい』が永遠に残ることになる」と続ける。
シュメッツ氏は、企業のプライバシー保護の取り組みやユーザーの習慣を変えるには時間がかかると指摘する。さらに、「見えないものを見えるようにすることも重要だ」と付け加えた。見えないものが見えれば、自分の決断がオンラインで何を意味するのか、また、その決断が目の前のWebサイトやアプリだけでなく、それ以外にもどのような影響を与えるのか、そういったことに対して理解が深まるからだ。
「シートベルト着用を促すのに少し似ている」とシュメッツ氏はたとえる。「これは実現に何年も何年もかかる社会の変革だ。損害が毎日見えないため、何がどうなっているのかそれほどよくわからない。トラッカーが毎日見えなければ、その損害も見えない。見えないものは、どうしても忘れやすくなる」。
[原文:With the release of Chrome 115, Google readies to enable Privacy Sandbox’s APIs]
Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)