マーケターが監査を実施する際に直面する、アドテクの永遠の課題が、「データマネジメントプラットフォーム(以下、DMP)には手間をかけるだけの価値があるのか」だ。その答えはイエスかもしれない。新世代のDMPは、サードパーティCookie後の識別子を使用している。
監査に注目が集まるのは、物事がうまくいっていないときだけだ。したがって、マーケターたちが今、激震の走るアドテクスタックの監査に躍起になっているのもうなずける。なぜなら、これまでテクノロジーの進化を支えてきたデータから、Cookieやモバイル識別子が失われつつあるからだ。
マーケターが監査を実施する際に直面する、アドテクの永遠の課題が、「データマネジメントプラットフォーム(以下、DMP)には手間をかけるだけの価値があるのか」だ。その答えはイエスかもしれない。
これまでのDMPの概念は看板倒れだった。DMPは規制強化や、それに対してGoogleやAppleといった企業がとる対応についていけていなかった。理由は明らかだ。DMPは、個人の許可なく収集・共有されることの多いサードパーティデータをもとに構築されており、プロセスが不透明で、データをうまく可視化できていなかった。セールスフォース(Salesforce)、アドビ(Adobe)、オラクル(Oracle)の初期のデータマネジメントソリューションが廃れた事実が、このことを裏付けている。かつてはマーケターの必須アイテムだったDMPだが、やがて嫌われるようになった。
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新世代のDMPという希望
しかし、時代は変わる。新世代のDMP、少なくともアドフォーム(Adform)やパーミューティブ(Permutive)といった企業が提供するものは、サードパーティCookie後の識別子を使用している。
こうした新たなソリューションでは、個人識別情報(PII)や認証済みデータセットが共通通貨となっている。決定論的ID管理が標準化され、ソフトウェア開発キット(SDK)を介したファーストパーティCookieとモバイル識別子の確立が広く行われている。GoogleがCookie廃止を延期したことで、この問題への注目はかえって高まった。すべてのマーケターが関心をもっているわけではないが、憂慮しているマーケターは、来るべき混乱に備え、先手を打とうと模索している。
マーケターがDMPに変化を促しているという側面はある。マーケターがデータとその管理方法に対して抱く期待は、プライバシーへの懸念の高まりとともに変化してきた。賢明なマーケターはさらに先を行っている。彼らは一部のテクノロジーがすでにプライバシー保護規制準拠とは言えなくなっている可能性を考慮し、再検討に入っているのだ。そうすることで、彼らはパブリッシャーとの関係を再構築しつつある。
「マーケターからのブリーフィングにこれがある」と、オーディエンスプラットフォームのパーミューティブでCEOを務めるジョー・ルート氏はいう。「マーケターはもう、我々がどんなサードパーティデータを提供できるかを聞いてきたりはしない。彼らの関心は、我々がどのような形でパブリッシャーとの統合を提供し、そこからセカンドパーティデータ関係をどう構築するかにある」と述べる。
ファーストパーティデータに基づいたこうした取引で、サードパーティCookieを失うことによる損失は軽減できる。そしてDMPは、パブリッシャーと広告主が直接データを共有する際の中心的手法となりうる。「我々がDMPからオーディエンスプラットフォームへと進化したのは、パブリッシャーとの関係をより深め、彼らのデータセットとそれに付随する同意やマネジメント、またデータ管理を容易にするツールやインフラへのアクセスを確立する必要があると認識したためだ」と、ルート氏は語る。
マーケターの関心の変化
しかし、こうした主張に懐疑的なマーケターもいる。彼らは、顧客データプラットフォーム(CDP)の登場により、DMPは不要になったと考えている。確かに、最近はどちらのテクノロジーも同じミッションを掲げている。リッチなデータとウェブ全体(に加えてほかのデジタルチャネル)に広がるスケールを組み合わせることで、広告主にこれまで通りのリーチを提供する、というものだ。
両者のプラットフォームに共通点はあるが、完全に同じではない。CDPはさまざまなソースからのデータ収集を容易にするが、広告主がサードパーティCookieの損失を補うために必要なパブリッシャーとのデータ取引を構築することは(少なくともDMPと同じレベルでは)不可能だ。したがって、CDPのテクノロジーが進化するなかでも、DMPはこうしたサービスを実現しているという価値を、継続的に示す必要がある。
OMD EMEAのデータマネジメントソリューション部門でマネージングパートナー務めるマイルズ・プリチャード氏は、「『DMPは死んだ』と言われがちだが、クライアントとの議論のなかでこうした言葉が出ることはない。彼らはトラッキングとプライバシーの両立を図るなかで、DMPのテクノロジーを引き続き活用していくことを考えている」と語る。「マーケターがDMPのテクノロジーに求めるものは本質的に変わっていない」。
しかし、DMPに対するマーケターの期待には変化がみられる。こうしたテクノロジーで何を達成できるのかについて、より現実的な見方をするようになったのだ。このことはブリーフィングからも読み取れる。マーケターの関心は、単なるデータ管理だけでなく、データの充実にも向けられている。
ツール自体も大きく進化
変化したのはマーケターだけではなく、ツール自体も進化している。第1世代のDMPは宣伝過剰だった。数年前、DMPはデータを黄金に変える錬金術の鍵となるツールだと謳われた。しかし、多くのマーケターはその実現には至らず、リターゲティングや顧客獲得といった実用的な広告業務に使用した。
「アドテクスタックの監査が大いに話題になっているのは、マーケターが、DMPのように設定不要ですぐに使えるソリューションを購入した場合でも、導入には専門家や優秀なアカウントマネージャーが必要だと認識している証拠だ」と、アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)のビジネスインテリジェンス担当バイスプレジデント、ローレン・フィッシャー氏は述べる。
GoogleがCookie廃止を延期したにもかかわらず、データマネジメント企業の1プラスX(1plusX)とマーケターのあいだで対話が継続されているのもそのためだ。対話は「現在も進行中」であると、1プラスXのCEO、ユルゲン・ギャラー氏はいう。
マーケターの現在の希望は、1プラスXのDMPが、IDベースのデータ(Cookieやハッシュ化されたeメールなど)とIDレス(ユーザー識別子なしの年齢層別ターゲティング)のミックスで機能するようになることだ。「これこそ新世代DMPのミッションだ。マーケターは既存顧客のターゲティングだけに制限されることを望んでいない」と、ギャラー氏は話す。
すでに効果を実感しているマーケターもいる。ギャラー氏によると、4月以降、1プラスXのDMPテクノロジーを利用しているドイツの広告販売企業アドアライアンス(Ad Alliance)からインプレッションを購入したマーケターは、ターゲットである20~39歳のドイツのモバイルユーザーのうち、最大70%にリーチすることができた。一方、標準的なネットワークキャンペーンでは32%にとどまった。
「今日のマーケターにとって、DMPは適切なオーディエンスを特定できるが、それは従来のようにデータマーケットプレイスを通じてではない」と、ギャラー氏はいう。「そうしたオーディエンスは、我々が提供するようなテクノロジーを利用して構築した、パブリッシャーと直接の関係を通じて発見できる」。
もはや脱Cookieは既定路線
アドフォーム(Adform)の幹部も、これと同じ考えをもっている。アドテクベンダーのDMPソリューションに対する関心は、2020年にファーストパーティIDに基づく運用が可能な形に再構築されて以来、高まる一方だ。ユースケースはこれまでと同様、異なるデバイスやプラットフォームの異なるタッチポイントをつなぎ合わせるというものだ。しかし現在、こうしたソリューションが扱うデータソースは、IDの有無を問わずますます多様化している。
アドフォームの英国およびベルギー・オランダ・フランス担当カントリーマネージャー、フィリップ・アクトン氏は、「ファーストパーティIDを基盤としたプラットフォームの再構築は、ID5などのプロバイダーや、ユニファイドID2.0などのログインプロバイダーだけでなく、パブリッシャーIDも視野に入れておこなわれている」と語る。さらに今年の夏、同社のプラットフォームは広告主からのファーストパーティIDへの対応を開始した。
これにより、ファーストパーティIDをベースにしたオーディエンスモデルをセグメントの基礎として構築でき、DMPを通じたファーストパーティIDの共有に前向きなほかのパブリッシャーの媒体上で、これをターゲティングに利用できる。一方、パブリッシャーにとっては、マーケターとの直接のルートを開拓し、データに基づいて自社のインベントリー(在庫)にプレミアムを付与するチャンスとなる。
「全体としてマーケターの反応は上々だ」と、アクトン氏はいう。サードパーティCookieの余命が少し伸びたおかげで、こうしたDMPにマーケターが寄せる関心もやや伸び悩んでいるのは確かだが、だからといって脱Cookieという業界全体の方向性に変化はないと、多くのマーケターは受け止めている。「我々と仕事をした大規模で経験豊富なブランドからは、我々のDMPに関して現在の取り組みを継続したいという声を聞いている」と、アクトン氏は語る。
新世代DMPも課題を抱えている
一方で、新世代DMPも、広告業界の根底にはびこる緊張関係が原因で、長期的には旧世代と同じような課題に直面するだろう。
CDPのブルーコニックで最高執行責任者を務めるコーリー・マンチバッハ氏は、「大規模なスケールを前提にそれに依存し、サードパーティデータと密接に結びついてきたこの業界では、『次世代』も依存としてデータ管理に縛られており、ウォールドガーデンの気まぐれや、必然的に規制強化に向かう政府の傾向に左右されることになる。こうしたソリューションは応急措置にはなるが、マーケティングの将来性を高めることも、疑わしい同意データに伴うリスクを軽減することもできない」と述べた。
[原文:What is the fate of DMPs in a post-cookie world?]
SEB JOSEPH(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)