2022年に起きたバレンシアガをめぐる物議のあと、バレンシアガのデザイナーであるデムナ氏は教訓を学んだようだ。2月9日、ヴォーグ誌のインタビューで挑発的な作品を発表してきた経歴について語ったが、コレクションを取り巻く話題や議論にフォーカスし過ぎたゆえにメイン製品である服を犠牲にしてしまったかもしれないと認めた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
2022年に起きたバレンシアガ(Balenciaga)をめぐる物議のあと、バレンシアガのデザイナーであるデムナ氏は教訓を学んだようだ。2月9日、ヴォーグ誌のインタビューで同氏は挑発的な作品を発表してきた経歴について語ったが、コレクションを取り巻く話題や議論にフォーカスし過ぎてしまったがゆえにメインの製品である服を犠牲にしてしまったかもしれないと認めた。
「自分のファッションのルーツ、そしてバレンシアガのルーツに戻ることに決めた。つまり、イメージや話題を作るのではなく、高品質の服を作るということだ」と同氏はヴォーグ誌に語っている。
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しかし、見世物的要素の高いスペクタクルにますますフォーカスする業界と、TikTokフィードの果てしないスクロールのなかでブランドが注目されるためには競合せざるを得ないメディア環境において、衣服そのものがそのストーリーを語ることはできるのだろうか。
話題作り重視の最近のショーの例
最近のランウェイイベントを振り返ってみると、スペクタクルが現代のファッションの主要な要素であることが見えてくる。昨年10月のパリファッションウィークでベラ・ハディッドがまとったコペルニ(Coperni)のスプレーオンドレスが思い浮かぶ。販売のためではないのは明らかだ。また、ショーと話題作りのためだけに用意されたスキャパレリ(Schiaparelli)のライオンの頭部がついたドレスもあった。このようなモーメントはバイラルになる一方で、同じイベントで披露されたほかのコレクションは注目もされなかった。
アナザートゥモロー(Another Tomorrow)のクリエイティブディレクター、リズ・ジャルディーナ氏は、デザイナーがストーリーテリングやマーケティングに注力して服が二の次になってしまうことは簡単に起こり得ると述べている。
「デザイナーが挑戦できる手段は2つある。実際の人が着るものをデザインするか、デジタルプラットフォームで見られるためにデザインするかだ」とジャルディーナ氏。「ファッションで興味深いのは、製品と身体の関係、人々がどのように服を着るかということ。それを見失うと顧客を見失うことになる」。
話題性の追求はブランドにとってマイナスか
ジャルディーナ氏は、バイラル性にフォーカスするとブランドの持続的な信用を傷つける可能性があると語っている。大規模で派手なショーのためにスキャパレリのライオンドレスのような使い捨ての服を取り入れる必要がしばしばある。アナザートゥモローはラグジュアリーファッションとしての信頼度を高めようと努めており、それはジャルディーナ氏によると同社の主な目標だという。ジャルディーナ氏は、他ブランドの失敗を繰り返すことなく、グッチ(Gucci)のような話題のラグジュアリーブランドの成功を再現する方法を模索している。これはNYFWにプレゼンスを持つことであるが、控えめなプレゼンテーションでそれを行うという意味だ。つまり、スプリングスタジオでの騒々しい、そして制作費も高いランウェイショーの代わりに、アナザートゥモローが2月13~14日にマーサーホテルで開催したショーのように。
ショーを行わなかったタナーフレッチャーの例
話題目当てのハイプ(誇大宣伝)を構築するという過酷な仕事から距離を取り始めているブランドも存在する。タナーフレッチャー(Tanner Fletcher)の2人のデザイナーのひとりであるフレッチャー・カゼル氏によると、多大な時間を費やすようになったという理由で、今シーズンはランウェイショーを行わないことにしたと述べている。
「ショーを行うのは大変な作業であり、最終的には(それが理由で)完璧な製品を生み出すための時間が奪われているように感じた」とカゼル氏。
だが、カゼル氏はデザイナーは服以外のことを考えるべきではないという考えも否定する。
「デザイナーには行き過ぎの人も確かにいるが、自分の服についてのストーリーを伝えたいという気持ちはあり、ショーやキャンペーン、マーケティングはそれを行うのに重要な部分を占めている」とカゼル氏。「もちろんフォーカスは服であるべきだが、仕事の半分は服にまつわるストーリーを語ることでもある」。
消費者に注目されるためにブランドが感じているプレッシャー
ブランドが、もっと注目され、物議を醸しさえするような瞬間を生み出すというプレッシャーを感じている理由のひとつには、メディアエコシステムの分断された性質がある。メッセージを発信したいブランドはインスタグラムやTikTok上の莫大な量のコンテンツと競い合わなければならない。このようなプラットフォームの有料広告費は急騰している。2021年〜2022年のあいだにメタ(Meta)では61%、TikTokでは185%アップした。スタントキャスティングと意図的に物議を求めることにより推進される有機的瞬間は、メッセージを発信する方法としては費用対効果が高いものになっている。
デジタルエージェンシー、ジャヌアリーデジタル(January Digital)の戦略・コンサルティング担当シニアバイスプレジデント、ティアニー・ウィルソン氏は次のように述べている。「ファッションブランドが限られた数の製品で収益の大部分を生み出すビジネスモデルに陥ったら、市場での地位を維持し、新しいオーディエンス、多くの場合にはもっと若いオーディエンスを魅了し、拡大した製品カテゴリーに対する興奮を生み出すために、スペクタクルに依存することになる。ブランドの健全性と関連性を長期的に維持するためには優れた製品とユニークな視点の両方を支援するクリエイティブな方向性が不可欠だ」。
[原文:In the post-Balenciaga controversy era, can clothing speak for itself?]
DANNY PARISI(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)