2020年、Shopify(ショッピファイ)はその地位を強固にした。その要因は、イーマーケター(eMarketer)のアンドルー・リプスマン氏いわく「反Amazon戦略」であり、同社は「出店業者に寄り添う姿勢を明確にしており、それが多くのリテーラーのプラットフォーム依存体質と非常に馴染みが良かった」という。
数週間前、Shopify(ショッピファイ)のCOOハーレー・フィンケルシュタイン氏は、同社はいまや「第2のオンラインリテーラー」と言えるのではないかと自賛しつつ、注目に値する断りを入れた――「あくまで、我々をリテーラーと見なしてくれるならば、の話だが」。
どちらも氏の言うとおりであり、後者は事実を認める、という本音でもある――数年前ならば、まず口にしなかったであろう言葉だ。この約10年、Shopifyはゆっくりと成長を続けており、出店業者の発展を後押しする、徹頭徹尾実利的な、物言わぬバックエンドツール、という立ち位置を固めてきた。そして昨年、同社はついに一大帝国となった。しかも現在、さらに多くの出店業者を呼び込むプログラムも展開しており、いまやeコマースの新たなデフォルトとなっている――さらに、単なるD2Cブランドに留まらず、既存の枠を越えていくための壮大な計画も立てている。
コロナ第1波の襲来とともに、Shopifyはその地位を強固にした。2020年第1四半期、同社の収益は47%増の4億7000万ドル(約494億円)を記録し、新規出店者数は62%の伸びを見せた。そして第3四半期には、それが前年比96%増の7億6740万ドル(約808億円)にまで跳ね上がった。無論、ほかのeコマース勢も同様の成長を遂げた。たとえば、Amazonは37%増の961億ドル(約10.1兆円)を報告している。ただしAmazonの場合は、コロナ禍によりサプライチェーンに支障が生じ、同社のビジネス手法に対する監視が強化されるなか、受ける圧力も増している。
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Shopifyは一方、すくすくと成長できた。その要因は、市場調査会社イーマーケター(eMarketer)の主席アナリスト、アンドルー・リプスマン氏いわく「反Amazon戦略」であり、同社は「出店業者に寄り添う姿勢をきわめて明確にしており、それが多くのリテーラーのプラットフォーム依存体質と非常に馴染みが良かった」という。
プラットフォーム依存を裏で操る
事実、全米がコロナ第1波に襲われるが早いか、Shopifyは中小企業のためのプラットフォーム、という立ち位置を明確にするべく、新たなプログラムおよびマーケティングを開始した。そのひとつが、それまでオフライン中心だった企業のオンライン化を容易にする新たなテンプレートの提供だった。「コロナ禍が始まってすぐに、オフライン中心の企業がオンライン化を始めようとしていることを示す動きがはっきりと見えた」と、Shopifyリテール部門トップ、イアン・ブラック氏は2020年7月、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)に語っている。
同社は出店業者が切に欲していたリテールサービスの援助に注力した。2020年2月、英語圏におけるShopify出店業者のうち、インストアまたはカーブサイドピックアップを提供していたのは、わずか2%だった――7月には、25%以上が同サービスを行なっていた。
「障害となっていたのは、クリック&コレクトだった」と、リプスマン氏は言う。「多くの出店業者にとって、そこはデジタル化が非常に難しい」。そこでShopifyは、顧客へのこうしたサービス提供を目的とした同プラットフォームの利用もありなのだと、リテーラーに周知するべく尽力した。
その一方で、D2Cチャンネルの理解に積極的な大手企業の取り込みにも励んだ。その結果、たとえばトマトケチャップで知られるハインツ(Heinz)やメキシカンレストランチェーン、チポトレ(Chipotle)もShopifyが運営するオンラインサイトを立ち上げた。
同社のプラットフォームを利用してオンライン化を進める企業が増えたことを受け、Shopifyはさらに、提供するサービスの拡充も始めた。たとえば、企業向け融資部門Shopify Capital(ショピファイ・キャピタル)は2020年第3四半期、前年比79%増となる2億5210万ドル(約265億円)の貸付を行なった。
Shopifyはまた、領地拡張を狙い、新たなサービスも試験的に開始している。たとえば、依然ベータ版ではあるが、同社のフルフィルメントネットワークは成長を続けている。戦略はいたってシンプルだ。米アパレルのアバクロ(Abercrombie & Fitch)やアメリカンイーグル(American Eagle)など、苦境に喘ぐリテーラーがかつて使用していた倉庫を見つけ、eコマースフルフィルメントセンターに作り替え、「より効率的な倉庫に生まれ変わらせた」と、フィンケルシュタイン氏は言う。
現在、協力業者は10社ほどだが、着々と増えており、同社は一定地域のカバー率を上げるべく、いわゆるノードの追加を続けている。約10という数字は確かに少ない――eコマースデータ分析会社マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)の概算では、Amazonトップセラーの85.5%がAmazonのフルフィルメントセンターを利用している――が、Shopifyはこれについて、いきなり大きく手を広げる前に、いまは必要な要素をすべて揃えている段階だと反論する。
そして、彼らの言う「必要な要素」とはすべて、Amazonを反面教師としたものだ。社内の回転機構を安定させる、いわばフライホイールを拡大し、ひとつの巨大チャンネルに顧客を誘い込むAmazonに対し、Shopifyは真逆の戦略を採っている。「Amazonのセラーはすでに、ブランド/業者の個々のサイトで購入する消費者がますます増加しているという、厳然たる事実に気づいている」と、マーケットプレイス・パルスの創業者/CEO ジョー・カイズクーナス氏は書いている。「Shopifyは図らずも、そうしたサイトを立ち上げるための人気ツールとなっている」。
そうした反Amazon的要素の数々と、それを可能にする補助サービスを提供するなか、Shopifyは外から見えない人形遣いのように、業者のプラットフォーム依存を裏で操り、その地位を固めつつある――要は、使いやすいからだ。フィンケルシュタイン氏も2020年7月、モダンリテールのポッドキャストで説明しているとおり、増し続ける強大な力を出店業者のために使う、それが彼らの戦略だ。「絶大なボリューム、絶大なGMV(グロスマーチャンダイジングボリューム/流通取引総額)を手にしたいま、我々はそのスケールメリットをShopifyの出店業者に還元していく」と氏は語っている。言い換えると、こうなる――Shopifyは実に大きく成長した。それゆえ、採算の合わないムーンショット的なサービスも出店業者に提供するだけの力がある。
Amazonでさえ、この潮流の変化に気づきはじめている。報道によれば、同社はプロジェクト・サントス(Project Santos)と題した新事業を立ち上げており、その目的はShopifyのビジネスモデルの模倣にあるという。だが、こうした試みは皮肉にも、Amazon全体のビジョンの弱体化に繋がる。カイザクーナス氏が書いているとおり、「Amazonのビジネスの主眼は、より多くの人々にAmazonで買物をさせることにある。ブランド各々に店舗を構えさせるツールの構築はおそらく、多少の収益は生むであろうし、Prime(プライム)メンバーには利益をもたらすかもしれないが、Amazon自体を動かすフライホールに燃料を注ぐことにはならない」。
新たなデフォルト
昔、eコマースプラットフォームの選択はきわめて難しかった。エクスペリエンスの完全掌握を望む業者はMagento(マジェント)を選んだだろうし、ユビキタスで手軽であるとの理由からWordPress(ワードプレス)を選ぶところもあった。だが2021年、「Shopifyはまさにデフォルトだ」と、eコマースジェージェンシー、ネタリコ(Netalico)のCTOマーク・ルイス氏は言う。「MagentoやWordPress、BigCommerce(ビッグコマース)に行く者には、それぞれに何かしら事情がある。そうでなければ、基本的にShopifyが第一の選択肢だ」。
ただ、そんな急成長のせいで、Shopifyにもいくつか問題は生じている。たとえば「彼らはいま、急増するサポート需要に応えきれていない」とルイス氏は指摘する。Shopify Plus(ショッピファイ・プラス)――同社の最上位プラン――は特典のひとつとして、問題が生じた際、直接かつ迅速なサポートを利用者に約束している。コロナ禍以前、サポートに繋がるまでの待ち時間は数分だった。だがいまは、ルイス氏によれば、数百万ドル(数億円)を売り上げる出店業者でさえ、最長20分も待たされる状態であり、これは以前と大きく変わった点だという。
だがそれでも、Shopifyをデフォルトとして選ぶ新規クライアントの増加は止まらないと、氏は続ける。「インバウンドはShopifyが圧倒的に多い。口コミ、紹介/推薦の威力が絶大だ」。
業者人気を不動と言えるほど高めたいま、Shopifyはさらなる成長を目指し、また別の新たな道も探っている。彼らがeコマースの新たなフロンティア候補として目を付けたのは、インフルエンサーだ。「オーディエンスを持つ重要人物を取り込み、オーセンティックな商品を通じてそのオーディエンスの営利化」を狙うと、フィンケルシュタイン氏は語る。すでに、ドレイク氏、カイリー・ジェンナー氏、ジェフリー・スター氏は各々の店舗でShopifyを利用している。なかでも、スター氏には2019年、新コスメラインをオンライン販売した際、Shopifyのサーバーがクラッシュするほど多くの顧客を集めた実績がある。
技術的問題はさておき、インフルエンサーは実際、Shopifyが目指すべき未開拓地と言えそうだ。2020年9月、同社はアディダス(Adidas)のYeezy(イージー)ラインの元統括、ジョン・ウェクスラー氏を雇用し、クリエイター&インフルエンサープログラムのトップに据えた。彼らが期待するのは、オーディエンスとコマースの融合だ――そしてその延長線上に、消費者にShopifyのプラットフォームを利用させる新手法の構築を見据えている。
この10億ドル(1000億円)規模のプロジェクトで、Shopifyは「オーディエンスを持ち、そのオーディエンスに直接販売できる重要人物」をすでに見つけていると、フィンケルシュタイン氏は言う。「今後、それをさらに押し進める術を探っていく」。
[原文:How Shopify became the new retail empire]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:SI Japan、編集:長田真)