大手食料品業者のエイチイービー(H-E-B)とアルバートソンズ(Albertsons)は、買い物できる調理動画を制作することで、オンラインの購入が促進されることを期待している。中国のようなソーシャルコマースに取り組む米国の小売業者たちの試みを取材した。
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大手食料品業者のエイチイービー(H-E-B)とアルバートソンズ(Albertsons)は、買い物できる調理動画を制作することで、オンラインの購入が促進されることを期待している。
毎週シェフが、エイチイービーの料理教室で、テキサス州の食料品店である同社の保有するブランドの材料と調理器具を使って世界の料理をすばやく作り、買い物客はFacebookのライブストリームから直接それらの材料や調理器具を購入できる。休業中の店舗にあったデモ用エリアの代わりとしてZoomではじまったこの試みは、ソーシャルネットワークやYouTubeでの定期的なバーチャルシリーズに発展した。一方でアルバートソンズは、自社ウェブサイトで直接、より短く事前に録画した購入オプション付きのビデオクリップを共有している。
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ソーシャルコマースへの期待
自社のeコマースビジネスを促進するため、ソーシャルコマースを取り入れる小売業者は増えている。これらの食料品店も新たに、買い物できるコンテンツを採用した企業のリストに名を連ねることになった。メイシーズ(Macy’s)、ウォルマート(Walmart)、パックサン(Pacsun)、セフォラ(Sephora)などの小売業者はすでに、Facebook、YouTube、TikTokなどのソーシャルメディア、専用のアプリ、そして自社ウェブサイト上で、買い物できるライブストリームを共有している。小売業者とプラットフォームは、この形式が中国と同様に成功することを望んでいるが、専門家たちは配信先の分断化から、最終的に米国における視聴者数と売上が失われる恐れがあると警告している。
エイチイービーは、昨年開始されたFacebookの買い物できるライブビデオ機能であるFacebookライブショッピング(Facebook Live Shopping)を使用した最初の食料品店だ。同社はテキサス州と北メキシコで380の店舗を運用しており、2020年11月からZoom、YouTube、Facebook上で58のライブストリームを共有した。同社のデジタルマーケティング担当上級ディレクターを務めるジョバンナ・ディンペリオ氏によれば、これらの動画の再生回数は平均30万回で、もっとも再生された動画は約50万回再生だった。
同社は昨年夏に、これらのクリップにおいてFacebookでの買い物を可能にした。その結果、通常のストリームよりも2倍から3倍のエンゲージメントを獲得。視聴者はバーチャル教室で材料や調理器具を買い、ソーシャルネットワークで直接チェックアウトできる。また、商品はほとんどの店舗やカーブサイド(注釈: ピックアップ可能なポイント)での受け取りにおいて、1時間以内に配送可能になる。現在のところ、品目はエイチイービーの保有する数多くのブランドの商品に限られているが、同社はより広範な小売メディアを提供する一貫として、外部のパートナーにも門戸を開くことを「判断中」だと、ディンペリオ氏は述べている。
同氏は、Facebookのライブストリームで次のように述べた。「シェフがキッチンを動き回るとき、触ったものはすべて購入可能になる。へらを取り上げても、混ぜたものをトレーに入れても、シェフが視聴者に見せたアイテムはすべて、購入可能な商品としてすぐにポップアップする」。
同社は最初、Googleやピンタレスト(Pinterest)で料理に関するオンライントレンドを調べて、コンテンツの形式を作成し、その後、テーマを絞ったクラスを追加していった。先日のスーパーボールと重なった週末には、シェフたちはレモンを入れたハーブチャツネ付き小エビのカクテル、ハラペーニョペッパー入りのベイクドポテト、焼いたシシトウとスモークアーモンドのルメスクなどのおつまみを調理した。
一強とはいかない配信先
ほかの食料品店は、少し異なるライブストリーミング戦略を採用している。エイチイービーのようなマルチプラットフォームのコンテンツ手法とは異なり、アルバートソンズは調理ビデオを自社の20を超えるスーパーマーケットブランドのサイトのみに限定している。これらのブランドには、アルバートソンズのほか、セイフウェイ(Safeway)、ボンズ(Vons)、ジュエルオスコ(Jewel-Osco)、ショウズ(Shaw’s)などがある。同社のテクノロジープロバイダであるファイアワーク(Firework)によれば、アルバートソンズは「食品界のピンタレスト」を作り上げようとしている。これらのスワイプできる調理クリップはTikTokの短尺動画を思い起こさせるもので、アルバートソンズは今年、ライブストリームも含むさらに多くのコンテンツの導入を計画している。
同社は34州とコロンビア特別区にわたって2278を超える店舗を抱えている。同社は2021年12月4日までの会計第3四半期のデジタル売上が、前年比で9%増加したと報告している。同社によれば、2年間ベースでのオンライン売上は234%も増加した。
エイチイービーとアルバートソンズがライブストリームコマースのトレンドに便乗する理由を推測するのは難しくない。中国で突出しているライブコマース供給者であるタオバオライブ(Taobao Live)は2020年に、流通取引総額が616億ドル(約7兆800億円)に達した。親会社のアリババグループ(Alibaba Group)によれば、同社のユーザーはこのプラットフォームで毎月平均230ドル(約2万6000円)を消費する。一方で、米国の消費者はこの年の後半にウイルスの感染件数が急増するにつれ、また自宅で調理するようになり、食料品売上の回復を引き起こした。
料理の動画により、食料品店はコンテンツへのアクセスしやすいゲートウェイを得られるが、すべての小売業者が消費者に対して自社のクリップを視聴するよう仕向けることができるということを誰もが信じているわけではない。エイチイービーとアルバートソンズが採用した配信方法がそれぞれ異なることは、米国のライブストリームコマースに単独のリーダーは存在しないという見解を強化するものだ。
コミュニティの感覚を育成
ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、中国を独占しているタオバオに匹敵するような単一の組織は欧米諸国に存在しないと、以前米モダンリテールに語った。さらに、消費者は買い物できるエンターテイメントを小売業者から直接受けることに慣れていないとも、同氏は付け加えた。
「ノードストローム(Nordstrom)などの小売業者は自社ウェブサイトでライブストリームのホストを試みたが、顧客にはエンターテイメントを見るために同社のサイトを訪れる習慣がなかった」と同氏は述べている。
しかし、エイチイービーとアルバートソンズはいずれも、買い物可能な動画はエンゲージメントの増大を生み出し、店舗の外で商品を見つけて、コミュニティの感覚を育成するために理想的だと主張している。この混在にコマースを追加すると、通常の動画で購入を行う場合に発生するいくつかの摩擦を取り除くためにも役立つと、ディンペリオ氏は説明している。
「当社はFacebookフォロワーのあいだに、特にインタラクティブで参加型のもの、そして人々が学習できる場所に対する関心を見いだした」と同氏は述べている。
「買い物できる動画では、通常の動画で生まれるいくつかの問題点を解決できる。顧客は動画に出てきた材料を苦労して探す必要がなく、ライブストリームからごく簡単に購入できるようになるからだ」。
[原文:How grocers like H-E-B and Albertsons are testing out shoppable video]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:猿渡さとみ)
Image: H-E-B