YouTubeは、TikTokのショートフォーム動画だけでなく、動画クリエイターに報酬を支払うための基金の設立までもを模倣した、最新のデジタル動画プラットフォームだ。しかし、これは、同一のクリエイターがそれぞれのプラットフォームのクリエイター基金を二重に利用できるわけではない。
YouTubeは、TikTokのショートフォーム動画だけでなく、動画クリエイターに報酬を支払うための基金の設立までもを模倣した、最新のデジタル動画プラットフォームだ。しかし、これは、同一のクリエイターがそれぞれのプラットフォームのクリエイター基金を二重に利用できるわけではない。
YouTubeが8月3日にYouTubeショートファンド(YouTube Shorts Fund)を正式に発表したあと、あるフリーの動画クリエイターが、「ほかのチャンネルから動画を再アップロードしたり、ほかのチャンネルのウォーターマークが入っていたりする動画は、クリエイターファンドの対象にはならない」というGoogleの動画プラットフォームの規定に異議を唱えた。「Googleはクリエイターファンドを利用して、実際にはクリエイターに対し、独占権を要求している。動画が別のプラットフォーム上にある場合、クリエイターファンドの対象にはならないのだから」と批判する。現在、彼はYouTube、Facebook、TikTok全体で約200万人のチャンネル登録者を抱えている。
しかし、YouTubeのファンドは、クリエイターに独占権を要求するようなことはしない。
Advertisement
YouTubeの広報担当者によると、動画はクリエイター自身のオリジナル作品でなければならないが、プラットフォームのクリエイターファンドから支払いを受けられる対象となるにあたり、動画はYouTubeショート専用でなくてもかまわない。
問題は「ウォーターマーク付き」
YouTubeは再利用された動画を制限しているが、それはテレビ番組や映画などの編集されていないビデオクリップなどのコンテンツに適用される。また、TikTokのウォーターマークがついた動画はYouTubeショートファンドの対象にはならないが、クリエイターが以前にTikTokにアップロードしたことのある動画(TikTokのウォーターマークなし)をYouTubeショートにアップロードすることは可能で、報奨金の対象にもなり得る。
YouTubeによると、個々のクリエイターは1億ドル(約110億円)のYouTubeショートファンドから、特定の月に最大1万ドル(約110万円)を受け取ることができるという。ただし、TikTokやインスタグラムのクリエイターファンドと同様、どのクリエイターが支払い対象になるかは完全にプラットフォーム側の裁量による。そして、プラットフォーマーは資格要件を掲示しているものの、誰がどのくらいの額を受け取るかを決定するプロセスは不透明な部分が多い。「広告のCPMがあるわけではない。プロセスについて、そのどれもが実際には公開されていない。曖昧で判然としない」と、同クリエイターは語る。同氏は、すでにTikTokクリエイターファンドから報奨金を受け取っていたが、その額については明かさなかった。
YouTubeショートファンドの基準や制限に対するクリエイター側の懸念は、主要なデジタル動画プラットフォーマー間の競争の激化に起因しているようだ。具体的には、インスタグラムやYouTubeなどのプラットフォーマーがTikTokの二番煎じではなく、TikTokと真っ向勝負するにはどうしたらいいかを模索している、ということだ。
2020年にインスタグラムは、TikTokのウォーターマークがあるインスタグラムのリール動画は、プラットフォームの「発見」ページに掲載されないことをクリエイターに通知し始めた。また2021年2月、Facebookもウォーターマーク入りのリールを自社のプラットフォーム([リール]タブなど)で上位に表示されないよう設定する旨を発表した。ほかのプラットフォームのウォーターマークがある動画は禁止するというYouTubeの決定も、この流れに沿ったものだ。
プラットフォーマーのさじ加減
ショート動画をめぐるプラットフォーム間の戦争は、ファンドの形成に拍車をかけることでクリエイターに利益をもたらしているようだが、一方でクリエイターとプラットフォームの関係に内在する別の問題を引き起こしてもいる。プラットフォーム側が望むコンテンツを持っているのはクリエイターだが、最終的に財布のひもを握っているのは各プラットフォーマーで、そのひもを緩めるも締めるもプラットフォーマーのさじ加減である。
「私は昨年、25万ドル(約2750万円)近く稼いだ。しかしその前の年は、わずか3万ドル(約330万円)だった。収入がまったくない月もあった」と前述のクリエイターは話す。「一種のギャンブルと言って良い。できるだけ多くのプラットフォームで勝負し、競合し合うプラットフォーム上で、できるだけ多くのサイコロを振る必要がある」と、皮肉まじりに言い添えた。
[原文:YouTube’s creator fund for YouTube Shorts will not exclude videos posted to other platforms]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:長田真)