9月20日月曜日(現地時間)、AppleはデスクトップOSとモバイルOSの最新バージョンを発表した。Appleによると、これら最新OSには、ユーザーのプライバシー保護を目的とした新たな機能がいくつも搭載されているという。そのひとつが「メールプライバシー保護(MPP)」機能だ。
多くのパブリッシャーは年初から、ニュースレターを活用して収益源の多様化を図るという大きな計画を立てていた。しかし、Appleのオペレーティングシステム(OS)に重要な変更が加わることで、どのパブリッシャーも計画の見直しを余儀なくされそうだ。
9月20日月曜日(現地時間)、AppleはデスクトップOSとモバイルOSの最新バージョンを発表した。Appleによると、これら最新OSには、ユーザーのプライバシー保護を目的とした新たな機能がいくつも搭載されているという。そのひとつが「メールプライバシー保護(MPP)」機能だ。この機能を有効にすると、Apple Mail(Appleの純正メールアプリ)で受信した電子メールの開封を、送信者が確認できなくなる。
メールプライバシー保護機能は、電子メールを活用したマーケティング活動に甚大な支障を来しかねない。実際、ある経営幹部は、一部の広告販売に関しては、棺桶の蓋(ふた)に釘を打つような「とどめの一撃」になるだろうと懸念を示す。また、パブリッシャーにとっても、読者の獲得から有料ニュースレターの購読者維持まで、多大な影響を受けることが予想される。
Advertisement
オーディエンスに関する既存の知見や情報を今後も維持したいと望むパブリッシャーは、いくつかの難しい選択を迫られるだろう。たとえば、「釣り」まがいのタイトル(いわゆるクリックベイト)が増える危険を承知のうえで、ニュースレターの主要なエンゲージメント指標を開封率からメール内リンクのクリック率に切り替えるか。あるいは、途中離脱が増えるとしても、ユーザー登録の入力項目を増やして情報収集するか。開封率が下がれば、肝心のクリック率の把握も難しくなるが、それでも広告収入の落ち込みに備えて、サブスクリプション収入の強化を図るか。
影響の及ぶ範囲はごく一部
スリリスト(Thrillist)、ナウディス(NowThis)、ザ・ドードー(The Dodo)などのメディアを運営するグループナインメディア(Group Nine Media)で、成長担当エグゼクティブバイスプレジデントを務めるノア・カイル氏は、「まずは『慌てるな』と思った」と話す。「どのみち、計画の変更は必至だ」。
電子メールの開封率は、パブリッシャーやそのオーディエンス開発部門が利用できる唯一の指標ではないが、数少ない選択肢のなかでは重要な指標といえる。ニュースレタープラットフォームのビーハイブ(Beehiiv)で最高経営責任者(CEO)を務めるタイラー・デンク氏はこう語る。「ただでさえニュースレターの効果測定指標は限られている。クリックスルー率、開封率、配信停止率くらいのものだ。開封率を正確に把握できなければ、3つのうちのひとつが欠けることになる」。
開封率の精度におよぶ影響は不明だ。多くのパブリッシャーが知る通り、Appleの端末でコンテンツを閲覧するユーザーは全体の約半数だ。Apple Mailの利用率はそれより低い。ゴーカー(Gawker)、ロンパー(Romper)、マイク(Mic)、ナイロン(Nylon)などのメディアを運営するBGDで、マーケティングおよびオーディエンス開発担当バイスプレジデントを務めるウェズリー・ボナー氏によると、「BDGのオーディエンスのうち、iOS端末のユーザーは半数を超えるが、Apple Mailの利用者は約12%にとどまる」という。
「メールプライバシー保護は有効化が必要なオプトイン機能だ」とボナー氏は指摘する。「Apple MailユーザーのすべてがMPP機能を有効化するとは考えにくい」。
何物にも代えがたい指標
とはいえ、オーディエンス開発などの社内的な作業にせよ、広告主への対応を含む社外的な作業にせよ、パブリッシャーたちは、ニュースレターの効果測定指標として、開封率に代わる有効な選択肢を持っていない。
パブリッシャーの広告事業については、オーディエンスの収益化方法の見直しが必要となるだろう。
ビーハイブのデンク氏はこんな見立てを披露する。「今後、正確な開封率の取得が難しくなるなら、ほとんどのニュースレターは宛先リストの規模に応じて一律のCPMを請求するか、あるいはCPCモデルを設定することになると思う。定額モデルとCPCのハイブリッドもあるかもしれない」。
オーディエンス側の施策でも、見直しは必至だ。
グループナインメディアのカイル氏はこう話す。「もっとも重要なのは、クリックなどのメール内でのエンゲージメントに注力することだ。我々自身、ニュースレターについては十分なユーザー調査を行っているが、配信頻度については増やす方向で再検討が必要かもしれない」。
復興の気運のただなかで
プライバシー保護の強化に向けたAppleの動きは、数年前から続くニュースレター復興の気運のただなかで起きている。サブスタック(Substack)やレビュー(Revue)などのニュースレタープラットフォームは、ベンチャーキャピタルの投資対象として、あるいは大手テクノロジープラットフォームによる買収対象として、大きな関心を集めている。今週初め、ハイテク企業のインテュイット(Intuit)は、メール配信ツールのメールチンプ(Mailchimp)を120億ドル(約1.3兆円)で買収した。
個々のパブリッシャーも、ニュースレターの戦略的価値は認めている。オーディエンスと広告収入の供給源というだけでなく、サブスクリプション収入の有望なチャネルとしても、その価値は高まる一方だ。一例として、今月初め、ポッドキャスト業界に特化した月額7ドル(約776円)の有料ニュースレター「ホットポッド(Hot Pod)」が、ボックスメディア(Vox Media)に買収された。今後は同社のベテラン記者が運営の指揮を執る。
より安定した購読料収入を持つパブリッシャーたちは、ニュースレターへのさらなる投資を続けている。たとえば、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)はこの8月、複数の有料会員制ニュースレターを創刊すると発表した。執筆陣には、同社きっての人気コラムニストが名を連ねるということだ。
[原文:‘Don’t freak out yet’: Publishers brace for iOS changes to their newsletter businesses]
MAX WILLENS(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)