2023年は、Netflix創業者リード・ヘイスティングス氏の共同CEO退任で騒々しく始まり、その後はトーンダウンしたままだ。これではまるで、TV、ストリーミング、動画業界が、海に溺れてしまうような状態だ(しかも、助けてくれる人はいない)。
今年も折り返し地点が過ぎ、気が滅入るような1年になりそうだが、ここでTV、ストリーミング、動画業界の2023年上半期における主な傾向と展開を振り返ってみよう。
業界の経済立て直し
今年、TV、ストリーミング業界関連で「コスト削減」ほど、よく耳にした言葉があっただろうか。ディズニー(Disney)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、パラマウント(Paramount)、ワーナーブラザースディスカバリー(Warner Bros. Discovery)の4社はすでに上半期でレイオフを実施している。さらに、ディズニーやワーナーブラザースディスカバリーをはじめNetflixでは、番組編成の出費も抑制した。
エンターテインメント業界全体が緊縮予算を強いられる時代にあるなか、この業界では新たな経済のあり方に対峙する戦いが繰り広げられている。
ストリーミングの登場で、監督や俳優はもとより脚本家の従来の報酬モデルはくつがえされ、今も続く脚本家のストライキへと発展した。全米脚本家組合(Writers Guild of America)の組合員が求めたのは再使用料の回復だ。これまでTV業界では何十年も再使用料が支払われてきたが、番組がストリーミング向けにライセンス化されると、その再使用料が犠牲になったのだ。
現時点でまだわからないのは、業界の経済立て直しを担う双方がどのようにぶつかり合うのかだ。番組制作側はよりよい報酬を経営側に求めたく、一方の経営側は番組制作の費用をできるだけ抑えたい。そこに、オーディエンスの存在がさらに加わる。TV、ストリーミングの従来のオーディエンスは目が肥えており、お金を出したくなるようなエンターテインメントのオプションがどのくらいあるのか、彼らには一目瞭然だ。
一方、ストリーミング事業や広告の行く末、道半ばである効果測定、ショートフォーム動画のレベニューシェア問題などはどうだろうか。
2023年は、Netflix創業者リード・ヘイスティングス氏の共同CEO退任で騒々しく始まり、その後はトーンダウンしたままだ。これではまるで、TV、ストリーミング、動画業界が、海に溺れてしまうような状態だ(しかも、助けてくれる人はいない)。
今年も折り返し地点が過ぎ、気が滅入るような1年になりそうだが、ここでTV、ストリーミング、動画業界の2023年上半期における主な傾向と展開を振り返ってみよう。
業界の経済立て直し
今年、TV、ストリーミング業界関連で「コスト削減」ほど、よく耳にした言葉があっただろうか。ディズニー(Disney)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、パラマウント(Paramount)、ワーナーブラザースディスカバリー(Warner Bros. Discovery)の4社はすでに上半期でレイオフを実施している。さらに、ディズニーやワーナーブラザースディスカバリーをはじめNetflixでは、番組編成の出費も抑制した。
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エンターテインメント業界全体が緊縮予算を強いられる時代にあるなか、この業界では新たな経済のあり方に対峙する戦いが繰り広げられている。
ストリーミングの登場で、監督や俳優はもとより脚本家の従来の報酬モデルはくつがえされ、いまも続く脚本家のストライキへと発展した。全米脚本家組合(Writers Guild of America)の組合員が求めたのは再使用料の回復だ。これまでTV業界では何十年も再使用料が支払われてきたが、番組がストリーミング向けにライセンス化されると、その再使用料が犠牲になったのだ。
現時点でまだわからないのは、業界の経済立て直しを担う双方がどのようにぶつかり合うのかだ。番組制作側はよりよい報酬を経営側に求めたく、一方の経営側は番組制作の費用をできるだけ抑えたい。そこに、オーディエンスの存在がさらに加わる。TV、ストリーミングの従来のオーディエンスは目が肥えており、お金を出したくなるようなエンターテインメントのオプションがどのくらいあるのか、彼らには一目瞭然だ。
ストリーミングの戦いは沈静化?
ストリーミングサブスクライバーの戦いは少しばかり収まってきた。ディズニーやワーナーブラザースディスカバリーのようにストリーミング事業に巨額を投資した企業は、軍資金のその後をチェックし始めた。たとえば、ワーナーブラザースディスカバリーは、HBO作品の一部を最大の競合相手であるNetflixとのライセンス契約に持ち込もうとさえ考えている。
また、ストリーミング冷戦の代表的な例は、Huluのオーナーシップをめぐるディズニーとコムキャスト(Comcast)の騒動だろう。しかし、これは解決の方向に進んでいるようだ。
ディズニーが21世紀フォックス(21st Century Fox)を買収し、2019年にHuluの経営権を取得してからというもの、ディズニーとコムキャストの両社はシーソーゲームを続けている。ポイントは、「コムキャストのHulu保有株のバイアウトに、ディズニーはいくら払うべきなのか」「その逆を狙うコムキャストが、ディズニーのHulu保有株をバイアウトするのか」である。
しかしいまは、両社ともHuluの経営権取得にそれほど関心がないようだ。2023年2月、ディズニーのCEOボブ・アイガー氏は、Hulu株売却の意思を明らかにし、5月に入ると、今度はコムキャストのCEOブライアン・ロバーツ氏が、同社のHulu保有残株をディズニーに来年2024年に売却するつもりだと話している。
Huluは2本柱の収益で大成功をあげており、そのようなストリーミングサービスでさえも、経営権をめぐる戦いで譲り合いの事態に展開しているのであれば、現在のストリーミングビジネスに関してこれ以上何も言えないだろう。
広告は下降傾向に突入
TV広告の「アップフロント(先行予約)」モデルが姿を消したわけではないが、落ち込んでいるのは間違いない。TVネットワークやストリーミングサービスの経営陣はこの数年、年間の広告枠買い付けサイクルで価格を釣り上げてきたが、今年は広告主が回答を先延ばしにしているため、昨年よりもアップフロント市場の予算が少なくなることはまず間違いない。
不況が続き、それが今年の下降傾向の主な要因だが、決してそれだけではない。従来のTV視聴が相変わらず減少しているのだ。脚本家のストライキが長引き、それに伴うゴールデンタイムのTV番組の質の低下で、事態の悪化に拍車がかかるというリアルなリスクにさらされている。さらに、広告バイヤーのあいだでも懸念が消えない。個々のストリーミングサービスが、広告主に十分なリーチを提供できるほど、広告付きコンテンツの視聴者を獲得できているのかが問われているのだ。
Netflixが、「広告付きプランで月間アクティブユーザー(MAU)が500万人に達する勢いだ」と発表したが、これはエージェンシー各社の幹部からよいニュースとして見られていた。しかし、少数ではあるものの一部からは、ユニーク世帯数に対してMAU指標を売り込もうとするNetflixの選択を疑問視する声も聞かれる。MAUがTVやストリーミングなどのメディアでリーチの評価方法として、エージェンシー幹部が好む指標だからだ。
さらに、米DIGIDAYのシリーズ記事「FUTURE OF TV」で伝えているように、ストリーミングのインベントリ―(在庫)は現在のところ、広告主の需要を上回っており、その希少性が薄れている。以前は、なかなか手に入らないからこそ、広告主が年間のアップフロントに予算を回す決断を下していたのだ。
混沌とする効果測定
確かに、TV広告業界の効果測定方法の見直しで状況はさらに混沌としてきた(とくにトレンドが重なっている場合)と言うと、無責任なように聞こえるかもしれない。一方で最近の混乱は、しっかりと前進している証拠のようにも見える。これはたとえば、自宅のガレージを整理するなら、まずはガレージ内の物をすべてガレージの前に出さなければならないのと同じようなものだ。
ニールセン(Nielsen)が従来の測定システムを廃止し、より広範なTV広告効果測定システムが整うまで、あと1年あまりだ。TVネットワーク各社は新たな効果測定時代に向けて、積極的に取り組んでいる。2023年1月には、新しい効果測定カレンシーの基準設定に向けて、TVネットワーク・テレビ広告業界団体の合同委員会「全米JIC(U.S. Joint Industry Committee)」が発足し、ストリーミング企業のRoku(ロク)はもとより、大手エージェンシーにも参加が呼びかけられている。
ただし、いま混沌としている原因は現在のところ、ニールセンがこの取り組みに参加しておらず、YouTubeもディズニーもNetflixもAmazonも様子見であることだ。このJIC会員と非会員との対立で、状況はこう着状態に陥った。JIC会員は二進も三進もいかないこの状況に不満を示している。
メディアバイヤーのホライゾンメディア(Horizon Media)が測定カレンシーのオプションとして、効果測定プロバイダーのビデオアンプ(VideoAmp)を使うと発表し、一方でパラマウントは、JIC認証効果測定プロバイダーしか採用しないと強硬に主張している。こうした動きの影響はまだ具体的にわからないが、少なくともJICの会員は、業界全体を新たな時代に導こうと考えており、それに難色を示す者はそのまま置き去りにされる可能性もある。
ショートフォーム動画のレベニューシェアは暗礁に
TV・ストリーミング・動画業界全体で明るく輝かしい分野といえば、縦型ショートフォーム動画プラットフォームだ。しかし、2023年上半期は少々精彩に欠けていた。
まずはTikTokが規制の対象になったことだ。全米でTikTokが禁止される可能性が生じた結果、ブランドもクリエイターもTikTokもどきを使用し、ひとつのプラットフォームに絞らず、インスタグラムリールやYouTubeショートなど複数のプラットフォームに分散するようになった。しかし、いまのところはまだ禁止が始まっていないため、こうしたオーディエンスの変化はショートフォーム動画プラットフォームの序列にまだ影響を与えていないようだ。
これまでのところ、TikTokとYouTubeショートは独自のレベニューシェアプログラムでクリエイターが大儲けできるかどうかは明らかにしていない。YouTubeショートのレベニューシェアの計算方法を見ると、クリエイターよりもレコードレーベルに恩恵があるように思えるかもしれないが、それだけではない。クリエイターは1000ビューで数セント(数円)しか稼げないのだ。
一方、TikTokの新収益化プログラム「クリエイティビティ・プログラム・ベータ(Creativity Program Beta)」では、60秒を超える動画のクリエイターに報酬が支払われる。ただし、YouTubeショートは動画の長さの上限を60秒に設定しているため、クリエイターは同じ動画をYouTubeショートにクロスポストできない。
なお、Snapchatにもレベニューシェアプログラムはある。たとえば、クリエイターのアリッサ・マッケイ氏はこの1年で、Snapchatのレベニューシェアプログラムを使い、100万ドル(約1億4000万円)以上を稼いでいる。しかし、Snapchatの縦型動画プラットフォームはほかとは違う種類なため、マッケイ氏のようなクリエイターがオーディエンスを楽しませるには、ぶっつけ本番の動画を1日あたり100件以上投稿しなければならない。
2023年も半ばが過ぎ、縦型ショートフォーム動画の世界は煉獄のような状況だ。もっと広くTV・ストリーミング・動画業界全体を見たところで、その状況は変わらない。
[原文:Future of TV Briefing: How the future of TV has shaken out so far in 2023]
Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)
Illustration by Ivy Liu