2022年1月末に開催された米DIGIDAY主催のCMOサミットでは、全米のマーケティングリーダーたちがバーチャルで集まり、現在抱えている問題について話し合った。本記事ではサミットでゲストが繰り返し話題にしたテーマをいくつかピックアップして紹介する。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
COVID-19のパンデミックが始まってから2年が経過し、この危機によって変化した消費者行動の多くが今後も継続していくことは明白である。また、マーケターがそれに応じて開発したり、即興で考え出したりした多くの習慣や直観は、間違いなく今後何年にもわたって業界の標準となっていくだろうと断言できる。もちろん、2022年に向けてブランドが前進していくなかで、ブランドが直面する問題はいまだ数えきれないほど存在しており、進むべき最善の道筋については多くの競合する意見がある。
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1月25〜26日に開催された米DIGIDAY主催のCMOサミットでは、全米のマーケティングリーダーたちがバーチャルで集まり、データや多様性からTikTok、メタバース、リモートチームをまとめる際の課題まで、現在抱えている問題について話し合った。2022年に自社ブランドがどのように向上していくかに対する見解など、サミットでゲストが繰り返し話題にしたテーマをいくつかピックアップして紹介する。
01
消費者データの活用がこれほど必要に、あるいは困難になったことはない
2022年、多くのマーケターにとって、データ——をいかに収集し、理解し、最大限に活用するか——は、最重要になっているだろう。ポストCookieの世界のためにソリューションを開発しテストすることは依然として多くのブランドの優先事項だが、消費者のプライバシーはデータ方程式の一面にすぎない。また、消費者はさらなるパーソナライゼーションを求めており、マーケターはどのようにデータを活用して対応していくかを理解しようとしている。
サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)のCMOエミリー・エスナー氏は、顧客のパーソナルスタイルの発見と表現を手助けするデジタル・スタイリングプログラム「サックススタイリスト(Saks Stylist)」が、実際のスタイリストと顧客とをどうやって結びつけているかについて話した。顧客は最初にいくつかの質問に回答する。そこで得られた回答は、スタイリストによるレコメンデーションの参考になるだけでなく、ブランドがどのスタイリストをその顧客と組ませるかを決定するのにも役立つ。データドリブンなインサイトとヒューマンタッチを組み合わせることで大きな効果を発揮することができる、とエスナー氏は述べた。
データのためにデータを集めるな
バイスメディア(Vice Media)のチーフデジタルオフィサーであるコリー・ハイク氏は、消費者とブランドの相互信頼がポストCookie時代における成功の核になると話した。「私たちのビジネスは、その(信頼の)スピードでしか動かない」。バイスは顧客行動の背後にある「人物像だけでなく、理由を発見する」ことを可能にするコンテクスチュアル・ソリューションを開発した、と彼女は述べた。
レッドボックス(Redbox)のチーフ・デジタル・アンド・ストラテジー・オフィサーであるジェイソン・クウォン氏の話からは、同社がいかにして100チャンネル以上のリニアTVサービス、コンテンツ獲得のための自社スタジオ、そして今後のサードパーティサブスクリプションサービスを備えた「多面的なエンターテインメント企業」へと進化しているのかを垣間見ることができた。
2022年には、同社はDVDレンタル事業の遺産である豊富なファーストパーティデータを活用し、広告主が視聴者をターゲットにできるようにすることを目指している。「ひとつ我々がまさに手にしているのは、レッドボックスの消費者から得た20年分のレンタル履歴だ」とクウォン氏は言う。「その顧客が誰で、何を見たいと思っているのかをかなり賢く理解するために、このデータセットを真に活用することができた」。
今回のサミットで話題になったテーマのひとつは「常に結果にフォーカスすること」だった。データのためにデータを収集してはいけない。何を学びたいのかを知り、数字に惑わされないことだ。e.l.f.ビューティ(e.l.f. Beauty)のCMOコリー・マルキソット氏が語ったように、インサイトは活用せずに放置したままではいけない。インサイトから行動計画へと迅速に移行しなくてはならないのだ」。
02
未知の領域に参入することが新しい常識になる
エミリー・エスナー氏は、パンデミックの間、サックスのマーケティングチームがいかに「度胸のある人」になる能力を磨かなくてはならなかったについて語ったが、それこそ多くのマーケターの心に響く話だったはずだ。うまくいかないコンテンツへのアプローチをやめる、新しいアイデアを生む、新しい技術やフォーマットを試すなど、どのような行動にせよ「思い切って方向転換する自信」が、パンデミック後の世界でサックスのDNAの一部となることをエスナー氏は望んでいる。「懸案事項は、パンデミックが中心的な問題ではなくなったら、すぐに以前の仕事のやり方に戻るのかということだ」と彼女は指摘した。「私たちがそうするなら、恥を知るべきだと私は思う」。
幸いなことにマーケターは、物事をいち早く採用することによる効力を学んでいる。TikTokを初期に取り入れたブランドは、その恩恵を享受している。「その言語を学んだ」これら多くのブランドは、Z世代と信頼できる確かな関係を築いており、いくつかのブランドではその結果がすでに売上に表れている。メタバースは次のフロンティアだ。したがってTikTokに乗り遅れたブランドは、そこから学び、今こそメタバース戦略の開発を始めよう。
新しいアイデアを試して反応をつかむ
もちろん、実験の可能性はメタバースのようなパラダイムシフトを起こす概念に限られるものではない。今日のマーケティング環境は、すでに多くのチャネルやテクノロジー、機会を包含しているが、ブランドはそれらを活用して最大限の効果を発揮できていないだけなのかもしれない。CMOサミットにおけるスピーカーからのメッセージは、「関与し、テストして、学べ」というものだった。
エミリー・エスナー氏は、サックスが過去1年間でインフルエンサー戦略に大々的に乗り出し、ポッドキャストを初めて試みた結果を目にして「本当に興奮した」と語っている。また、同社は動画を活用することのメリットも発見した。「動画はテストするのにすばらしい機会だ」とエスナー氏は言う。「何十種類ものコンテンツを配信したり、メッセージの発信をテストしたり、実際に効果的なことに力を入れることができる」。
新しいアイデアを試してオーディエンスの反応を見るには、リミテッドエディションのドロップもすばらしい方法である。アイスクリームブランドのソルト・アンド・ストロー(Salt & Straw)のCMOアリソン・ハイアット氏は、定期的にリリースしている限定フレーバーのアプローチ方法について語った。いくつかのケースでは、時期限定を軸にリリースを行っているが、それとは別に、リリースがとてもうまくいくことが判明し、そのフレーバーがソルト・アンド・ストローの主力商品に昇格することもある。
さまざまな年齢層の消費者と対話を
思い切って新しい領域に参入する場合も、消費者との接点は持ち続けよう。消費者のニーズに応え、消費者のペースに合わせなければならない。クレア(Claire)のCMOクリスティン・パトリック氏は、さまざまな年齢層の消費者と対話を続け、Z世代やさらに若いアルファ世代について学ぶことからインスピレーションを得ていると話した。コリー・ハイク氏はバイス・メディアが、「バイス(Vice)、「リファイナリー20(Refinery29)」、「アイディー(i-D)」を含むすべてのブランドで収益の多様化に「懸命に取り組んでいる」なかで、オーディエンスから確実に「パーミッション」を得られるようにすることについて述べた。バイスは2021年にコマース(アフィリエイト収入)による収益を倍増させたが、2022年に再び倍増させることを目指している。同社の3本柱の戦略の中核を成すものには、ほかに広告とD2Cがある。
これらの戦略を発展させるにあたり、バイスではコマースの新規カテゴリーに参入するために、各ブランドがどこで主体的な権限と消費者の支持を得ているかを把握する必要があった、とハイク氏は述べた。「それは我々のオーディエンスとの信頼要素だ。オーディエンスは、どのセックスファニチャーを買えばいいのか知りたかったら、バイスが詳しいから、バイスに聞けばいいとわかっている」。
03
チームをまとめ、鼓舞することがさらに困難に
パンデミックによって、多くのマーケターはリモートチームを管理することの難しさに直面した。だが多くのCMOやマーケティング部門にとって、在宅勤務が当たり前になった今、優れた仕事をするよう分散したチームにやる気をださせることは、現代のリーダーのスキルセットとして不可欠な要素となっている。
まず、チームはブランドが今後1年間に挑戦するであろう課題に確実に備えておく必要がある。e.l.f.ビューティのコリー・マルキソット氏は、成長のマインドセットを植え付けることについて語り、出来事にすばやく対応し、数時間ですばらしい創造的な仕事をすることができる「同じ志を持つ破壊者」のチームを構築することについて述べた。「情熱、野心、すばやく行動しなければならないという緊急時のメンタリティを人々に持ってもらうこと……それには多大な努力が必要であり、才能あるスーパーヒーローのチームが必要だ」。
守りの姿勢になりすぎず、時には楽しく柔軟に
サックスのエミリー・エスナー氏とバイス・メディアのコリー・ハイク氏は、マーケティングチームの仕事における中心人物は顧客であることに変わりはない、と念を押している。「どこで顧客を見つけ、最終的にどのようにファネルを通過させるかという、カスタマージャーニーがすべてだ」とハイク氏は言う。「チームの全員が、そのビジネスに関わる誰もが、それを理解しなければなならない。なぜならすべての道は、最終的にはそこに向かっていく必要があるからだ」。
またCMOが認識すべきなのは、ブランドで遊ぶことが有益な場合があること、そしてそうした瞬間はインスピレーションを与えて士気を高めることができるという点である。もちろん、そのような軽いノリが適切かどうかは、各自の判断によるだろう。「私たちのブランドは非常に重要であり、非常に価値があり、私たちはそれを非常に大切にしている」とエスナー氏は言う。「しかし、ブランドに対して過剰に守りの姿勢にならず、もう少し楽しく、柔軟になれる場所はどこなのか、そして本当にしっかりとブランドを捕まえておかなくてはならない場所はどこなのか」。
04
核心となるのはスピード
2022年のマーケティングの一面として、スピーカーであるCMOたちが何度も触れていたのは、スピードの重要性だ。つまり状況の変化にすばやく対応し、チャンスに飛びつき、迅速に実行する反射神経を養うということだ。ブランドは、コンテンツを生み出すという点で、ますますメディア企業に匹敵するようになっており、ソーシャルチャネルを通じて文化的な瞬間に反応すれば報酬がある。
コリー・マルキソット氏は、e.l.f.ビューティがクイズ番組『Jeopardy!(ジェパディ!)』で重要な問題の題材になった際の反応について説明した。ほぼすぐに(マルキソット氏いわく「およそ12時間以内に」)、マーケティングチームはその出場者と軽い調子でソーシャルメディア上でやりとりを交わした。それからチームはe.l.f.のソーシャルチャネルのブランディングをその時のテーマのものに変更し、出場者に8000ドル(約93万円)の小切手を贈り、彼はそれを慈善団体に寄付した。
CTV広告のブームも、特に文化的な合図に反応したキャンペーンを迅速に作成する能力を強化するようマーケターを促しているはずだ。MNTNのマーケティング・バイスプレジデントのアリ・ハエリ氏は、CTV広告を効果的に行うには、スピードがカギであり、リニアTV広告とはきわめて対照的だと語った。
05
「ファストバータイジング」とは一体何か
広告クリエイティブは、ミーム、ジョーク、議論、討論と、入れ替わりの激しいソーシャルメディアでの話題を糧に、文化的な時代精神とますます絡み合っている。効果的に行うには、マーケターは文化をモニタリングし、ブランドからの反応を呼び起こす瞬間を見極めた上で、品質やブランドの安全性を損なうことなく、その衝動を迅速に行動に移すことに長けていなくてはならない。
MNTNのマーケティング・バイスプレジデントのアリ・ハエリ氏は、特にCTV広告の重要性が増すなかで、広告主は「ソーシャルのスピード」に自らを合わせなければならないと指摘する。ハエリ氏いわく、俳優ライアン・レイノルズ氏のクリエイティブ・エージェンシー、マキシマム・エフォート(Maximum Effort)が取り入れているコンセプト「ファストバータイジング(fastvertising)」は、CTVの広告分野で勝つためのモデルである。MNTNは2021年6月にマキシマム・エフォートを買収し、その条件のひとつとしてレイノルズ氏はMNTNのチーフクリエイティブオフィサーに就任した。「彼らは文化的な瞬間をとらえ、その文化的な瞬間に関連した広告へと転換するのが非常にうまい」とハエリ氏は述べている。
06
サミットで耳にした言葉
「誰かが私たちの広告を見るとき、それがスマホ上であれ、手にしたカタログであれ、そこに自分自身を見ることができるようにと私は強く願っている。それができるようにするには、私たちが幅広いコミュニティを本当に代表しているのだということを、かなり積極的に確認していかなくてはならない」。——サックス・フィフス・アベニューCMO、エミリー・エスナー氏
・組織内において、またブランドをいかに世界へ発信していくかという点において、多様性と表現力を向上させていくにはどのような行動をとるべきか、多くのブランドがいまも真剣に考えている。自分のブランドがどれだけ進んでいると感じていたとしても、まだまだやるべきことがたくさんある可能性が高い。エミリー・エスナー氏は、サックスでは自社のマーケティング資料に登場する人物に関して、「民族の多様性、年齢の多様性、サイズの多様性」という意味でかなり改善を図っていると述べ、また同社では目に見えにくい多様性を表現することにも取り組んでいると付け加えた。
「(データを)細かく切り刻んだり、考えすぎたりしてしまう方法はいくらでもある……実用的な部分を見つけ、それを実行に移すのだ」。——バイス・メディア チーフデジタルオフィサー、コリー・ハイク氏
・今日では、マーケティングを成功させる上でデータが重要な役割を果たしており、今後数年間でその重要性はますます高まっていくだろう。だがデータ過多のリスクは非常に現実的だ。コリー・ハイク氏は、CMOはデータを効果的に活用するために、「包括的よりも実用的」というマントラを採用すべきだと話す。またピアノ(Piano)のCMOアシュリー・デイバート氏は、データから得た情報をもとに小さな変化を繰り返し行って蓄積したインパクトは、かなり大きくなる可能性があると述べている。「実際に持っているものを、さらに多くのことに活用する必要があるだけだ」と彼女は述べた。
「ボードにポイントを書き込む。そして、ストーリーを手に入れる。人々に伝えることができて、結果が見えるような、小さな成功につながるストーリーがあれば、人はもっとやりたいと思うようになる。その物語を構築し始めたら、あとはそれが定着して組み込まれていくだけだ。人々は、あなたが次にどんな大胆なことをするのか知りたいと思うようになり、それを楽しみにするようになる」——e.l.f.ビューティCMOコリー・マルキソット氏
・マーケターにとって長年の課題のひとつが、役員たちから新しいアイデアに対する賛同を得ることだ。マーケティングチームにとって実験と早期採用が当たり前になってきているなかで変化を率いてきたことについて語ったコリー・マルキソット氏は、ブランドのリーダーたちを最初は困惑させたが、のちに喜ばせたひとつの実験の例として、TikTokの早期導入を挙げた。
07
知っておくべき統計:3900万人
これは、レッドボックスのロイヤルティプログラムに登録している人数である。マーケティングの次の時代において、ロイヤルティプログラムはブランドがファーストパーティデータを取得するために不可欠なツールとなるだろう。チーフ・デジタル・アンド・ストラテジー・オフィサーであるジェイソン・クウォン氏は、レッドボックスのロイヤルティプログラムは、フルサービスのエンターテインメント企業として再編成を目指す同ブランドの中心となるだろうと述べている。
[原文:CMO Summit Recap: Marketers brace to take on the metaverse in a big way]
IAIN SHAW(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)