新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのさなか、eスポーツと伝統的なスポーツのファンの世界の融合が始まった。双方の世界を相手にしてきた企業やスポンサーは、この融合がますます進行するオーディエンスにリー […]
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのさなか、eスポーツと伝統的なスポーツのファンの世界の融合が始まった。双方の世界を相手にしてきた企業やスポンサーは、この融合がますます進行するオーディエンスにリーチするために、新しいタイプのアクティベーションやパートナーシップを試行する必要に迫られている。
スポーツとeスポーツの融合と、それが引き起こす、ブランドのマーケティング予算獲得のためのセクター間の競争というトピックは、2022年1月6日のCES 2022のパネルディスカッションのテーマだった。だが、パネリストのひとりで、暗号通貨取引所FTXのビジネス開発担当バイスプレジデントであるネイト・クランシー氏は、現在起こっていることを表現するのに、競争という言葉はふさわしくないと考えている。
「特に非代替性トークン(NFT)のような製品については、トレンドに乗っていれば何を取り引きしても利益をあげられる可能性は高いと思う。重要なのは、どのようなコミュニティがあり、どのようなファンがいるかだ」とクランシー氏は話す。「FTXの視点からも、暗号通貨の観点からも、必ずしもそれが敵対するわけではなく、一つひとつを評価して、もっとも意味のある独自のパートナーシップを見つけようとしている」。
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FTXは2021年6月、大手eスポーツチームTSMと2億1000万ドル(約240億円)のネーミングライツ契約を結んだが、同社は、NBAのゴールデン・ステート・ウォリアーズ(Golden State Warriors)と1000万ドル(約11億4000万円)のパートナーシップを先月発表するなど、従来のスポーツ産業にも十分な関わりを持っている。「彼らは(eスポーツ組織の)ゴールデン・ガーディアンズ(the Golden Guardians)を所有しており、NBA 2Kのチームも持っている。それがゴールデン・ステート・ウォリアーズとの提携の決め手となったと思う」とクランシー氏は話す。
間違いなく安全な賭けに
伝統的なスポーツの世界では、チームがゲームやeスポーツを含む多様なサービスを提供するようになっている。英国のプレミアリーグに所属する名門サッカークラブのマンチェスター・シティ(Manchester City)は、エレクトロニック・アーツ(Electronic Arts)のeスポーツ組織フェイズ・クラン(FaZe Clan)と長年パートナーシップ契約を結んでいるが、同チームは2021年10月に16歳の「フォートナイト(Fortnite)」プレイヤー、エイダン“スレッツ”モンと契約し、eスポーツ界に華々しく参入した。クラブの親会社であるシティ・フットボール・グループ(City Football Group)のメディアディレクターを務めるギャビン・ジョンソン氏は、「この空間にいる我々のファン、そして我々が引きつけるかもしれない潜在的なファンたちは、全力で取り組まなければ、それをすぐに見抜くだろう」と語る。
スポーツとeスポーツのファンダムの融合の理由に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックをあげる観測筋もいる。2020年には、ロックダウンを機に多くのプロアスリートがTwitch(ツイッチ)のストリーミングに軸足を移し、所属チームに対してゲーム空間へのさらなる投資を促した。従来のスポーツ選手やそのファンがライブストリーミングブームに参加することで、多くのスポーツファンが対戦型ゲームに新たな価値を見いだすようになった。ディズニー・アドバタイジング・セールス(Disney Advertising Sales)の測定およびインサイト担当バイスプレジデント、アサフ・ダビドブ氏は次のように述べる。「スポーツファンの4分の1(26%)がeスポーツを視聴しており、今後も増え続けるだろう。これは、米国市場におけるNASCAR、プロレス、国際サッカーなど、成長中のほかのスポーツよりも大きな数字だ。そして、まさに成長中のセグメントでもある。eスポーツファンの82%が、この20年のうちに、米国ではeスポーツがサッカーと同じくらい人気になると予測している」。
eスポーツはまだ始まったばかりの産業だが、ライブのスポーツイベントがかつてないほど危険にさらされていると感じる世界において、競技用ゲームは間違いなく安全な賭けになると考えるスポーツチームもある。パンデミック以前、NBA 2Kリーグのチームはニューヨークで対面での試合をしていたが、パンデミック中は、比較的容易にオンライン競技のスケジュールに切り替えることができた。NBAのアトランタ・ホークス(Atlanta Hawks)傘下のNBA 2Kチーム、ホークス・タロンGC(Hawks Talon GC)でeスポーツディレクターを務めるウィズリー・アカフ氏は、「その過程で我々は、我々のスポーツはどんな嵐も切り抜けられると学んだ」と語る。パンデミックがいつまで続くかにかかわらず、eスポーツチームは多かれ少なかれ中断することなく競技を続けることができ、そして低迷している伝統的なスポーツチームも、これに注目している。
若くて時代に即した特性
伝統的なスポーツチームがゲームコミュニティに進出する一方で、暗号通貨やNFTなど、すでにゲームと自然にクロスオーバーしている分野で、より新しい技術に特化したブランドと提携する場合、eスポーツチームはまだ優位に立つことができる。FTXのクランシー氏と彼の同僚たちにとって、eスポーツチームの若くて時代に即した特性は、2億1000万ドルのパートナーシップと1000万ドルのパートナーシップの違いを生む可能性がある。彼らの多くはゲーマーを自認しているため、大好きな余暇活動に関わる競技やエンターテインメントの様式に自然に引き寄せられる。
「TSMが制作する動画の中には、アスリートがジェンガで遊んだり、非常に短いクリップからプレイヤーのランクを推測したりするだけのものもある」とクランシー氏は語る。「FTXの特性や、マーケティングプラン、アイデンティティへの取り組み方と、とてもマッチしている」。
ALEXANDER LEE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)