ブランドセーフティ戦略が徐々にではあるが洗練の度を増し、きめ細やかになっていくなかで、これといった変化の兆しもなく、パブリッシャーや広告主の悩みの種となっているのがウェブサイトのホワイトリストだ。ホワイトリストが多用されると、広告キャンペーンのリーチが狭まるだけでなく、パブリッシャーの収益にも響きかねない。
ブランドセーフティ戦略が徐々にではあるが洗練の度を増し、きめ細やかになっていくなかで、これといった変化の兆しもなく、パブリッシャーや広告主の悩みの種となっているのがウェブサイトのホワイトリストだ。
ホワイトリストは、ブランドがその場所、その近くに広告を表示してほしいサイトのURLやキーワードを指定したもので、ブラックリストに比べてスケーラビリティが低く、コストがかかる。ブラックリストはこれとは逆に、その場所や近くに広告が表示されるのを避けたいサイトやキーワードのリストだ。ホワイトリストが多用されると、広告キャンペーンのリーチが狭まるだけでなく、パブリッシャーの収益にも響きかねない。さらに悪いことに、パブリッシャーは自分たちがリストに載せられているかどうかを容易に知るすべがなく、問題に対処する機会をほぼ与えられない。
たとえば高級ブランドの広告主だと、ホワイトリストに含まれるパブリッシャーは5~8社、サイトは10~15程度という場合が多いと、動画広告プラットフォームのティーズ(Teads)でパブリッシング担当責任者を務めるエミリー・ブリュワー氏はいう。これほど限られたリストの上に、広告主がさらなるターゲティング基準を設定し、さらに競合の隣に広告が表示されるのを避けようとすれば、広告のオーディエンスはたちまち狭まってしまう。こうした基準の下では、キャンペーンが目指すインプレッション数を達成することが、広告にかかわる全関係者にとって難題と化してしまう。
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「広告の配信がネックになる」と、ブリュワー氏は話す。「収益を上げる妨げになり、キャンペーン目標の50%しか達成されなければ、エージェンシーは報酬を全額受け取れない」。
「シャネルなど、とても無理」
高級ブランドの広告主はこれまでずっと、デジタル広告に慎重なアプローチをとってきた。デジタル環境はブランドの品位を損ないかねないとの懸念からだ。高級雑誌の裏表紙を飾るのに慣れたブランドにデジタルを売り込むことは容易でない。
「シャネル(Chanel)[のキャンペーン]など、とても無理だ」と、あるアドテク幹部は匿名を条件に語った。「我々は向こう半年間の計画で契約を結んでいるが、彼らにターゲティングの要素を付け加えられたら、達成はほぼ不可能だ」。
もうひとつの問題は、ホワイトリストが定期的に更新されていない点だ。ブリュワー氏によると、クライアントは勢いのある新たなサイトを毎月または四半期ごとにチェックしても、リストを年に1度以上更新することはまれだという。それに、リストが古くなっているのは高級ブランドのクライアントだけにとどまらない。
あるニュースパブリッシャー幹部は匿名を条件に、英マンチェスター市の件を例に挙げた。2017年に同市で発生した大規模なテロ攻撃を受け、マーケターが迅速に反応した結果、マンチェスターはいまなおブラックリストに載り続けているのだという。
「いまだにそれが適切な処置だろうか?」と、その幹部はいう。「我々はリストに載っているものを一つひとつを継続的に見直すべきだ。もっとデータサイエンスを取り入れるべきだ」。
ソリューションの進化と矛盾
全体として、ブランドセーフティ戦略はよりきめ細かくなっている。これまでの包括的なブランドセーフティ(安全性)からブランドスータビリティ(適合性)へと、流れは変わりつつある。しかし、アドベリフィケーション企業のインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)の調査では、現時点でブランドセーフティをブランドスータビリティより優先すべき課題とした回答者は57%に上ったのに対し、ブランドスータビリティを重視するとした回答は24%にすぎない。このような言葉の変化は、ニュース記事の隣という質の高い環境に広告を表示させたい一方で、ネガティブな内容の記事が自社に影響を及ぼすのを懸念するブランドの存在を考慮したものなのだ。それにプラットフォームの側も賢くなりつつある。YouTubeは先ごろ、インフルエンサーが「エッジの効いた」コンテンツを収益化する道を開き、白黒つけないグレーの領域を認めた。
パブリッシャーは依然、インベントリー(在庫)の収益化がキーワードのブロックリストによって妨げられ、パブリッシャーのデータでは最大60%のインベントリーがブロックされている場合もあることに不満を抱いている。しかし、クライアントがオープンマーケットプレイスで入札前ブロックリストを使用していたら、その影響を正確に測定することは困難だ。パブリッシャーからよく聞かれる不満は、自分たちがブラックリストとホワイトリストのどちらに載っているのか確かめられないため、どれくらいの収益を失っているのか容易に特定できず、ましてやバイサイドと状況の改善方法を話し合うことなどできない点だ。
「[ブランドセーフティを提供する]企業やツールそれ自体の役割は何だろうか」と、前出のパブリッシャー幹部はいう。ダブルベリファイ(DoubleVerify)やインテグラル・アド・サイエンスなどの企業は、インベントリーの供給先を高い視点から見ることができる。「彼らがこちら側にもっと助言をくれるようになるのなら、すべてがクリーンだとどうやって保証するのか」。
ダブルベリファイは2020年、パブリッシャー向けにさらなるソリューションを構築する計画で、それに向けてこの11月には、データプラットフォームのAd-Juster(アドジャスター)を買収している。
バランスの保ち方が課題
ホワイトリストは、包括的なブランド保護戦略の一環としては役に立ちうるが、大規模に活用するには柔軟性に欠ける。あらゆるブランドセーフティ戦略と同様に、ブロック数をできるだけ抑えつつ、ブランドの品位を維持するというバランスが求められる。
「あれもこれも叶えてほしがる(クライアントは)多い」と、ブリュワー氏は述べた。
Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)