いわゆるサブスクリプションパブリッシャーたちは、新規購読者の獲得に関しては依然成長モードにあるが、それも長くは続かない。2020年には、購読者の流出をめぐる絶え間ない戦いに、より成熟したサブスクリプションパブリッシャーも参戦してくるだろう。
2020年、いわゆるサブスクリプションパブリッシャーたちは、購読者の流出抑止に向けてとことん戦い抜く構えだ。
この1年半、テッククランチ(TechCrunch)、ブルームバーグ(Bloomberg)、フォーチュン(Fortune)を含め、パブリッシャーによるペイウォールの設置が相次いだ。これは定期的な購読料収入の獲得に注力するというパブリッシャーたちの決意表明であり、その背景には、デジタル広告市場の成長の大部分がFacebookとGoogleに還流するという、鬱屈した市場環境がある。
彼らのようなパブリッシャーは、新規購読者の獲得に関しては依然成長モードにあるが、それも長くは続かない。2020年には、購読者の流出をめぐる絶え間ない戦いに、より成熟したサブスクリプションパブリッシャーも参戦してくるだろう。ショーレンスタインセンター(Shorenstein Center)とレンフェストインスティテュート(Lenfest Institute)の調べでは、パブリッシャーの上位5%の月間リテンション率は97%だった。仮に、誰もがニュース系のサブスクリプションを1件、エンターテインメント系のサブスクリプションを最大3件購入するとしたら(ロイターデジタルニュースレポート:Reuters Digital News Report)、獲得できる新規読者のプールはあっという間に底をつく。
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「購読者をつなぎ止めるのは誰にとっても難しくなっている。より成熟したサブスクリプションパブリッシャーにとってはなおさらだ」と、デジタルメディアのストラテジストで、ロイターデジタルニュースレポートの執筆者であるニック・ニューマン氏は言っている。「つまるところ、より多くのデータを集め、どうしたら購読者の離脱を止められるのか、あれこれ試行錯誤するしかない」。
各社のさまざまな試み
英フィナンシャルタイムズ紙(The Financial Times)は、読者が示すもっとも簡単な指標であるリーセンシー(接触の間隔)、フリクエンシー(接触の頻度)、ボリューム(接触の量)に基づいて、読者に製品を使い続けてもらうための方程式を編み出した。しかし、賢いパブリッシャーであれば、定期購読者の解約傾向をモデル化して、解約しそうな読者を事前に特定するとか、ジャーナリストの知恵を活かした「捕まえて放さない」ためのチームを配置するとか、あるいはクレジットカードの有効期限のような業務上の要因を集中的に分析したり、メディア以外の企業が使う技術や戦術を活用しながら、自らの価格体系をあれこれ工夫することも必要だろう。
スウェーデンやノルウェイなどのヨーロッパ諸国では、米国や英国よりも、ニュースに対する購買意欲が強い。サブスクリプションパブリッシャーの成熟度も比較的高い。スウェーデンのミットメディア(MittMedia)は、季節によって毎月の支払を一時的に中断できるようにすることで、購読者の流出に歯止めをかけた。また、ノルウェイでは、シブステッド(Schibsted)がサブスクリプションの解除を容易にする一方、解約の理由をフィードバックできるようにしている。さらに、アクセルシュプリンガー(Axel Springer)のタブロイド紙「ビルトプラス(Bild Plus)」も価格体系を見直して、大幅な割引料金や初月無料を改め、これまでより高額な月額定額制に変更した。年間契約にのみ、割引料金が適用される。これまでのところ、2カ月目および3カ月目、13カ月目および14カ月目まで購読を継続する読者が大幅に伸びているという。
購読者のリテンション管理の難しさは、パブリッシャーの新規読者獲得戦略を見れば分かる。既存の読者の維持よりも、新規読者を獲得するためのマーケティングにばかり金をかけ、読者の流出は経時的に悪化して、リテンションがほんの少し下落しても、収入に大きな変動を来す。わずかな料金しか払わない購読者を大量に集めるにも、マーケティング費用はかかる。一方で、商品にそれほどの価値がないと分かれば、読者はさっさと離脱する。オランダのNRCハンデルスブラッド(Handelsblad)紙は、わずかばかりの値引きで新規読者を呼び込む戦術は、もう二度と使わないと決断した。
2020年に考えるべきこと
しかし、新規読者の大量獲得を達成するのは容易でない。2018年、英エコノミスト誌(The Economist)は正規料金のサブスクリプションを売り込むのに6カ月で2800万ポンド(約40億円)以上を使った。以来、同誌は、読者離れに対抗するための専用のアプリを提供するなど、リテンション対策の投資を増やしている。
パブリッシャーはモバイルを強化し、一見常識に逆行するような手をも含め、あらゆる戦術を試行して、購読者の流出に対抗する必要がある。たとえば、デンマークのパブリッシャー、ゼットランド(Zetland)などは、価値を高めるための策として、音声とテキストを同じサブスクリプションプラットフォームにバンドル化するような試みも行っている。
コンサルティング会社のウィックランドウエストコット(Wickland Westcott)で、デジタルとメディアプラクティスを統括するアダム・ヒリヤー氏はこんな助言をしている。「[パブリッシャーは]解約の抑止と質の良い購読者の獲得を慎重に両立させる一方で、価値提案とカスタマーエクスペリエンスの強化にもっと力を入れる必要がある」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:英じゅんこ)