Amazonが初のデパート型の大型実店舗を開設する予定だとウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が8月の第3週に報じ、小売業界に衝撃が走った。だがAmazonのデパート計画は、それが現実のものとなるかはさておき、別の事実を浮き彫りにする。
Amazonが初のデパート型の大型実店舗を開設する予定だとウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)が8月の第3週に報じ、小売業界に衝撃が走った。
だがAmazonのデパート計画は、それが現実のものとなるかはさておき、別の事実を浮き彫りにする。つまり、最近まで純粋なEC業のみだったAmazonが、ここ3年のあいだに実店舗への投資を拡大しているということだ。AmazonはAmazon Goというコンビニエンスストアを30店舗、Amazon Booksを24店舗すでに展開している。これに加え、今回のデパート型店舗のほかにも、食料品と日用雑貨を扱うAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)を近々40店舗近く開設する用意を進めているところだ。
Amazonの実店舗進出は、ECが小売業を完全に支配するには限界があることを示唆する。ECは急成長を続けているが、それでも小売全体から見ると20%を少し超える程度である。オンラインショッピングが普及してきたとはいえ、実際の商品を手にとってみたいというニーズも高く、大いなる野心を抱くAmazonにとっては、商品販売のかなりの部分を逃しているのが実情だ。
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実店舗への投資を進める理由
Amazonが2021年に実店舗への投資をこれほどまでに進めているのには単純な理由がある。実店舗が安いのだ。デジタルエージェンシーのヒュージ(Huge)のコマース責任者であるホールデン・ベイル氏は、ここ数年「デジタル顧客獲得コストが店舗の賃料より高くなってきている。Facebookに多額をかけるより、店舗を次々と開店したほうが安くあがるようになった」と話す。
インプレッション単価(CPM)は上昇を続け、昨四半期にはソーシャルチャンネル全体で6.37ドル(約700円)と、41%跳ね上がった。一方、ニューヨークで人気のソーホー地区界隈などでの店舗物件の賃料は、この夏も2019年に比べて40%下がったままである。
ECマネジメント会社クォンティファイド(Kwontified)のマネージングパートナーであるエレイン・クォン氏は、2021年にデパート型の形態を成功させる方法はいくつもあると話す。実際に成功できるかは、バックエンド業務をどのように運営するかにかかっているそうだ。JCペニー(JCPenney)などの大手デパートの多くでは、実店舗チームとECチームを分けてきた歴史があり、それが商品をすぐに入手できることに慣れた人にとって実店舗を利用しにくくしているとクォン氏は話す。
Amazonなど、これらのチームがまとめられている企業では、ショールーミングとECに重点を置いた、小さくてシンプルなデパートを生み出せる、とクォン氏はいう。「彼らが実店舗で提供する顧客体験はすべてオンラインの顧客体験から来ている」と話すクォン氏は、2021年にデパート経営で成功できるかは「すべてバイヤー、店舗のマーチャンダイザー、在庫管理にかかっている」と語った。
ベイル氏の考えでは、デパートというモデル自体が失敗だったということは特にないそうだ。過去10年に消えて行ってしまったデパートの多くは、飽和状態の市場で差別化できていなかった部分が大きいと話す。ベイル氏は「小売で現在すばらしいとされている顧客体験は基本的にデパートをお手本にしているといってよいと思う」と語り、Amazonのウェブサイトはデパートのカタログのデジタル版のようだ、と付け加えた。
ファッション分野が次の目標
Amazonの実店舗への投資は、ファッションなど、Amazonが注力する特定のカテゴリーへのさらなる進出に重点が置かれているように見える。Amazonはアパレルのオンライン販売では全体の34%から35%をすでに占め、実店舗プレゼンスがないにも関わらずファッション小売ではトップ企業となっている。実店舗販売を含めたすべての販売での現在のシェアは11%~12%だが、Amazonとしてはまだまだ拡大できると考えているようだ。
クォン氏は「彼らはアパレルに集中的に取り組んでいて、すでに拡大しつつあるファッション業界でのマーケットシェアをさらに大きく押し広げていこうとしている」という。買い物客は服を実際に試着してみたいものであるし、「ようやく[Amazonで]目にしたいろいろなものを実際に試してみることができるようになる」。
デパートでは、買い物客が商品を見て回り、実際に試すことを奨励される「ショールーミング」が重視されるが、これはAmazonの考え方とは根本的に異なる。Amazonでは、AmazonフレッシュやAmazon Goなどの実店舗でも、なるべく早く買い物を済ませられる設計になっている。ベイル氏は「これまでAmazonは便利さとレジ清算を最適化することだけを考えていた」と話す。
だが、Amazonのデパート型店舗は、これまでAmazonが見落としてきた点を補うものになるだろうとベイル氏は考える。「Amazonは便利さを偏重してきたが、もっと買い物体験を楽しめる場所になりたいと考えている」。
2017年のホールフーズ(Whole Foods)買収まで、Amazonは実店舗を持っていなかった。この買収で、のちにAmazonブランドの店舗を独自に開設する道が開かれることになった。
ECの限界を認めるAmazon
Amazonの実店舗事業に共通項があるとすれば、それは特定のカテゴリーにおけるECの限界を認めていることである。
Amazon Booksの例を見てみると、AmazonがKindle(キンドル)で普及に一役買った電子本の売上は近年急速に落ち込み、2019年から2015年のあいだに30.8%下がっている。一方、紙の書籍の売上は昨年8.2%上昇した。クォン氏は、「どのAmazon Booksに行っても、驚くほど混んでいる」と話す。「みんなバーンズ・アンド・ノーブル(Barnes & Noble)やボーダーズ(Borders)でうろうろすることが大好き」で、Amazon Booksも同じ層に応えているのだ。
Amazonフレッシュも、ECでは対応していない顧客層に向けたものだ。カンター(Kantar)のECアナリスト、レイチェル・ダルトン氏が米モダンリテールに以前語った話では、食料品をオンラインで買わない大多数の層をAmazonが取り込むのにAmazonフレッシュの店舗が役立つだろうということだった。ダルトン氏は「みんな最終的には、どちらでも買い物したいと思っている」と話した。
デパート型店舗は、ファッションとビューティ商品についてAmazonフレッシュと同じ役割を果たせる可能性がある。実際に商品を試したいという買い物客を、Amazonに呼び込んでくれるかもしれない。
それでも、Amazonがすべての実店舗をどうひとつのコンセプトの下にまとめるのかという疑問は残る。書店、コンビニエンスストア、食料品店、そして今度はデパートと、少々乱雑な感じは否めない。この点をベイル氏に訪ねたところ、「どこでも利用できる、というのが共通のテーマだったらどうだろう。企業戦略が不要になる規模というものがあると思う」という答えが返ってきた。ベイル氏は究極的には「彼らの戦略が、単にどこでも利用できるようになってすべてをAmazonプライムでまとめあげる、というものだったとしたら?」と問いかける。
[原文:Amazon Briefing: The great physical retail pivot]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)