iOS 15は、個々のユーザーが追跡されることのない世界を現実のものにしようとする、Appleの最新の試みだ。iOS 15では、マーケターがメールを介したユーザーの追跡に用いるプロセスを複雑化している。すでに関係者のあいだでは、iOS 15がメールマーケティングにもたらすであろう影響について話題になっていた。
先日開かれたAppleイベントで、まもなく発売されるiPhone 13や新しいApple Watchをはじめとする、さまざまな新製品のラインナップが発表された。iOS 15については補足程度にしか触れられなかったが、Appleがデータプライバシーに対する厳しい取り締まりを続けているなかで行われる、「メールを非公開(Hide My Email)」などのプライバシー関連機能のアップデートに、広告主たちは動揺を隠せないでいる。
メールマーケティングおよびSMSプラットフォーム、オムニセンド(Omnisend)でコンテンツ担当ディレクターを務めるグレッグ・ザコウィッツ氏は、次のように語る。「メールマーケティングに関して言えば、このアップデートがメールの開封率にとどめを刺すかもしれない」。
マーケターたちは現在、メールマーケティングキャンペーンの成否を測る指標に、メールの開封率を用いている。iOS 15の新機能によって、メールの開封率が下がり、受信箱に表示もされなくなるメールが出てくるようになれば、メール内リンクのクリックはいっそう重要性を増すだろうと、彼らは話す。
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iOS 15は、個々のユーザーが追跡されることのない世界を現実のものにしようとする、Appleの最新の試みだ。その基礎となっているのは、モバイルターゲティングを困難にしたフィンガープリンティングへの対策やiOS 14の各種アップデートといった既存の制限措置だ。この最新バージョンでは、マーケターがメールを介したユーザーの追跡に用いるプロセスを複雑化している。
本日の正式ローンチを前に、すでに関係者のあいだでは、iOS 15がメールマーケティングにもたらすであろう影響についての話題で持ちきりになっていた。
重要なポイント
- 今年6月に告知されたiOS 15は、本日ローンチされた。このアップデートから、「メールを非公開」や「iCloud Private Relay」などの新機能が導入される。
- iOS 15はiOS 14をその基礎としている。iOS 14の登場により、ソーシャルメディアに依存するマーケターの多くが、広告支出を早急に多様化するための、オーディエンス基盤の構築を迫られた。
- Appleはサードパーティトラッキングから手を引き、独自のウォールドガーデンと広告ビジネスを築こうとしているのではと、マーケターたちは推測する。
メールマーケティングにとって、iOS 15は何を意味するのか?
告知以来、iOS 15はマーケターたちの話題の中心になっている。彼らの多くはいまもまだ、iOS 14がモバイルトラッキングにもたらしたさまざまな変化によるショックから立ち直れないでいる。
Appleニュースルーム(Apple Newsroom)に投稿されたブログ記事によれば、iOS 15の登場により、サードパーティトラッカーからのユーザー保護はいっそう強化されるようだ。メールの送信者にインビジブルピクセルを使ったデータ収集をできなくする、メールプライバシーの保護もそのひとつだ。また、このアップデートにより、ユーザーのIPアドレスは隠され、サードパーティがインターネット全域でユーザーを追跡する能力にも制限が加えられる。さらには、「メールを非公開」機能を使えば、Appleデバイスのユーザーたちは、ランダムなメールアドレスを利用して、自分個人の受信箱にメールを転送できるようになる。こうすることで、ユーザーは自身のメールアドレスのプライバシーを保てるのだ。
結局のところ、今回のアップデートにより、広告主はメールマーケティングキャンペーンの成否を測定しにくくなってしまうと、マーケターたちは話す。
Appleは「消費者がブランドと交わす間接的なやりとりをマーケターが嗅ぎ回る」「監視マーケティング」を終わらせることをめざし、サードおよびセカンドパーティデータの廃止を段階的に進めていると、クロスプラットフォームマーケティングプラットフォーム、イテラブル(Iterable)でプロダクト担当ディレクターを務めるウェイン・コバーン氏は語る。Appleはこれまでに、このことを逐一明確にしてきたという。
「メールマーケティングキャンペーンが持つ、マーケティング効果を測定する基準としての信頼性が失われるため、今後はクリックの創出など、もっと意味があるメールエンゲージメントにフォーカスする必要が出てくるだろう」と、ザコウィッツ氏は語る。
こうした変化にマーケターはどう対応しているのか?
「iOS 14.5へのアップデートにより、ブランド各社はFacebook広告に対するターゲティング能力を部分的に失い、減収を招く結果になった」と、ザコウィッツ氏は語る。「ブランド各社にとっての問題は、他社に頼って顧客データを入手しているという、その体質だった」。
オムニセンドなどのプラットフォームはすでに、状況の変化に対応すべく、メールマーケティングの方針転換について、クライアントとの話し合いを始めている。たとえば、現在のメールリストを整理して、無反応な連絡先を削除し、「開封なき世界をうまく渡れる」ように、パフォーマンステストを開始するというのも、対応策のひとつだ。
自社のファーストパーティデータを強化することにフォーカスして、オプトインメッセージングを優先することをクライアントに勧めているプラットフォームもある。広告主からのメールを受信するかしないかをユーザーが選び、メッセージをカスタマイズできるようにすることで、彼らが反応する確率を高めるのだ。
iOS 15は必ずしも世界の終わりを意味するわけではないと、マーケターたちは話す。今回のアップデートはサードパーティデータトラッキング終焉の最新章にすぎず、これによりファーストパーティデータに対する広告主の依存度がさらに高まるというだけの話なのだ、と。
分析およびデータプラットフォームのダーシティ(Daasity)でCEOを務めるダン・ルブランク氏は、次のように語る。「このアップデートで一部の機能が失われることは間違いないだろう。しかし結局のところ、これもまた、『メールの死』となるはずだったさまざまな出来事のなかの、ひとつにすぎない」。
Appleの取り締まりとGoogleの「Cookie黙示録」。この状況下で、メールマーケターと広告主は何を期待すべきなのか?
iOS 15がリリースされても、メールの到達率がメールマーケティングの焦点である状況はこれからも変わらないだろうと、コバーン氏はいう。これをもってプライバシーをめぐる戦いが終わる見込みはほとんどないからだ。これはつまり、メールマーケターは今後、メールマーケティングキャンペーンの効果を測定するための新たな方法を見つけ出さなければならなくなるということだ。
「実のところ、メールの開封率は成否を測るものさしではない」と、コバーン氏は語る。開封率を「バニティメトリクス(虚栄の指標)」と呼ぶ同氏は、リンククリックやウェブサイトクリック、セールコンバージョンといった、より質の高い指標の導入を強く推している。「開封率をモニタリングすることにも正当な理由はあるが、マーケターがフォーカスすべきは、価値を高めてくれる(そして、売上を示してくれる)、ブランドにとって意味のある指標なのだ」。
[原文:Cheat Sheet: Why email marketers are calling Apple’s iOS 15 update ‘a proverbial nail in the coffin’]
KIMEKO MCCOY(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)