「提案も慎重に」:広告頼みでも、小売の出稿を警戒するパブリッシャーたち

米国の経済活動が部分的に再開されるなかで、鍵を握る小売部門が動きはじめ、広告支出を再開するという新たな期待が生まれている。

だが、小売業者の多くがつまずいてしまう可能性に基づき、パブリッシャーは彼らと大きな取引をすることを警戒している。2020年だけでも、J.クルー(J. Crew)、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)、ピア1(Pier 1)、モデルズ・スポーティング・グッズ(Modell’s Sporting Goods)など8つの小売業者がすでに破産の申し立てをしており、メイシーズ(Macy’s)やギャップ(Gap Inc.)のように屋台骨がガタついて見えるところも多いからだ。

コスト削減のさまざまな工夫

ある大手パブリッシャーの広告販売部門を率いる人物は、自分のチームでは小売業者の債権格付けを調べ、広告キャンペーンの代金が回収できずに終わってしまうリスクを負うべきかどうかを判断していると話す。社内で定めた要件を満たさない小売業者とは契約できないと、この人物はいう。このパブリッシャーでは、破産保護申請に陥った会社は借金で利益を上げる可能性が低いとみて、初期段階の制作コストは避け、できるだけ早く実行し、支払いを受けられる短期契約に焦点を絞っているという。

2つ目のパブリッシャーは、以前はブランデッドコンテンツの制作にかかる数十万ドル(数千万円)単位のコストの立て替えに耐えることができたが、同社のCRO(最高売上責任者)によると、いまはそうしたコストの前金での支払いを要求しているという。より小規模な、メディアにフォーカスした契約では、このパブリッシャーは、支払期間を短くするよう小売業者に求めている。

3つ目のパブリッシャーは、すべてのパートナーに対して、取引開始前に信用審査を受けるようよう求め、同社のCROは、小売業のクライアントのキャンペーンで使われたコンテンツを再利用することで、キャンペーンのコストを削減しようとしている。

パブリッシャーのなかには、クライアントとの関係を重視する立場をとるものがあり、そうしたところは交渉可能だという。潜在的な広告主からの取引が誰からも断られてしまうほど、状況が悪化しているわけではない。

「誰もが一律に、課題に直面」

クライアント側の事情が変わると期待を寄せるパブリッシャーもいる。3つ目のパブリッシャーのCROは、Amazonが支出を再開すれば、J.C.ペニー(J.C. Penney)やメイシーズなどでの減少を埋め合わせるには充分だろうと話した。だが、破産申請をする、あるいは支出削減を余儀なくされる小売業者が増えると、そこからの売上なしにどう対応できるかを考えはじめたパブリッシャーがいる、と情報筋はいう。

「我々は、小売業が再び活気づき、そこから利益を得られる世界に向けて準備を整えながら、他方ではリスク回避策もとりつつある」と、3つ目のパブリッシャーのCROは述べた。

このCROは、自社の販売チームは、支出を再開した広告主、たとえば一般消費財のようなカテゴリーのブランドに集中し、彼らとの仕事を増やすことで、小売業の損失を補おうと考えていると話した。

多くのビジネスが、米国内全体で実施されているソーシャルディスタンス(社会的距離)のガイドラインに影響されている。だが、そのなかにおいて、もっとも酷い打撃を受けているカテゴリーのひとつは小売業だ。

「誰もが一律に、課題に直面している」と、2つ目のパブリッシャーのCROは語る。このCROが所属するパブリッシャーは、トップの広告カテゴリーとして小売業をカウントしている。「(2020年の)後半に向けて何を提案すべきか、本当に慎重になっている。プリプロダクションの一部、もしくはすべてを前金制にできないか確認したいと思っている」。

制作コストは下げることができる

いくつかのパブリッシャーが目にした明るい側面のひとつは、プリプロダクションコストが下がっていることだ。ソーシャルディスタンシングのせいで、パブリッシャーは手の込んだ制作が実行できず、そうしたサービスの価格がいまは下がってきている。制作にかかる写真撮影に4万ドル(約434万円)の費用がかかっていたところが、いまは5000ドル(約54万円)になったと、2つ目のパブリッシャーのCROはいう。

さらにリスクを最小化するために、1つ目の情報筋は、多額の制作投資を必要とするであろうキャンペーンより、メディアによりフォーカスしたキャンペーンに広告主を向かわせるようにしていると話した。

この人物は、2008年の金融危機のあと、自分が勤めるパブリッシャーでは潜在的な広告主の信用格付けを評価する方針を取っていると言った。

「破産の可能性というレンズを通してすべてを見なければならない」と、この人物はいう。「家賃を払えない、従業員に給料が払えないところがある。(小売業者が倒産したら)我々が支払いを受けられるのは一番最後だろう」。

「良いパートナーであり続けたい」

すべてのパブリッシャーが小売業者との付き合い方を変えたわけではない。J.C.ペニーをクライアントに持つ4つ目のパブリッシャーに所属する人物は、J.C.ペニーに破産の影が迫っているため若干の不安感が社内に漂っているが、契約条件は変更していないと述べる。伝えられるところによれば、J.C.ペニーは、破産手続き中でも営業を続けることを認めてくれそうな債権者から、4億5000万ドル(約489億円)の借入金を得ることを模索しているという。

こうした変更を背景に、広告主は支払い期間を長期化させ、支払い延滞がより常態化するようになっている。これに対し、力のあるところを見せつけることが可能なパブリッシャーは、場合によっては広告主が支払いを完了するまで、広告の掲載開始を拒否している。

ある程度、クリエイティブな作業、エージェンシーサービス、体験の活性化などの分野へ活動範囲を広げてきたパブリッシャーは、すでにこの影響を受けている。それでも最終的には、ほとんどのパブリッシャーは、少しは態度を軟化させ、契約が結べるようにするだろう。

2つ目のパブリッシャーのCROはこう述べた。「我々はともにいると感じさせるアプローチをとらなければならない。我々は良いパートナーであり続けたいと思っているし、仕事を得られるパートナーになりたいと願っている」。

Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)