パンデミックで世界が一変するなか、Zoom(ズーム)の役割はビデオ会議ツールからソーシャルアウトレットへと拡大している。ビューティブランド勢は同アプリを従業員および消費者双方との交流に活用しており、Zoomは新商品の紹介や美容教室、さらにはブランドのファンたちと過ごす「ハッピーアワー」の場となっている。
新型コロナウィルス感染症によるパンデミックで世界が一変するなか、Zoom(ズーム)の役割はビデオ会議ツールからソーシャルアウトレットへと拡大している。ビューティブランド勢は同アプリを従業員および消費者双方との交流に活用しており、Zoomは新商品の紹介や美容教室、さらにはブランドのファンたちと過ごす「ハッピーアワー」の場となっている。
Zoomの利用数は今般の隔離開始から飛躍的に伸びている。同社は具体的な増加率を明かしていないが、アプリに関する市場データ/分析ツールを提供する企業、アップアニー(App Annie)によれば、Zoomは現在、米国でもっともダウンロードされているアプリだ。アプリ利用情報を提供する企業アプトピア(Apptopia)の発表では、Zoomの日間アクティブ利用者数は2020年3月22日時点で、前年比378%増を記録している。
D2Cビューティスタートアップ、トレスティーク(Trestique)はこの2週間、Zoomで公開イベントを開催し、インスタグラムのフォロワーおよび報道陣を招待している。4月第1週の金曜日には、美容教室とハッピーアワーを融合したイベントを催し、ユーザーのマイクをミュートし、チャット形式で質問を受けた。また、PR企業ポークPR(Poke PR)はファーマシー(Farmacy)やブリオジオ(Briogeo)といったビューティ関連の自社クライアントと報道陣を招き、商品の実演イベントをZoomで行なった。
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消費者と交流するイベントへのZoomの利用はこれまで「一般的ではなかった」と、マーケティング・インテリジェンスを提供する企業、コンプレメディア(Comperemedia)のシニアデジタルマーケティングアナリスト、ジャネット・オーネラス氏は語る。「Zoomの利用が個人とプロの双方で急増したことを受けて、ブランド勢はおそらく『ふむ、世間の人々はすでに使っている。であれば、我々もそろそろ彼らとエンゲージする方法を探ったほうが良さそうだ』という感じだと思う」。
「どのブランドもいまは、どれくらい利用できるのか、試しているところだと思う」と、トレスティーク(Trestique)のCEOジェン・キャパヒ氏は語る。「人は人に会いたいもの。私たちは皆人間であり、それまで普通に持っていた繋がりを恋しく思っている」。
他サービスとの使い分け
このたびの隔離以前、トレスティーク(Trestique)はインスタグラムライブを利用していたが、3月からZoomを使いはじめた。同社の場合、ビューティチュートリアルや商品の実演など、「通常はエデュケーションのために[インスタグラム]ライブを使用する」と、キャパヒ氏は語る。「ただ、[ライブストリーミングは]いまや、どちらかというと、ソーシャルギャザリングの場に移行した感がある――エデュケーショナルや商品そのものから離れ、人間としてのあり方に関わる利用へと変わりつつある」。
ミレニアルおよびZ世代に人気のスキンケアブランド、グロウ・レシピ(Glow Recipe)も4月第1週の金曜日、Zoomを使った「ハッピーアワー」を催し、共同創設者のサラ・リー氏とクリスティン・チャン氏が世界中のファンと直接チャットをするという、より自由度の高いアプローチを採った。なかには、インドから現地時間午前3時にサインインしてきた熱烈なファンもいたという。イベントの告知は同社のインスタグラムストーリーズを介して行なった。
ただし、完全な双方向性は相応のリスクを伴う。グロウ・レシピ(Glow Recipe)の上記イベントは「Zoom爆撃(Zoombomb)」を受けた時点で打ち切りとなり、創設者のふたりは急きょ、インスタグラムのダイレクトメッセージでユーザーに連絡し、新たな会合に招待する、という騒動になった。
Zoom爆撃という深刻な問題
Zoomが普及した現在、Zoom爆撃はFBIが警告を発するほど深刻な問題となっている。もっともたわいのない例としては、TikTokで見られるものがある。ユーザーが#zoomclassといったハッシュタグを通じてオンライン教室のパスワードを共有する場に不届き者が入り込み、馬鹿げたことを言って笑いを取ろうとする、といった類だ。だが、ネット上のいわば暗がり、たとえば匿名性の高い画像掲示板4Chanなどには、組織的なZoom爆撃集団も存在し、そうした集団はヘイトスピーチやハラスメント急増の下地にもなっている。ビューティ業界以外ではたとえば、メキシコ料理レストランチェーン、チポトレ(Chipotle)がZoom爆撃による甚大な被害を受けている。同社は3月17日、隔離期間中に開始したZoomイベントシリーズの最中、ひとりのユーザーによってポルノ動画を流された。
こうした事態を受けて、ブランド勢の間に疑問も生じている――Zoomは果たして、消費者交流コンテンツ用のツールとしてふさわしいのか? 「それはあくまで、オーディエンスの種類と、どの程度パブリックにするかによる」と、オーネラス氏は語る。
そうしたイベント用の安全対策についてZoomに訊ねたが、回答はなかった。同社CEOエリック・ユアン氏は4月1日、ブログ上で次のようにコメントしている。「現在、非常に幅広い層のユーザーが弊社のプロダクトを多岐にわたる、いずれも想定外の方法で利用しており、そのため同プラットフォームの着想時には予想していなかったさまざまな課題が生じている」。
Zoom爆撃問題を解決方法
なかには、Zoomミーティングをよりプライベート(非公開)な形で実施するブランドもある。クリーンビューティブランド、インディ・リー(Indie Lee)はたとえば、3月に美容教室を催したが、参加希望者にはEventBrite(イベントブライト)を介した事前申込を求めた。また、グロウ・レシピ(Glow Recipe)の広報によれば、同社は将来的により厳格なプライバシー設定を実施するという。
ミーティングマネージャーらはまた、ユーザーをミュートしておく、あるいはミーティングから退出させるといった管理オプションも有しており、こうした機能はZoom爆撃の多発以前から存在していた。 4月5日から、Zoomは妨害防止策として、バーチャルな待機室(Waiting Room)をデフォルトで有効にし、ミーティングIDでの入室にパスワードの入力を必要としている。
ブランド勢がZoom爆撃問題を解決し、今後もZoomを多用する場合、各社ともに最大の課題は、いかにしてイベント/セッションに十分なユーザー数を確保していくか、だろう。「現在、もっとも好位置に付けているのは、[ソーシャルメディアで]すでにオーディエンスを育成しているブランドだ」と、オーネラス氏は語る。
LIZ FLORA(原文 / 訳:SI Japan)
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