2015年、YouTubeの子ども向け公式アプリYouTube Kidsが始動した際、安全な環境で子どもに向けて広告を打てる機会の登場に、メディアバイヤーらは大いに好奇心をそそられた。それから4年、不祥事があってもなお、子どもをターゲットとする広告主は依然、YouTube Kidsに予算を投じている。
2015年、YouTubeの子ども向け公式アプリYouTube Kidsが始動した際、安全な環境で子どもに向けて広告を打てる機会の登場に、メディアバイヤーらは大いに好奇心をそそられた。それから4年が経ち、(『アナと雪の女王』のヒロインである)エルサを暴力的に描いた動画の配信という不祥事があってもなお、子どもをターゲットとする広告主は依然、YouTube Kidsに予算を投じている。
子どもたちはソーシャルネットワーク参加が認められていないため、彼らを狙うブランドにしてみれば、同プラットフォームは適切なオーディエンスにオンラインで安全にリーチさせてくれる非常に貴重な存在だと、YouTube Kidsに広告を出稿する某ブランド幹部は言う。また、YouTube Kidsはコミュニティもコメント機能もないため、ソーシャルネットワーク予算には含まれないという。
「YouTubeへの広告出稿はトレードオフを伴う。スケールvsキッズの構図だ。キッズとソーシャルの完全な両立はない。キッズはソーシャルプラットフォームにいないか、あるいはソーシャルプラットフォームにいてはならないか、のどちらかだからだ」と、前出の幹部は語る。
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周知の事実と大きな課題
事実として、子どもたちはYouTubeに夢中だ。だが表向き、彼らはそこにいるはずがないことになっている。某メディア幹部いわく、「[従来の]YouTubeに、13才未満(のオーディエンス)は存在しない。彼らは自分のアカウントを持っていない、とされている。観ているとしても、両親のアカウントを使っていると。しかし、実際には膨大な人数のキッズが通常版YouTubeを利用しており、とてつもない、ありえないほどの過少報告がなされている」。
YouTube Kidsは、児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に則して子どもに配信するためのYouTubeの方策だった。彼らは全視聴者が13才以上という仮初めの憶測を捨て、子ども専用のプラットフォームを設けることにしたのだと、子どもが安全に使えるツールおよびテクノロジーにフォーカスする企業スーパーオーサム(SuperAwesome)のCEO、ディラン・コリンズ氏は指摘する。
「膨大な人数のキッズがインターネットを日常的に使っているのは周知の事実だが、YouTubeをはじめ、多くの古参テクノロジープラットフォームはもともと、彼らを受け入れるようには設計されていないため、そこが大きな課題となっている」と、コリンズ氏は語る。「Googleはビジネスエンジンとして圧倒的な成功を収めているが、ユーザーの種別はひとつに絞っている。そう、大人だ。このビジネスモデルを子どもに適用するには、これまでの成長戦略と真逆のことをする必要がある。つまり、膨大なデータからゼロデータに戻るわけであり、これは非常に難しい」。
YouTubeをめぐる混乱状況
立ち上げ時、YouTube Kidsは子ども向けに作られたコンテンツを盛り込み、それをオーディエンスの年齢にふさわしい広告で支えるつもりだった。だが、今年6月のブルームバーグ(Bloomberg)の報道によれば、YouTubeは当初、YouTube Kidsを徹底的にキュレートした、サブスクリプションのみのアプリにすることも考えていたが、最終的にアルゴリズムでソートする、広告支援型を選択した。言い換えれば、全コンテンツの精査を避けたのであり、これは当然ながら、数々の問題を招いた。2017年10月には、英米ニュースサイト、マッシャブル(Mashable)が非安全な、暴力的でさえあるコンテンツの存在を報じた。
こうした報道を受け、YouTubeはより慎重な吟味とペアレンタルコントロールを導入するなど、問題への対応に動いている旨を発表した。だが、YouTubeのシステムはそもそも完全ではなく、それはYouTube Kidsへの新たなペアレンタルコントロール導入について綴った公式ブログ内で、YouTube自身も認めている――「本アプリにおける全動画を家族で安心して楽しめるものにしようと尽力しているが、完璧なシステムが存在しないのもまた事実だ」。先月、米連邦取引委員会(フェデラル・トレード・コミッション)とYouTubeがCOPPA違反に関する数百万ドルの罰金支払いについて合意に至ったと報じられた。この件に関し、YouTubeはコメントできないとしている。
それでもなお、広告主はYouTube Kidsを離れていない。YouTubeの広報によれば、同アプリの週間ユーザー数は2000万人に上る。パラマウントの新作映画『ドラと失われた金の都(Dora and the Lost City of Gold)』は独占スポンサーの ドードー・キッズ(Dodo Kids)を介してYouTube Kidsで盛んに宣伝されている。ドードー・キッズは、グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)傘下の動物動画専門パブリッシャー、ドードー(The Dodo)が新設した子ども向け動画部門だ。ドードー・キッズの動画はYouTubeとYouTube Kidsのいずれでも配信されており、それと連動する形で、新作映画『ドラ』の宣伝も両者でくり返し流れている。
パートナーたちの見解
ただもちろん、YouTube Kidsの広告インベントリは限定的だ。ある持株会社の広告宣伝部門幹部は、クライアントがYouTubeの通常版で子どもたちに向けて広告を配信しないよう、常に目を配っておくことによりフォーカスしていると語る。
「YouTubeの視聴者をキッズと非キッズに分離する最大の理由は、うちの広告主が皆、子どもへの広告配信にますます慎重になっているからだ。クライアントのなかには、UKの監視機関、ICO(英国個人情報保護監督機関)から注意喚起を受けたところもある。いくつかの広告には、親が子どもにふさわしくないものを見せてしまう恐れがある、と。そのうち、子ども向け広告は共視聴だけになってしまうかもしれない」と、同幹部は言い添える。
YouTubeとしては、通常版における子どもの存在を認めるわけにはいかないが、子どもが家族で共視聴している可能性はある。ただ、YouTubeとともにブランドセーフティに取り組んだこともある動画分析企業オープンスレイト(OpenSlate)のCMOアンドレア・チン氏は「スマホやタブレットの画面は非常に小さく、個人的には、共視聴は非現実的だと思っていた」と語る。「我々の経験則では、大人をターゲットにする広告主は普通、明らかな子ども向けコンテンツをできるだけ避けようとする」。
子どもを避けることの皮肉
もっとも、何としても子どもを避けようとする広告主のこうした姿勢には、皮肉がついて回る。彼らの思いはブランドセーフティへの専心から来ているが、ブランドセーフティがもっとも確保されているチャンネルは一般に、子ども用コンテンツだからだ。
「ブランドセーフティ(安全性)とスータビリティ(適合性)を考えれば考えるほど、過激な表現の心配がないキッズコンテンツに向かわざるをえなくなる。つまり、オーディエンス[データ]からは大人に向かえと言われ、コンテンツ的にはキッズに向かえと言われる、というわけだ」と、前出のメディア幹部は語る。
Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)