エージェンシーの創設者や業界のリーダーと話す機会がある人なら、「エージェンシーのビジネスモデルは崩壊している」というようなコメントを聞いた経験がおそらくあるだろう。もちろんこれは、新型コロナウイルス感染症の流行によってはじめて認識された事象ではない。
エージェンシーの創設者や業界のリーダーと話す機会がある人なら、「エージェンシーのビジネスモデルは崩壊している」というようなコメントを聞いた経験がおそらくあるだろう。もちろんこれは、新型コロナウイルス感染症の流行によってはじめて認識された事象ではない。エージェンシーの経営幹部はかなり前から、今日まで続くフィー型報酬モデルのあり方を嘆いてきた。
問題は、業界のリーダーたち自身がフィー型に取って代わる新たな報酬モデルをいまだ考案、導入していないというところにある(少なくとも業界として一斉に実践はしていない)。しかし、近年広告主のあいだでは、支払いの窓口をなくし、指名制ではなくプロジェクトベース契約に変更するケースが増えてきた。そのため、フィー型報酬モデルをめぐる課題が浮き彫りになったのだ。そこへコロナ禍が訪れ、問題は加速度的に深刻化した。
エージェンシーが生き残るにはビジネスそのものを変えていかなくてはならない。次の四半期をなんとか乗り切ろうと、あちこち経費削っても無駄だ。7月第5週にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)が報じたように、広告業界には「大きな調整の波」が押し寄せるだろう。ただ困ったことに、同様の問題は、エージェンシーの経営者らの目の前に、何年も前から突きつけられていた。それでも、危機意識に欠ける経営陣は抜本的な改革を行わなかったのだ。彼らがコロナ禍を予測できていたら云々などというつもりはないが、変革の必要性は、コロナ禍以前から火を見るより明らかだったのだ。
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「いままでエージェンシーは、経費を切り詰めることで大抵の苦境を切り抜けてきた」。こう語るのは、マーケティング支援企業、メタフォース(Metaforce)の共同創設者で、ブランドコンサルタントとして活動するアレン・アダムソン氏だ。「広告代理店の支出でもっとも大きいのは、人件費と不動産関連費だが、昨今における景気の急速な悪化を受けて、代理店も事業運営の方法を変更せざるを得なくなっている。経費を多少削るだけでは、不十分だ」。
その場しのぎのコスト削減
経費削減は、かつては頼りになる対策だった。リーマンショック後、2008年から2009年にかけて起こった金融危機では、広告業界も深刻な打撃を受けた。マーケターは予算を縮小し広告支出を抑え、景気後退に備えてリスクを軽減する取り組みを進めた。当然ながら、エージェンシーも経費を圧縮する必要に迫られ、コンサルタント会社メディアシェルパ(The Media Sherpa)の創設者ナンシー・ヒル氏がいうところの、「とてつもない規模の一時解雇」を行った。しかし「事業のインフラはそのままで、働き方や報酬体系も変えなかった。こうした施策こそ、変革に必要だったにも関わらずだ」と、アメリカ広告業協会(4A’s)会長を務めたこともある同氏は主張する。
今回のコロナ危機に際し、広告代理店は再び人員削減に走った。例を挙げると、IPGグループは第2四半期中に代理店部門のスタッフの1%を解雇。オムニコム(Omnicom)も6100の職を減らした。人員整理は、エージェンシー持ち株会社のみにとどまらない。独立系エージェンシーのワイデン+ケネディ(Wieden + Kennedy)も、最近スタッフ規模を縮小している。フォレスターリサーチの調査によれば、広告業界における人員削減率は平均で12%にのぼる。
また、エージェンシーは賃料など不動産関連費も削っている。通常、賃貸物件は長期契約で煩雑な面があるため、エージェンシーは不況になるとオフィスの面積を縮小するより、人員カットを行うことが多い。しかし新型コロナウイルスの影響で社員の大半がテレワークせざるを得ないいま、エージェンシー持ち株会社は、人件費と賃料の両方を削減している。現に第2四半期、オムニコムはオフィス面積を100万平方フィート(約9万2900平方メートル)縮小し、IPGは全世界の賃貸オフィス面積のうち50万平方フィート(約4万6450平方メートル)を削減した。
こうした各社のコスト削減の取り組みは「ある種の警報だ」とフォレスターリサーチの主任アナリスト、ジェイ・パティソール氏は語る。「つまりこれは、今後もスタッフやオフィス面積の縮小が続くことを、エージェンシー各社が受け入れていることを意味している」。
変革のチャンス
しかし、業界アナリストやエージェンシー幹部の中には、人員整理とオフィス面積の削減だけでは十分ではないと訴える者もいる。
「広告代理店は収益モデルを変える必要がある」とパティソール氏は指摘。「2020年は代理店にとって重要な復活の年になるはずだった。テクノロジー企業やコンサルタント会社なら年間2桁成長もありえるが、広告業界では大半の企業が成長率3%前後。結局、人中心のサービスモデルでは思うように機能しなかったわけで、今回の危機は変革を受け入れ推し進めるチャンスだということだ」。
また、この大きな混乱をきっかけに新しいエージェンシーが現れ、変革が起きるのではという見方もある。メディアシェルパ創設者、ナンシー・ヒル氏によれば、不況下で解雇されたクリエイティブ系スタッフが起業することは、よくあるケースで、新たな代理店が設立されるのも珍しくないという。実際、こうした動きはすでにはじまっている。老舗広告代理店BBDOの最高執行責任者を務めていたグレッグ・ハーン氏は4月に辞任したが、6月までには共同創設者として新しいエージェンシー、ミスチーフ(Mischief)を立ち上げると発表している。
規模の大小、歴史の長短にかかわりなく、広告代理店がコロナ危機をしのぐには、徐々に変化を遂げていくやり方は通用しないことは明らかだ。クライアント企業の広告予算が2019年レベルに戻るのは2021年半ば、もしくは2022年になる可能性もあるだけに、荒療治が急務だ、とパティソール氏は強調した。
「この一大危機により、多くの代理店が事業構造や市場戦略の見直しを強いられるだろう」と、メタフォースのアレン・アダムソン氏はいう。「それは現行の施策の焼き直しでは不十分で、完全にゼロベースからはじめなければならない」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)