「ゼロUI」とは、スクリーンのないユーザー体験全般を示し、音声(Amazonのアレクサ[Alexa]のような技術)や動き(Magic Leap[マジックリー]のような技術)で、プロダクトに働きかけることでサービスを受けられるもの。今回の「一問一答」シリーズでは、この「ゼロUI」を、マーケター向けに解説します。
クリップもタップも必要ないユーザー体験が、いま注目を集めています。
最近、一般的になりつつある「ゼロユーザーインターフェイス(ゼロUI)」という概念。これは、アクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive)傘下のエージェンシー、フィヨルド(Fjord)に在籍したデザイナー、アンディ・グッドマン氏が作り出した言葉です。
「ゼロUI」とは、スクリーンのない体験全般を示し、音声(Amazonのアレクサ[Alexa]のような技術)や動き(Magic Leap[マジックリープ]のような技術)で、プロダクトに働きかけることでサービスを受けられるもの。サービス利用のために、人間がUI操作を覚えるのではなく、人間の身ぶりや声でコンピューターが反応できるようにするのが共通する目標となります。つまり、従来の意味におけるインターフェイスが必要ありません。
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GoogleのCEO、サンダー・ピチャイ氏は2016年4月、親会社アルファベット(Alphabet)の株主たちへの書簡に、「世界はモバイルファーストから、AIファーストに移行することになるだろう」と記しました。モバイルというデバイスから、デバイスという存在を感じさせない、AI中心のモノづくりへの移行に重要になってくるのが「ゼロUI」です。今回の「一問一答」シリーズでは、この「ゼロUI」について、マーケター向けに分かりやすく解説しましょう。
――なぜマーケター? マーケティングに一体なんの関係があるのですか?
マーケターは2017年、「スクリーンのない体験」という話をますます耳にするでしょう。ガートナーは、2020年にはウェブ閲覧の30%がスクリーンなしになると予測しています。
音声や動きを認識するソフトウェアは新しいものではありませんが、現在はそうしたデバイスがサードパーティとの連携に扉を開きつつあります。iOSのSiriは2016年6月、一部のサードパーティ開発者に開放されました。Windows10のコルタナも12月、米金融大手のキャピタルワン(Capital One)やオンライン旅行予約のエクスペディア(Expedia)をパートナーとして、これに続きました。
――それで?
つまり、いまやブランドは、消費者のあいだで間違いなく人気が高まりつつある、新たな場所に入り込むことが可能になったのです。Amazonによると、2016年のクリスマス、同社のホームアシスタント製品「エコー(Echo)」の販売数は2015年の9倍になったと発表しました。Amazonは具体的な販売数を公開していませんが、「ミリオン」にのぼるオーダー数だと主張しています。
――でも、「ゼロUI」という言葉を使う必要があるのですか?
実際に出回っている言葉ですが、誰もが気に入っているわけではありません。業界がコンセプトに慣れて、より業界用語っぽさがないものを考え出すまでの、仮の名前としては適切だと考える人もいます。ウィー・アー・ソーシャル(We Are Social)でイノベーションディレクターを務めるトム・オラートン氏にいわせれば、「ゼロUI」という言葉は「エージェンシーによる、まったくのたわ言」です。「ゼロUI」はあまりに幅広く、把握が困難だと、オラートン氏は主張。「実際には物事を停滞させかねない」とも述べています。
しかし一方で、エージェンシーの+リハブスタジオ(+rehabstudio)でマネージングディレクターを務めるロブ・ベネット氏たちは、「ゼロUI」は「挑発する」言葉だと考えています。マーケターのあいだで、まだ十分に真剣に受け止められていないような消費者行動に対する対処を、業界に広めるという意味があるというのです。
ただし、「ゼロUI」は、音声と身ぶりにとどまらず、もっとたくさんのものをひとつにまとめる言葉です。たとえば、メッセンジャーのボットや、より広範囲な「心を察知する」プロジェクトにまで拡大されることが少なくありません。これらをひとつにまとめて「ゼロUI」と呼ぶことで、それぞれの技術のもつニュアンスが失われる可能性はあります。
――呼び方はともかく、いまの流行なんですね?
このような「スクリーンをもたないプラットフォーム」が、多くのブランドからリソースを集めようとしています。たとえば、キャンベル・スープ(Campbell’s)やドミノ・ピザ(Domino’s)。そしてテキーラのパトロン(Patrn)といったブランドが、Amazonのアレクサ、AppleのSiri、GoogleのHomeといった音声操作プラットフォームの活用を積極的に模索しているのです。
ブランドの注目は高まっているため、いまではエージェンシーで音声アプリの「スキル(アレクサにおける[アプリケーション]のようなもの)」開発が奨励されています。
「メッセージングから行動への移行が重要」と語るのは、IoTエージェンシー、シャープ・エンド(Sharp End)の創業パートナーであるキャメロン・ワース氏。「私たちは、ブランドエクイティ(ブランド資産)がサービスベースで提供される世界へと突入している。もはやアプリにロゴを表示させるかどうかではない」。
――参入すべきなのはどんな企業ですか?
そうしたプラットフォーム上で実際に役に立つようなブランドです。
「テクノロジー自体がストーリーになることはないから、インターフェイス回りにこだわるのではなく、ユーザーの目的について強調することだ」と、ウィー・アー・ソーシャルのオラートン氏は語ります。ただし、たとえばUber(ウーバー)はアレクサとHomeでタクシーを見つけ、注文し、追跡することができますし、FacebookのMessengerでの会話内からもこれが可能ですが、すべてのブランドがUberのようにスムーズにこの素晴らしい新世界に参入できるとは限らないでしょう。
――でも、まだ規模はありませんよね?
こうした技術、および技術とブランドとの連携はまだ黎明期であり、まだ規模はありません。加えて、家庭内に入り込むにはより信頼性が必要なため、ブランドは、市場の把握とやり過ぎた情報蓄積のあいだでバランスを取ることが求められます。
市場調査会社ミンテル(Mintel)でテクノロジーとメディアの調査を指揮するマット・キング氏は、「人々は音声を、さまざまな基本的なことに使っている。こうした音声を使ってサービスを提供する場合、コミュニケーションを妨げることなく活用する方法を見つけることが課題になる」と語っています。
Grace Caffyn (原文 / 訳:ガリレオ)
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