欧州の「一般データ保護規則」(GDPR)の施行によって、「セカンドパーティデータ」の取引がすぐに勢いづくことはありませんでしたが、サードパーティデータに対する不満と代わりの手段を求める声が高まるなかで、状況は変わりつつあります。デジタルマーケティング関連の新語を解説する「一問一答」シリーズで解説します。
パブリッシャーが販売し、広告主が求めているもの、それがセカンドパーティデータです。プライバシーに準拠した新しいやり方でオンラインユーザーをターゲットにしようと奮闘している広告業界で、いまセカンドパーティデータが大いに注目されています。
欧州の「一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)への対応が活発に議論されていた2018年、セカンドパーティデータは、規制に準拠した形でユーザーを広告のターゲットにできる手段のひとつとされ、明示的な許可を得ずに利用できるといわれていました。いくつかの理由で、セカンドパーティデータの取引がすぐに勢いづくことはありませんでしたが、サードパーティデータに対する不満と代わりの手段を求める声が高まるなかで、状況は変わりつつあります。
デジタルマーケティング関連の新語を解説する「一問一答」シリーズ。今回は、セカンドパーティデータについて考えるべき基本的な点について説明しましょう。
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──セカンドパーティデータとはなんですか
ユーザーから直接提供されていないものの、直接的な関係があるほかのビジネスや、メディアオーナーが運営するプライベートマーケットプレイス経由で合法的に利用できるデータのことです。
──ファーストパーティデータと同じようにも思えますが?
実際のところ、セカンドパーティデータは、パブリッシャーなどほかの企業が所有しているファーストパーティデータに過ぎません。パブリッシャーはおもにふたつの方法で、自社のデータをセカンドパーティデータとして広告主に提供しています。ひとつ目は、広告主が所有しているデータと統合する方法です。このようなデータは、既存のオーディエンスや彼らに似た新しいオーディエンスにリーチするための統合データセットとして、パブリッシャーのサイトで利用されます。ふたつ目は、特定のデータのみをインベントリー(在庫)から抜き出し、ほかのパブリッシャーのサイトでユーザーにリーチしたいと考えている広告主に販売するというものです。この場合、信頼できるソースからデータを購入できるということが、広告主に対するセールスポイントとなります。
「セカンドパーティデータを購入すれば、ユーザーからどのような同意を得たのかがすでにわかっている他社のデータを入手できる」と、アドテクベンダーのインフォサム(InfoSum)で営業担当バイスプレジデントを務めるスチュアート・コールマン氏は述べています。「そのようなデータの信頼性とアドレサビリティは、異なる複数のソースから集められたデータを購入するよりも優れている」。
──セカンドパーティデータは以前から存在していましたが、なぜいまになって注目されているのですか?
2018年5月に施行されたGDPRは、パブリッシャーとプラットフォームに連鎖反応を引き起こしましたが、いまその状況に見舞われているのは、アドテクベンダーとエージェンシー、そして広告主です。ブラウザがサードパーティデータを締め出し、規制当局がそのようなデータの利用を追及するなかで、リスクの低い手段に対するニーズは高まっています。アドテク企業のロテーム(Lotame)によると、2018年には、セカンドパーティデータを販売する企業の数が前年比で460%も増加しました。実際、イミディエイト・メディア(Immediate Media)のようなパブリッシャーは、ほかの企業がアクセスできないプライベートなプラットフォームで、ファーストパーティデータを広告主に販売しています。ガーディアン(The Guardian)、ニュースUK(News UK)、Business Insider(ビジネスインサイダー)といったパブリッシャーも、サードパーティCookieに依存しない持続可能なビジネスモデルを構築しようと、独自のやり方でセカンドパーティデータの取引に乗り出しています。
──企業間でデータを共有するというのは、なにか怪しげな感じもしますが…どうなんでしょう?
そうなる可能性もあります。GDPRをめぐる喧騒のために、パブリッシャーは自社のセカンドパーティデータ戦略を後回しにしてきました。データ規制当局による監視が強まるなかで、パブリッシャーの多くは、自社のシステムを離れたデータがどのように使われるのか確証が持てない取引に躊躇していたのです。また、サイト訪問者の行動に関する豊富なデータへのアクセス許可を広告主に与えることにも難色を示していました。許可すれば、自社のユーザーが広告のターゲットになるだけでなく、広告主がユーザーの情報にアクセスし、独自のユーザープロファイルを構築できるようになる可能性があるからです。
しかしいま、サードパーティトラッキングに対するプレッシャーの高まりによって、こうした懸念が薄まりつつあるようです。企業の活動に関する規制が強化されるなかでも、パブリッシャーは、アライアンスという形で相互に利益をもたらすパートナーシップを結び、ファーストパーティデータの取引を拡大しようとしています。こうしたデータは、セカンドパーティデータと同じくらい有益な情報を含んでいるものの、ほかのデータセットほどの規模がないため、アライアンスが形成されているのです。
そして、セカンドパーティデータの使用を検討しているパブリッシャーと広告主の双方に手を差し伸べる存在として、アドテクベンダーが浮上しています。ベンダーによっては、パブリッシャーや広告主と提携してセカンドパーティデータの利用を拡大するためのデータ戦略を構築しているところもあれば、セカンドパーティデータのマーケットプレイスを作り出そうとしているところもあります。ただし、アドテクベンダーが支援に乗り出すことによって、さらに多くの問題が発生する可能性もあります。サードパーティデータに対する厳しい取り締まりを考えると、ファーストパーティデータやセカンドパーティデータをアドテクベンダーが取り扱うのは、かつてないほど難しいのが現状です。
──セカンドパーティデータがパブリッシャーにとって役立つことはわかりましたが、広告主にとってはどうなのでしょうか?
この問題は、サードパーティデータに対する不満の高まりという話に戻ることになります。広告主は質の高いデータを持っていますが、既存の顧客だけでなく新しいユーザーにオンラインでリーチするには、何らかの方法でデータを組み合わせ、照合する必要があります。セカンドパーティデータはそのための手段を提供してくれるものであり、オーディエンス拡大キャンペーンを強化したり、広告ターゲティングを強化して無駄やコストを最小限に抑えたりすることが可能になります。信頼性の高いパブリッシャーのデータにアクセスできる手段を得る取り組みは、かなり前から議論されており、すでに行われているケースも見られます。アメリカンエキスプレス(American Express)のように、パブリッシャーがオーディエンスから利益を得られる新しい手法に注目する企業が出てくるなか、こうした議論が実際の取引に結びつきはじめています。また、セカンドパーティデータの取引を望んでいるのは、パブリッシャーだけではありません。小売業者もこのトレンドに加わりつつあります。
ハバスメディアグループ(Havas Media Group)で最高データ責任者を務めるピーター・セドラチェク氏は、次のように述べています。「我々はほかのクライアントと協力しながら、セカンドパーティの統合を進めている。消費財(CPG)のクライアントのなかには、小売業者のレンズを通してしか顧客のことを知ることができないところもある。セカンドパーティデータの取引を実現することは、そんな彼らを支援し、彼らの製品を買う消費者に関する理解を深めてもらうために重要なのだ」。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)