プログラマティック広告主のあいだで、「カスタム入札アルゴリズム」の需要が高まっています。画一的なアプローチでインプレッションを購入するアドテクベンダーの既存アルゴリズムの代用品が求められているためです。今回の「一問一答」シリーズでは、カスタム入札アルゴリズムについて、基本的なことから説明しましょう。
プログラマティック広告主のあいだで、「カスタム入札アルゴリズム」の需要が高まっています。というのも、アドテクベンダーの既存アルゴリズムは、画一的なアプローチでインプレッションを購入するため、その代用品が求められているのです。
その一方、一部のエージェンシーでは、こうした代替的なアルゴリズムを、アドテク業界に対する、影響力を行使する手段と捉えています。最近では、エージェンシーを介さず、広告主と直接取引しているアドテク企業も増えているからです。
すべての新しいトレンドがそうであるように、こうしたアルゴリズムとその仕組みに関しては混乱が存在します。今回の「一問一答」シリーズでは、カスタム入札アルゴリズムについて、基本的なことから説明しましょう。
Advertisement
──ひと言で表現すると、「カスタム入札アルゴリズム」とは何ですか?
ファーストパーティアルゴリズムとも呼ばれるカスタム入札アルゴリズムは、カスタマイズされた入札ルールのセットです。キャンペーンごとに動的に生成され、特定のビジネスゴールと一致する結果をもたらすよう設計されます。特定の広告主のために設計されるため、アルゴリズムの「所有者」は広告主です。デマンドサイドプラットフォームがそうであるように、通常、こうしたアルゴリズムはアドテクベンダーが所有しているため、広告主の目標に合わせた微調整は不可能です。一部の広告主はカスタム入札アルゴリズムに自前のファーストパーティデータを使い、コンテクスチュアルターゲティング、注目ベースの指標といった要素に集中しやすくすることで、事業目標までさかのぼりやすくしています。
──カスタム入札アルゴリズムは、どこで見つけられますか?
ビーズワックス(Beeswax)をはじめ、プログラマティック広告主向けのカスタムアルゴリズムは作っていないものの、広告主がアルゴリズムを自作するための製品を提供するアドテクベンダーもあります。たとえば、ビーズワックスの場合、カスタムアルゴリズムの作り方をアドバイスしたり、カスタムアルゴリズムを開発するサイビッツ(Scibids)のような企業を紹介したりしています。サイビッツ、メディアガンマ(MediaGamma)、ストライクソーシャル(Strike Social)などは、同様のピッチにバリエーションをつけてマーケティングを行うアドテクベンダーのニューウェーブで、広告主やエージェンシーのためにカスタムアルゴリズムを開発し、プログラマティック取引に投じられるリソースを減らそうとしています。これはまさに、バイサイドが求めているものです。プログラマティックから利益を得るための金銭的負担が、広告主とエージェンシーの両方に大きな打撃を与えているためです。
サイビッツ英国法人のマネージングディレクター、マット・ナッシュ氏は「マーケターとエージェンシーは領域を限定した人工知能(AI)の恩恵を求め、必要としている。しかし同時に、自前のAIを構築するには、複数年プロジェクトへのコミットメント、専用のリソース、プラットフォームをまたいだ継続的な投資が不可欠で、成功する保証はどこにもないということを彼らはよくわかっている」と、述べています。
──多額の費用がかかりそうですね。
データサイエンスと分析の知識を持つ人材が不足していたころに比べれば、カスタム入札アルゴリズムの開発者を雇うためのコストは安くなっています。また、同じキャンペーン計画であれば、項目をコピーしなくてもアドテクベンダーが入札を微調整できる入札調整機能など、便利なツールも登場しています。こうしたスキルやサービスが広告業界に浸透したおかげで、カスタム入札アルゴリズムを開発する企業の参入障壁が低くなり、購入価格も下がっています。その結果、規模の大小にかかわらず、カスタム入札アルゴリズムに投資する広告主は増加しています。
──実例を紹介してください。
たとえば、ホテルチェーンのメリア(Melia)は社内チームをつくり、目標が変わるたび、トレーダーがプログラマティックキャンペーンの微調整を行っていましたが、時間と費用を節約するため、サイビッツを採用しました。同社でプログラマティック部門を率いるケラルト・コスタ氏によれば、標準的なアルゴリズムを用いたキャンペーンに比べて、広告費に対する利益率が4倍まで増加し、サイトの直帰率も15%下がったそうです。
──欠点はないのですか?
カスタム入札アルゴリズムは大々的に宣伝されていますが、ほとんどの広告主にとって、技術的に可能なことははるかに少ないというのが現状です。
一部のアドテクベンダーやコンサルタントは、いずれカスタム入札アルゴリズムはとてつもなく大きな存在になり、広告主はエージェンシーのトレーディングデスクで使っていたアルゴリズムをほかのトレーディングデスクに移動できるようになると売り込んでいます。理論的には素晴らしいことですが、広告運用の技術的制約を完全に無視しています。エージェンシーのトレーディングデスクはさまざまなアドテクを採用しているため、あるトレーディングデスクで機能するアルゴリズムがほかのトレーディングデスクでも機能するとは限らないのです。カスタム入札アルゴリズムを育てることへのコミットメントについても考えなければなりません。どれくらい大きな存在になるかにもよりますが、カスタム入札アルゴリズムはいずれ、顧客獲得とトラフィック生成を別々に扱うなど、キャンペーンを適切に処理できるよう訓練する必要があるでしょう。メディア購入を内製化することの現実が鮮明になってきたいま、すべての広告主が積極的に取り組むとは思えません。
──アルゴリズムが代わりにやってくれるのであれば、メディアエージェンシーにプログラマティック広告の購入を依頼する必要がなくなるのでは?
適切なサイトに適切なタグを付けることから、適切なデータが使われていると確認することまで、プログラマティックキャンペーンの準備はある程度の度胸がなければできません。アルゴリズムは適切な情報がなければ、オークションで適切な決断を下すことができないため、もし取り扱いを誤れば、すぐさま窮地に追い込まれる可能性があります。ただし、カスタム入札アルゴリズムにキャンペーンを任せることははじまりにすぎません。マインドシェア(Mindshare)のデジタル部門ファスト(Fast)を率いるアレクシス・フォークナー氏は9月、英国ロンドンで開催されたサイビッツのイベントで、マインドシェアの幹部はいまだに、カスタム入札アルゴリズムが何を購入しているかをチェックしなければならないと話していました。
「プログラマティックキャンペーンの日々の最適化に関しては、アルゴリズムは本当によく働いていますが、アルゴリズムによる購入の評価にもかなりの労力を費やしています。我々はまだ、カスタム入札アルゴリズムを分析する段階に移行したばかりです」と、フォークナー氏は言います。
もしカスタム入札アルゴリズムがもっと広く導入されれば、メディアエージェンシーは行く手をはばまれることになるでしょう。デジタルマーケティングを専門とするアクセンチュアインタラクティブ(Accenture Interactive)のアミール・マリク氏は同じイベントで、もし広告主がアルゴリズムにより多くの入札を任せるようになれば、エージェンシーはプログラマティックトレーダーを減らさざるを得なくなると予想していました。さらに、マリク氏はエージェンシーへの提言として、メディアを購入するためのアルゴリズムを扱うことができるデータサイエンティストを雇うべきだと述べていました。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)