アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch、以下アバクロ)が、地価の高い都市における旗艦店の一部を畳んでいる。これはパンデミック以前から、数年にわたって行われてきた取り組みだ。だが今、同社ではEC事業を成長させるという戦略のもと、この取り組みを加速させている。
アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch、以下アバクロ)が、地価の高い都市における旗艦店の一部を畳んでいる。これはパンデミック以前から、数年にわたって行われてきた取り組みだ。だが今、同社ではEC事業を成長させるという戦略のもと、この取り組みを加速させている。
同社は以前から旗艦店3店舗の閉鎖を公表していたが、それ加えて11月24日に行われた第3四半期の業績発表で、同社CEOのフラン・ホロウィッツ氏は、地主との交渉でリースの早期終了を決定したこと、2~3カ月以内に新たに4つの旗艦店を閉じることを発表している。アバクロは、数千平米の旗艦店をロンドンやパリ、ミュンヘンといった各都市の観光客の多く訪れる地区に展開してきた。
これらの店舗はランニングコストがかかるうえに旅行客が対象だ。そのため、同社は現在、既存店舗で地元カスタマーを対象としたカーブサイドピックアップなどのサービスの充実へと切り替えを進めている。現在、人の移動がほとんどないなかで、同社は新たなプログラムを通じて地元のカスタマーにより良いサービスを提供することを目指しているのだ。たとえばイギリス国家統計局によれば、2020年6月に同国へ渡航した人数は前年比でわずか5%にとどまっている。
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ホロウィッツ氏は業績発表で「我々は店舗の重要性を確信しており、その考えは今も変わっていない。だが、以前にも述べたとおり、適切な規模と場所、収支でなければならない」と述べている。同氏によれば、これから1月までに同社が閉鎖する旗艦店7店舗は、敷地面積にして全体のおよそ約10%を占める一方、2019年度の収益は全体の1%にしか過ぎず、「長年にわたり、当社の時間とリソースを大きく費やしてきた」という。
旗艦店は「別の時代」の事業モデル
アバクロもまた、ほかのアパレル企業と同様にコロナ禍で売上高が減少しているものの、コスト削減によりこの2四半期は黒字を達成している。11月24日の第3四半期の業績発表では、売上高が前年同期比で5%減となった一方、純利益は4270万ドル(約45億円)となっている。また、同時期におけるオンラインでの売上高は前年比で43%増を達成した。
ホロウィッツ氏によれば、現在、同社の店舗数は849店舗と、2018年度末の861店舗から減少している。同氏は旗艦店の撤退をなるべく迅速に進めようとしているが、リース契約終了をもっての閉鎖が決定している店舗もある。業績発表のなかで同氏は、2022年から2031年に契約が終了する旗艦店のうち2店舗で早期撤退を達成した一方、サブリース契約を取り付けたところもあると発表している。これら旗艦店の閉鎖に加え、同社は昨年に一度はディスコン(提供中止)となった下着ブランドのギリーヒックス(Gilly Hicks)に4つのポップアップストアをオープンするなど、新たな店舗形態を試みてきた。
同社は2005年から2014年にかけて、人気観光地に大型の旗艦店をオープンしてきた。これはブランド認知度を高めるための同社の店舗戦略の中核をなしてきた。ホロウィッツ氏は業績発表で、「この戦略は極めて大きな成功を収めてきた。だが、建設費や賃料が高騰し、運営コストがほかの店舗を大きく上回っている。さらにリース契約の条件が厳しく、コストパフォーマンスが悪化している」と述べている。同氏は旗艦店の戦略について、小売分野における「別の時代」の代表的な事業モデルと表現している。同社ではオンラインの売上が増えるなか、コストのかかる旗艦店での売上が減少し始めていた。
「コストのかかる店舗が必要なのか?」
グローバルデータリテイル(GlobalDataRetail)のマネージングディレクターを務めるニール・ソーンダース氏は、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテールに対し「オンラインマーケティングの重要性が高くなっている今、旗艦店のロケーションの重要性は疑問視されるようになっている」と述べている。「パンデミックにより都市における取引のあり方は大きく変わった。観光客も大きく減少したなか、大手ブランドにとってこういったコストのかかる店舗が必要なのか、なおさら検討が必要だろう」。
ホロウィッツ氏は、同社の現在の目標を「地元カスタマーをさらに重視し、フルフィルメントサービスをより充実させることだと」語る。新型コロナウイルスの感染拡大により多くの小売企業がカーブサイドピックアップを開始した。これはアバクロも同じで、8月の時点で同社の店舗の8割で同サービスを実施している。さらにパンデミック以降は、店舗からの宅配サービスも開始している。ただし、まだすべての店舗では利用できるわけではない。利用可能な店舗数も非公開だ。
ソーンダース氏は、アバクロのような小売企業では店舗の多くがまだ営業を再開していないモールにあるため、カーブサイドピックアップを拡大するのは容易ではないと指摘する。
「これについては、モールの所有者がテナントに提供しているサービスに依存する部分も大きい」と同氏は語る。「いずれにせよ、ターゲット(Target)やコールズ(Kohl’s)といったカーブサイドピックアップに強い小売企業にとっては若干のマイナス材料になるだろう」。
物流問題に備えていることの表れ
ホロウィッツ氏は、クリスマスシーズンの11月と12月に向けてポップアップ形式で流通センターをオープンし、物流のパートナーも新たに加えたという。現在、同社のウェブサイトには、通常配送で12月25日までに宅配するには12月4日までに注文するようアドバイスが掲載されている。これもまた、同社が今後数週間、物流面における問題に備えていることの表れといえるだろう。
「当社はオンラインにおける販売増にうまく対処できている。だがオハイオを中心に非常に集中した流通モデルを採用しているのも確かだ」と、同氏は語る。「店舗からの出荷能力を高めることで流通負荷のバランスは改善するが、導入は容易ではない」。
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)