米国企業のあいだでは、何年も前からライブコマースの試みが行われては失敗してきた。しかしここに来て、その人気がようやく拡大しているようだ。ライブコマースが大規模に採用される様子はまだ見られないが、このトレンドが続くと楽観できる理由は十分にある。
米国企業のあいだでは、何年も前からライブコマースの試みが行われては失敗してきた。しかしここに来て、拡大の兆しが見えている。
いま、さまざまな大手ソーシャルプラットフォームが、ライブストリーミング機能を強化するとともに、ショッピング機能の追加も進めている。たとえばTikTokは、企業が投稿内に設置できる「購入」ボタンのテストを開始した。最近では、インスタグラムが「リール(Reels)」に対応したショッピング機能を発表。視聴者は、動画コンテンツを経由して商品を購入できる。こうした機能は、米国ではまだニッチだが、中国ではインフルエンサーやKOL(Key Opinion Leader:中国版インフルエンサー)のあいだで、かなり前から人気になっている。中国のライブコマースは、2019年だけでも630億ドル(約6兆6355万円)の市場を生み出した。
ライブコマースが大規模に採用される様子はまだ見られないが、このトレンドが続くと楽観できる理由は十分にあると、ハーバードビジネススクール(Harvard Business School)で講師を務めるジェフリー・レイポート氏はいう。「ある地域で、極めて大きな現象になっていることが、別の地域ではそうならないとは考えにくい」と、レイポート氏は米国におけるライブコマースの見通しについて語った。
Advertisement
この時期にライブコマースが受け入れられるようになった大きな理由は、eコマースの華々しい成長にある。フォレスター(Forrester)のデータによれば、eコマースの売上高は2020年に約18.5%増加すると見られているが、これは2008年以降でもっとも大きな伸び率だ。このような成長や収益機会を逃すまいと、デジタルに投資するブランドが増えているのだ。また、消費者が自宅で過ごす時間やスマートフォンを使う時間が増えていることが、購入の増加に繋がっている。
メディア、およびマーケティングサービスを提供するバラシス(Valassis)の調査によると、ソーシャルメディアの利用時間が増えたことは、初回の購入に影響を与えているという。3月にパンデミックがはじまって以来、「21%の消費者が、初めてインフルエンサーの影響を受けて商品を購入した」と、このレポートは報告している。
ライブストリーミングの収益化を巡って
企業の立場から見ると、インスタグラムのIGTVとリールは、パンデミックの最中にあっても強力なマーケティングツールだ。「フォロワーを買い物客に変えることが、企業にとっての次のステップになると、ライブコマースソリューションプロバイダーの、コメントソールド(CommentSold)の創設者、ブランドン・クルーズ氏は述べる。米国で、ライブストリーミングコンテンツの消費量が3月から倍増しているのは、ソーシャルユーザーがブランドに継続的にエンゲージしている証拠だと同氏は語った。
最近になって、ライブストリーミングの利用が急増した要因のひとつが、パンデミックであることはほぼ間違いない。レイポート氏によれば、eコマースに対して人々が抱いている大きな不満のひとつは、それが孤独な体験だということだ。いまのところ、企業は実店舗の購買体験をうまく移植できていない。
「Facebookが、ライブコマースに投資したがっているという事実は、こうした現状をよく物語っている」と、レイポート氏はいう。ライブコマースは、テレビショッピングのQVCやHSNが数十年前に行ったようなものになるというのが、同氏の見方だ。「テレビショッピングネットワークは、販売員ではなく、信頼できる『語り手』として視聴者と繋がれるホストに依存していた」と、レイポート氏は話す。
巨大テクノロジー企業が、ライブコマースを米国の顧客に広めようとするのは、今回がはじめてではない。たとえばAmazonは、過去にライブコマースに取り組んだものの、QVCのビジネスモデルを破壊しようとするこの試みは、完全に失敗した。Amazonが2016年にスタートした「スタイル・コード・ライブ(Style Code Live)」という、トークショー形式のライブコマースは、2017年半ばになんの説明もなしに突然終了した。
ただし、この取り組みが行われたのは、パンデミック以前のことで、欧米の視聴者がこぞってeコマースを利用している状況ではなかったと、中小企業向けのライブストリーミングプラットフォームを手がけるビーライブ・スタジオ(BeLive Studios)の創設者兼CEO、ダニエル・メイヤー氏はいう。
ライブコマースが米国で広まるまでの道のりはまだ長い。市場を教育するには、何年もの期間と莫大な費用が必要になると、メイヤー氏は説明する。「このような状況は我々にとってベストだ」と同氏は述べ、自宅で買い物をしたがっている視聴者から利益を得るチャンスだと語った。FacebookやTikTokのようなプラットフォームにとっては、eコマースの盛況が続いているいまこそ、ライブコマースを採用するブランドを増やすべく、チャレンジするのに絶好のタイミングだとメイヤー氏はいう。
適したインフルエンサーを
一方、前出のレイポート氏によれば、すでに多数の商品を販売しているレガシーブランドにとって、いまはライブ販売の「魔法のレシピ」を採用すべきタイミングではないという。大企業がこのような実験的なプログラムを実施しようとすれば、多額の投資が必要になる可能性が高い。
大企業のほとんどは、中国のKOLや、あるいはリアリティ番組で人気のカーダシアン家のようなインフルエンサーのように、カメラの前で影響力を発揮できるタレントを雇わなければ、規模に見合う利益を得られないだろう。どのみち、スポンサード投稿がやらせではないことを消費者に納得してもらうには、巧妙な戦略と商品知識が必要になるのだと、クルーズ氏は指摘する。
従って、中小企業のほうがアーリーアダプターになる可能性が高い。ライブ動画での商品販売に関していえば、大企業はテクノロジーとリソースを持っているかもしれないが、スタートアップや中小企業がよく用いるような、機敏な戦略は持っていない。たとえば、大企業がソーシャル戦略を進めようとすれば、意思決定するために社内の多くの組織の承認を得なければならない。そのため、規模の大きい企業ほど、カスタマーサービスや決済の段階でミスをする可能性が高くなると、クルーズ氏は指摘する。これに対し、スタートアップの場合はノイズが少ないというのが同氏の考えだ。「中小企業には、適切なタレントをカメラの前に立たせたり、適切な在庫管理単位(SKU:受発注、在庫管理を行うときの最小管理単位をいう)を設定したりできるという、アドバンテージがある」と、クルーズ氏はいう。
ミシシッピー州に拠点を置くピンク・ココナッツ・ブティック(Pink Coconut Boutique)のオーナー、シェリ・ヘンズリー氏は、インスタグラムライブで1日に3回、ライブ配信を行っているが、「ライブに適したホストを見つけるにはコツがある」と話す。同氏によれば、ライブ販売を開始して以来、月間売上高が20%増加したという。今度のブラックフライデーとサイバーマンデーには、ピンク・ココナッツのスタッフが初の「24時間ライブセール」を行う予定だ。
ヘンズリー氏は、ライブコマースの可能性について、「人々は家にいるのだから、我々はそこで彼らを楽しませるべきだ」という。自宅で過ごす消費者が増えるなか、エンターテインメントベースのショッピングは、隔離生活の辛さを忘れさせてくれるものになる可能性があると、同氏は考えている。「テレビのリアリティ番組より、我々のコンテツの方が良いという声をよく耳にする」と、ヘンズリー氏は語った。
[原文:With shoppable Instagram Reels, live selling may get a new life]
GABRIELA BARKHO(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)