スウェーデンの家具メーカーであるイケア(Ikea)は、ブラックフライデーに、27カ国で、バイ・バック(Buy Back)なるイベントを開催する。これはは、顧客が持つ古いイケア製の家具を店舗で引き取り、その引き換えにストアで使えるクレジットを提供するというものだ。引き取った家具はリセールまたはリサイクルされる。
イケア(Ikea)が、ホリデーシーズンに顧客を店舗に呼び込むために、新たな戦略を試そうとしている。
スウェーデンの家具メーカーであるイケア(Ikea)は、ブラックフライデーに27カ国でバイ・バック(Buy Back)というイベントを開催することを明らかにした。このイベントは、顧客が持っている古いイケア製の家具を店舗で引き取り、その引き換えにストアで使えるクレジットを提供するというものだ。引き取った家具はリセールまたはリサイクルされる。
このイベントはイケアにとって、来店客を増やすだけでなく、未開拓の新しい販売チャネルを見つけ出そうとする試みだ。イケアはeコマースビジネスの出遅れを取り戻すべく、最近モバイルアプリをリリース。顧客がアプリから直接商品を購入できるようにした。また、イケア・グループ(Ikea Group)は、家具のサブスクリプションサービスを2020年にテストすることや、都市部での小型店の展開を検討することを明らかにしている。コロナ禍によって、購買習慣が大きく変わったいま、さまざまな購入オプションを提供することの重要性は増すばかりだ。イケアは以前から、2030年までに完全な循環型企業となり、すべての商品を再利用、修理、改修、リサイクルできるように設計すると表明している。
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イケアは今回のイベントを、サステナビリティを推進する取り組みとして位置づけている。だが、それに加えてリセール分野への参入によって、これまで環境への懸念や経済的な理由から中古家具しか購入しなかった顧客にも、リーチできるようになる。実際、イケアはバイ・バックイベントを開催するだけでなく、2020年内にスウェーデンで中古家具の店舗をオープンするという。
「コロナ禍以前は、店舗のオーナーシップモデルの拡大がトレンドだった」と、ピュブリシス(Publicis)で最高商業責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏はいう。
しかし、コロナ禍によって、顧客の店舗滞在時間を減らす必要が出てきたため、イケアは進化を迫られることになった。イケア・グループが先日発表した2020年度の決算報告書によれば、eコマースの売上高は前年比で45%増加したという。1年前には、eコマースがイケアの売上高に占める割合はわずか11%だった。
リセールが難しい家具業界
イケアの最高サステナビリティ責任者であるピア・ハイデンマーク・クック氏はAP通信(Associated Press)の取材に対し、今回のイベントは「廃棄物を根絶」して「循環型経済の発展を支援」するための取り組みだと述べている。しかし同社は、リセールビジネスを構築する取り組みだけでなく、郊外の大型店以外の場所で、顧客に購入を促す取り組みも進めている。直近の決算報告書を見ると、eコマースの売上が増えたとはいえ、全社的な売上高は店舗の閉鎖によって減っているのが現状だ。今年度の売上高は396億ユーロ(約4兆9134億円)だが、2019年度は413億ユーロ(約5兆1243億円)だった。
リセールビジネスはアパレルの分野で急成長しているが、高価で大きく、かさばる商品はリセール業者の注目を集めるに至っていない。ザ・リアル・リアル(TheRealReal)、ポッシュマーク(Poshmark)、スレッドアップ(ThredUp)といったリセールスタートアップ、それにレイ(REI)やパタゴニア(Patagonia)といったアウトドアファッションメーカーの成長が示すように、リセールビジネスの大半は、いまのところアパレルとアクセサリーの分野に集中している。
「ファッションに比べ、中古家具はある程度確立された市場だったが、その販売は昔から、ガレージセールやリサイクルショップ、それに友人間といった非公式な場で行われていた」と、小売企業向けにソリューションやサービスを提供する、グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターであるニール・ソーンダーズ氏は、我々のメール取材で述べている。
中心的な存在を目指す
しかしコロナ禍のいま、引っ越しをしたり中古家具を手頃な価格で売買したりするときに、クレイグズリスト(Craigslist)、Facebook Marketplace(フェイスブックマーケットプレイス)、アプトデコ(AptDeco)といった、リセール・オンラインマーケットプレイスに目を向ける人々が増えている。たとえば、Facebook Marketplaceに出品されている家具の数は、4月から100%近く増加したと、ボックスメディア(Vox Media)は「ザ・グッズ・バイ・ボックス(The Goods by Vox)」で最近報告している。リセール市場への参入を目指す、イケアのような従来型の実店舗企業にとって、これは良い兆候だ。
そんななか、「イケアが中心的な存在になることのメリットは大きい」と、ゴールドバーグ氏は話す。従来型の店舗より安く中古家具を買うため、Facebook Marketplaceなどを利用していた人の一部を、イケアが新たな顧客として取り込める可能性があるというのだ。
ただし、中古品は販売前に汚れをきれいに落とす必要があるため、販売に至るまでの物流は複雑になる。しかも家具の場合、商品が大きく、輸送中に傷がついてしまう可能性が高いという問題もある。さらに、イケアの店舗スタッフが手作業で商品をチェックするようになれば、多くの時間が取られる可能性も否めないと、ソーンダース氏は指摘した。
「商品の均一化と単純化によってコストの抑制を実現していた企業にとっては、プロセスが増えることになる」と、同氏はいう。
コロナ禍で生まれたスタイルをイケア風に
これまでのイケアは、価格の安さと顧客の滞在時間を、できるだけ長くする店舗レイアウトによってファンを作り出してきた。イケアの店内は迷路のようになっており、顧客は店内全体を回って、さまざまな家具商品の前を通らなければ、レジにたどり着くことができない。こうしたレイアウトの狙いは、買う必要を感じていなかった商品の存在に気付いてもらうことにある。またイケアは、店内にレストランや子供向けの遊び場を設け、家族連れが店内で午後の時間を過ごしたくなるような工夫も施している。「イケアの店舗に見られる、宝探しゲーム的なレイアウトは、これまで実にうまく機能していた」と、ゴールドバーグ氏は話す。
イケアは、スウェーデンに中古家具店をオープンするだけでなく、今後数年間に都市部で50店ほどの小型店を展開する計画も明らかにしている。その際、2019年にニューヨーク市にオープンした店舗のように、一部の店舗にはプランニングスタジオ(planning studios)としての機能を持たせ、顧客が気に入った商品を見つけて購入し、自宅に配送できるようにする予定だ。
また、ゴールドバーグ氏によれば、都市部の店舗を増やすことで、イケアは既存の店舗を配送センターとして活用できるようになるかもしれない。そうすれば、オンラインで購入した商品を店舗で受け取ったり、店舗から届けてもらったりするという、パンデミックのあいだに人気となった新しい購買体験を提供できるようになる。
「デジタルで買い物をする顧客が増えるにつれて、郊外の大型店を配送センターとして活用し、市街地の近くに住む人々に商品を届ける仕組みを組み合わせることが、今後の重要な取り組みのひとつになるだろう」と、ゴールドバーグ氏は語った。
[原文:With resale, Ikea is trying to find new ways to acquire customers]
ANNA HENSEL(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)