米小売大手ウォルマート(Walmart)はこの数年間、自社店舗/ウェブサイトをファッション拠点と見てもらうべく、さまざまな投資を行なってきた。現在、来店客数が減少する一方、総売上は増加の傾向にあるなか、同社はその努力が報われることを期待している。
米小売大手ウォルマート(Walmart)はこの数年間、自社店舗/ウェブサイトをファッション拠点と見てもらうべく、さまざまな投資を行なってきた。現在、来店客数が減少する一方、総売上は増加の傾向にあるなか、同社はその努力が報われることを期待している。
9月21日、ウォルマートは9~45ドル(約950〜4758円)の商品を取り揃える、ウィメンズおよびメンズ衣料品の新プライベートブランド、フリー・アッセンブリー(Free Assembly)を立ち上げた。ウォルマートが最近見せたファッション絡みの動きは、今回の新ブランド設立だけではない。同社はeコマースと店舗の両事業の収益を最大化するべく、衣料品をはじめとする高マージン商品の売上を伸ばす方法を以前から探っており、その一環として、ジーンズやブレザーといったベーシックアイテムを中心に据えた同社限定のファッションラインをほかにも立ち上げている。1週間分の日用品の買物や薬の処方に訪れたついでに、衣料品も買い物カゴに入れてもらえるようになる、というのが同社の思惑だ。
2019年には、Walmart.comで販売させるためにファッションブランドの獲得を試み、セレブらと提携した同社限定ブランドを立ち上げ、ニューヨーク市で絶大な人気を誇ったブランド、スクープ(Scoop)を復活させた。
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こうした投資は、早くも配当金を得はじめている。昨年度は依然、グローサリー部門の成長が衣料品を含む雑貨のそれを上回っていた。だが、今年8月に行なわれた第2四半期の収益報告によれば、eコマース全体の売上は97%増であり、その内グローサリーの成長が1桁台のなかほどに留まったのに対し、衣料品を含む雑貨のそれは10%台のなかほどまで行った。同社幹部らは雑貨の売上増の要因として、新型コロナウィルス感染に対する懸念が根強いなか、スーパーマーケットに頻繁に行かなくても済むよう、グローサリーや家庭用品、アパレル商品をウォルマートといった大型小売店でまとめて購入する買物客が増えた事実を挙げた。また、1回の平均購入額も前年比27%の伸びを見せたと、同社は報告した。
「[ウォルマートは]端的にいえば、アパレルを中心とするリテーラーや、ショッピングモールに店舗を構える非日用品リテーラーとは異なる形で買物客を取り込んでいる」と、オムニコム・コンサルティング・グループ(Omnicom Consulting Group)のコマース部門SVPブライアン・ギルデンバーグ氏は指摘する。
現在のファッションラインナップ
新プライベートブランド発足を告知するプレスリリースのなかで、ウォルマートのウィメンズ&オンラインブランド部門SPVデニス・インカンデラ氏は、フリー・アッセンブリーの立ち上げには2年ほど前から取り組んできたと語った。宣伝文句によれば、フリー・アッセンブリーは女性および男性向けのベーシックなファッションアイテムを中心とするブランドで、サステナビリティにフォーカスし、オーガニックコットンやフェアトレード認証デニムを使用した製品も扱うという。主に、ウィメンズ/メンズのジーンズ、ブレザー、セーターなどを取り揃えているようだ。
ウォルマートのファッション部門は近年、高価格帯と低価格帯の両ブランドの構築に力を注いできた。たとえば、2020年前半に買収したNY市が拠点の高級ブランド、スクープは、米TVドラマ/映画『セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)』に起用されて人気を博し、1000ドル(約10万5736円)の靴や100ドル(約1万573円)超のジーンズで知られた。一方、2019年に米女優ソフィア・ベルガラ氏と共同で立ち上げた同社限定のデニムブランド、ベルガラ(Vergara)は、40ドル(約4229円)以下の商品を取り揃えている。フリー・アッセンブリーは、価格とベーシックアイテムへのフォーカスという点において、ベルガラに近いものがある。
ベーシックに的を絞れば、ウォルマートはファッション事業を成長させるだけでなく、トレンドの変化という荒波にも耐えやすくなると、オムニコムのギルデンバーグ氏は指摘する。「ウォルマートは根本的に、予測可能な補充に依存するリテーラーだ。つまり、確実に売れるという予測を前提にしたビジネスなのだが、ファッションは予測できない」。
プライベートブランドの構築にフォーカスする以前、ウォルマートはボノボス(Bonobos)やモドクロス(Modcloth)といったデジタルネイティブリテーラーを買収し、ファッション分野の専門知識の獲得を試みた。だが、そうしたオンラインオンリーのブランド勢が業績不振に陥るなか、同社は戦略の軌道修正を始め、すでにモドクロスを売り払い、報道によれば、ボノボスの売却も検討している。ちなみに、フリー・アッセンブリーのデザイナーは、元ボノボスのチーフクリエイティブ/デザインオフィサー、ドワイト・フェントン氏が務めている。
すでに競争が激しい市場
ファッション事業の成長を狙うウォルマートだが、今後、T.J.マックス(T.J. Maxx)やマーシャルズ(Marshall’s)といったディスカウントストアチェーン、コールズ(Kohl’s)やターゲット(Target)といった大型小売店との熾烈な競争は必至となる。なかでもターゲットは強敵で、プライベートブランドのアパレル商品が売上を強力に後押ししている。 2020年1月時点で、ターゲットは 41のプライベートブランドを有しており、その半数近い19を衣料品およびアクセサリーが占めている。
「ターゲットはアパレル市場において、非常に高い競争力を誇るプライベートブランドをいくつか持っており、それぞれに明確な個性を付与するために、多大な努力を払ってきた」と、市場調査会社グローバルデータ(GlobalData)のリテール部門マネージングディレクター、ニール・サンダース氏は指摘する。「その努力には、各種グッズや店舗ディスプレイも含まれる。その結果、彼らは衣料品を購入する既存客数を増やすとともに、新規客の獲得にも成功している」。
ウォルマートのインカンデラ氏は2019年のカンファレンスにおいて、自身の最優先課題は同社のウェブサイトのデザインを見直し、ファッションアイテムを買いやすくすることであり、ディスカバラビリティ(発見される力)の導入や、サイトに掲載する写真のクオリティ向上を実践していくと語った。ウォルマートにはしかし、実店舗の衣料品の陳列についても、買物客の目を引くための工夫が求められると、サンダース氏は指摘する。
「[ウォルマートの]実店舗のアパレルエリアは、大半が平凡で刺激に欠ける。競争力という点で、理想からかけ離れたディスプレイをしており、アパレル商品が(農作物などの)基本的物資に見えてしまう」とサンダース氏。「また、さまざまなプライベートブランドおよび価格帯のあいだに明確な差異がないため、買物客が商品を選びにくいという弱点もある。ウォルマートがアパレル商品を求める買物客を増やし、保持したいのであれば、店舗全体の雰囲気を変える必要がある」。
[原文:With new fashion line, Walmart’s private label apparel strategy emerges]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)