この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。 ミラノ・ファッションウィークのデザイナーや高級ブランドは、2月24日木曜日のロシア […]
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ミラノ・ファッションウィークのデザイナーや高級ブランドは、2月24日木曜日のロシアによるウクライナ侵攻への反応が遅かった。いま、ファッション界はその影響力を駆使して、高級品や文化に関する制裁を実施しようとしている。
2月22日にミラノ・ファッションウィークが始まったとき、ウクライナの状況にとくに変わった点はなかった。実際、同国からは多くのバイヤーやモデル、ブランドがミラノへの旅に向かっていた。しかしその2日後、ロシアがウクライナに侵攻、60万人以上のウクライナ人と外国人住民が国外に脱出するなど、事態は急速に悪化している。
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ファッションスタイリストでエディターのナディア・シャポヴァル氏は、家族を残してキーウ(キエフ)から5日間かけてポーランド国境までたどり着いた。「ウクライナのファッション・コミュニティは今、完全に活動を停止している」と彼女は言った。「車で国境まで来るのに5日かかった。いまだに私は家を出たときと同じ服を着ている。今では毛布を配っているウクライナ人もいれば、戦場で戦っているウクライナ人もいる。この国で本当に何が起きているのか、情報を広めているデザイナーもいる。多くの有名な(現地の)ブランドがPR部門を使って現状の取材をしている」。
情報や支援を呼びかけるのがPRのスペシャリストとしての戦い方
ウクライナのPR会社パブリック・キッチン(Public Kitchen)のオーナーであるナスチャ・イヴチェンコ氏とゼニア・スキビナ氏は、できるだけ多くの情報を発信して支援を募るために、協力して共に行動するようウクライナのPR会社に呼びかけている。PRエージェンシーのゴゴラ(Gogola)の創業者アンナ・パガヴァ氏は次のように述べている。「PRのスペシャリストとして、私の戦い方は最大限のパブリシティを達成することだといえる。私はロサンゼルスに住んでいるが、ほとんどの私のチーム、友人たち、それに私の両親はキーウにいる。彼らの身に起きていることを思うと、そして彼らが自分たちの話を伝える際にどれほどの無関心を乗り越えねばならないのかを考えると、心が引き裂かれるような思いだ。新たな犠牲者やさらなる破壊に関するニュースが絶え間なく届き、知り合いの安否を確認するのが日課となってしまっている」。
西側諸国はロシアの攻撃に対し、ロシアの経済資本を制限することを目的とした厳しい制裁措置と銀行資産の凍結という対応策を取っている。ドイツはロシアとのガスパイプライン「ノルドストリーム2」の契約から離脱、国際的な資金決済網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から一部のロシアの銀行を排除している。一方、スポーツや芸術など他の市場ではロシア内のイベントの販売を禁止した。
事態への反応が鈍いファッション関係者
この侵攻を受け、2月24日木曜日には高級品の株価が下落、LVMH、ケリング(Kering)、リシュモン(Richemont)、プラダ(Prada)、バーバリー(Burberry)などすべて3~6%下がっている。アナリストは、これが高級品の購入をめぐる消費者心理に影響を与える可能性があると指摘した。イタリアからロシアへの高級品輸出は欧州連合(EU)の制裁対象に含まれておらず、ミラノの高級ブランドの多くは依然としてロシアの「オリガルヒ」と呼ばれる富裕層の消費者に依存している。
ミラノ・ファッションウィークでは、マチュー・ブレイジー氏によるボッテガ・ヴェネタ(Bottega Veneta)の初コレクション、リアーナ氏やキム・カーダシアン氏といったセレブリティの出席、そしてグッチ(Gucci)とアディダス(Adidas)のキャットウォークでのコラボレーションなどが話題を呼び、こうしたショーに集まった群衆と比べると、ミラノでのウクライナに関する抗議活動はかすんで見えた。トレンド予測会社ファッションスヌープス(FashionSnoops)のクリエイティブディレクター、メリッサ・モイラン氏は、「グッチとアディダスのハイプなコラボレーションがその時もっとも注目の的だった」とコメントした。
今回の事態に巧みに反応するという点に関して、ファッション関係者らは麻痺しているようにみえ、いくつかの発言が無神経だという指摘もされていた。「ミラノではムードが盛り上がると同時に、戦争の現実が明らかになり重苦しい雰囲気もあった。パリ(のファッションウィーク)では(戦争に対して行われる)意思表示がもっとみられるのが望ましいだろう」とモイラン氏は言う。アジアのパンデミックの波が広がっているため、ショーの来場者やバイヤー、エディターなど多くがゲストリストから姿を消していた。
ウクライナへの支持を表明するファッション関係者たち
だが、この機会に支持を表明したデザイナーもいる。ジョルジオ・アルマーニ氏は、ウクライナに敬意を表し、音楽なしのショーを開催した。2月27日にシェアされたインスタグラムの動画で、アルマーニ氏は「いかなる音楽も使用しないという私の決定は、ウクライナで起きている悲劇に関わる人々に対する敬意の印として、いかなる音楽も使用しないという決定を下した」という声明を投稿した。アルマーニ氏はイタリアにおけるパンデミックのアウトブレイクの際にも真っ先に反応し、2020年秋のショーを非公開で開催している。
ミッソーニ(Missoni)の社長アンジェラ・ミッソーニ氏も、この危機的状況にあるウクライナを支持すると述べた。一方、ハンガリーのブランドであるナヌシュカ(Nanushka)は、宿泊施設や職場、交通手段、通訳を提供することで難民を支援するとインスタグラムで声明を発表した。また、同ブランドはロシアでの卸売パートナーシップと顧客からの注文を取りやめている。
ほかのデザイナーには、ショーを進めつつも、ソーシャルメディア上で寄付を集めたり、募金の要請などを呼びかける者もいた。インフルエンサーでは、@young_emperors(インスタグラムのフォロワー数25万9000人)のイザベル・シャピュ氏とネルソン・ティベルギアン氏がウクライナの国旗と同じ色の服装で支援を表明し、モルドバのドイナ・チョバヌ氏(@doina)がインスタグラムの投稿でリソースをシェアしている。ジリヨーヴァ・ランジェリー(Zhilyova Lingerie)のオーナーであるヴァレリア・ジリヨーヴァ氏は、ほかのウクライナのインフルエンサーたちと協力して、連絡先や交通手段、救護施設、医薬品の寄付団体、避難の選択肢などを人々に提供する手助けをしている。
パガヴァ氏は次のように述べた。「これは、長年にわたり培ってきた評判とファッションブランドでの努力が、今(ジリヨーヴァ氏に)同胞を助ける機会を与えているというよい例だ。彼女は現在、(自分の会社の)コミュニケーションチャネルを通じて、最大限の支援と慈善行為を提供している。ファッション業界を甘く見てはいけない。全世界がこれに続く」。
ミカ・アルガナラズ氏やベラ・ハディッド氏といったモデルたちも支援の声明を投稿している。「ウクライナと、この想像を絶する現実に影響を受けたすべての人々のために心を痛めている。プーチン氏の行動は、世界のすべての民主主義国家に対する脅威であり、阻止しなければならない。他の国々が提供する支援によって、ウクライナの人々が、自分たちが投票したもの、享受すべきものを手にすることができるよう祈っている」とハディッド氏は投稿で述べている。
ファッション業界にできること
イタリアファッション全国商工会議所(Camera Nazionale della Moda Italiana)によると、イタリアは毎年およそ12億ユーロ(約1525億7500万円)のラグジュアリー製品をロシアに販売している。ミラノ・ファッションウィーク開始時に、商工会議所会長カルロ・カパサ氏は「現在、重要なのは人々の生活と平和だ」と述べた。イタリアがロシア制裁の対象からラグジュアリー産業を除くよう求めたという噂もあったが、この報道は確認されていない。商工会議所はこうツイートしている。「イタリアの立場は、他のEU諸国と完全に一致している。#Ukraine」。多くのウクライナのデザイナーやクリエイティブが、ロシアとの関係を断つことによってウクライナを支援するよう国際社会に働きかけている。
ウクライナのファッションマガジン「1 Granary(1グラナリー)」の創刊者オリヤ・クリシュク氏は、ウクライナ政府と協力して世界各都市での抗議活動を組織している。彼女は現在、国際的なファッションコミュニティに向けて業界全体としてロシアの行動を非難するオープンレターを発表した。これまでのところ署名者には「i-D」や「Dazed」といったプラットフォームのエディターやライター、英国や海外のファッションデザイナー、そのほかのクリエイティブが名を連ねている。
制裁についてシャポヴァル氏は、国際的なファッション業界がその影響力を行使する必要があると述べた。「ラグジュアリー業界はロシアでの販売を禁止し、同国への配送を停止すべきだ。ロシアのデザイナーがEUで販売することを禁止すべきである。多くのラグジュアリー小売ブランドはそれを望んでいないが、ファッションは違うということ、すべての行動が重要だということをそうしたブランドは理解する必要がある。ファッションにおいて現在もっとも重要なのは、意識的になることであり、誰かが子どもたちや女性たちを殺しに来たらそれを阻止しなくてはならないということを理解することだ」。
「ヴォーグ・ウクライナ(Vogue Ukraine)」と「ロフィシャル・ウクライナ(L’Officiel Ukraine)」もまた、LVMH、ケリング、シャネル(Chanel)、バーバリー(Burberry)といったファッションのリーダー的企業に焦点を当てて、ロシアに文化的・経済的制裁与えるよう国際的なファッションおよび高級品の禁輸を要請した。これまでのところ、YNAPとバレンシアガは共に支持を表明しており、YNAPはロシアへの出荷を停止、バレンシアガはインスタグラムのこれまでのフィードを削除してウクライナの国旗と国連WFPへの寄付を投稿した。ファッション企業ケリングのブランドとしては初めてのことだ。
国際的にはファッショングループ・ファウンデーション(Fashion Group Foundation)もデリバリング・グッド(Delivering Good)と提携して「ウクライナ支援」基金を発表、困っているウクライナ人たちのために資金を調達し、行動を起こすようファッション業界に呼びかけている。デリバリング・グッドのCEO代理であるゲイリー・シモンズ氏は「事態はまだ進行中だが、デリバリング・グッドは状況の評価と査定を継続し、必要に応じて行動する準備を整えていくつもりだ」と述べている。
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)