オンライン広告が成功したときの理由に、広告主がクリエイティブを引き合いに出す頻度は、ターゲティングのそれとは比べものにならない。かつては結果論と考えられがちだった広告それ自体だが、一部のオンライン広告主にとっては、いまやそのプレースメントと並ぶプライオリティになりつつある。
オンライン広告主にとって、メディア最適化は収穫の少ないゲームになりつつある。
キャンペーンの出来・不出来にかかわらず、スマートターゲティング、アルゴリズムハック、分析では、かつてのように精彩を欠いた広告の欠点を補うことが難しくなってきているのだ。オンライン広告が成功したときの理由に、広告主がクリエイティブを引き合いに出す頻度は、ターゲティングのそれとは比べものにならない。かつては結果論と考えられがちだった広告それ自体だが、一部のオンライン広告主にとっては、いまやそのプレースメントと並ぶプライオリティになりつつある。彼らの多くは現在、クリエイティブ資産を有効活用できる新たな手法のテストを実施している。
たとえば、ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)がそうだ。
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同社はいま、アドテク企業のビドモブ(VidMob)と組んで、自社広告の裏側であるクリエイティブの分析に取り組んでいる。その狙いは、消費者からいちばん良い反応を得ているのは、その広告のどの要素なのか(そこに使われている色や、人がフィーチャーされているかどうか、など)を自社のマーケターたちが把握できるようにすることだと、ジョンソン・エンド・ジョンソンでデジタル、メディアおよびeコマースマーケティング部門の責任者を務めるアンデル・ロペス・オチョア氏は語る。そこから得た知見に基づいて、同氏のチームはこのプラットフォームを活用し、さらなるインサイトにアクセスできるクリエイターたちのネットワークを通じて、新たに最適化された広告を制作することができる。
求められるチームを超えた協業
だからといって、これによってクリエイティブな広告の一部が即座に否定されるわけではない。そうではなく、その狙いは広告の特定要素を微調整することにあり、そしてこれは、さまざまな点でそれほど簡単なことではない。マーケターたちは何年も前から、大量のクリエイティブコンセプトやイテレーション(反復)で備えることの必要性を主張してきた。オーディエンスパーソナライゼーションやA/Bテスト、最適化のためにメッセージを調整できるようにするためだ。しかし実際には、彼らの大半はこれに必要な調整ができないでいる。マーケターがプロダクションプロセスに対する考え方を変えることだけが必要なのではなく、社内の場合もエージェンシーとのあいだの場合も、とりわけメディアとクリエイティブの各チームがともに仕事に取り組む協力体制も必要なのだ。適切なテクノロジーの整備は、単なるはじまりにすぎない。
「たとえメディアパフォーマンス最適化の技術が向上しても、クリエイティブが目的にかなっていなければ、うまくいくことはない。かつての当社がそうで、収穫逓減に直面していた」と、オチョア氏は語る。オンライン広告費がメディア予算全体に近いか、すでにそうなっている市場においては、なおさらそうなる。「こうしたソリューションの必要性が高まっているのは、そのためだ」。
とはいえ、このようにしてクリエイティブ資産を最適化してメリットを得るには、その前に多くのことを実施しなければならない。
オチョア氏のチームはまず、3年分のファーストパーティキャンペーンのデータをプラットフォームに入力して、そこから今後の指針を得るために信頼性の高い基準の構築に取り組んだ。たとえばFacebookであれば、1本の動画の尺はもちろん、その最初にブランドロゴを表示するかどうかといったようなことが、これに該当するとオチョア氏は話す。こうしたインサイトのなかには、ジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のさまざまなブランド間で異なる地域別のニュアンスや、こうした差異がその地域でどう受け入れられているかといったことが含まれるものもある。次に、これらのインサイトは今後の広告と照らし合わせるための一種のベンチマークへと変えられる。ジョンソン・エンド・ジョンソンは、最終的には広告パフォーマンスのメタ分析を行うのに十分なデータを入手したいと考えている。
「ソーシャルクリエイティブ」の可能性
マーケターたちは数年前から、こうしたテクノロジーのピッチに対応してきた。その大半は、少なくともオチョア氏の目には、合格点を与えられるものではない。また当時は、正しい解決策を探さなければというプレッシャーもなかった。たいていは、メディア最適化でクリエイティブの欠点を補うことができており、それができない場合も、さらなる精査が必要なほど、支出レベルも高くはなかった。しかし時代は変わった。なかには、バナー広告に投入してきた従来の一般的なクリエイティブをやめ、ソーシャルメディアフィードから直接取り込んだコンテンツで代用している広告主もいる。いわゆる「ソーシャルクリエイティブ」である。
「ソーシャルクリエイティブ」は決して新しい言葉ではない。アドテクベンダーは以前から、成功の度合いはさまざまではあるものの、このようなソリューションを売り込んできた。現在の市場の状況はこれを浮き彫りにしており、つまり、必ずしも豊富な選択肢が用意されているわけではないということだ。実のところ、ディスプレイ広告のカスタマイゼーションをこのレベルで大規模に提供している企業はひと握りであり、そのなかの2社がスペースバック(Spaceback)とノバ(Nova)だ。これは、この技術が近年、そのポテンシャルを引き出せる地点に到達したということを示している。いまの時代、マーケターがひとりいれば、ソーシャルネットワーク(FacebookやTikTokなど)からクリエイティブ要素を引き出し、300×250または300×600というIABの基準に完全にフィットさせることができる。言い換えれば、 マーケターはもっともバイラルな投稿や、もっとも説得力のある投稿を各ソーシャルプラットフォームから選択し、それを迅速かつ大規模にマーケティング活動へと変えることができるのだ。
既存の資産の有効活用
B2B広告主のハニーブック(HoneyBook)がこれを行うようになったきっかけは、TikTokアプリのオーガニック投稿から広告を作成できる「スパーク・アド(Spark Ads)」の好成績だった。同社はこの広告を用いて、メンバーたちがすでに作成している同サービスに関するオーガニック投稿を後押しした。これらの投稿を自社のバナー広告へと変える流れは、当然の成り行きだった。
ハニーブックのグロースマーケティング部門でリーダーを務めるトビー・スキナー氏は、次のように語る。「ハニーブックは成長段階にあり、メディア予算の拡大を急ピッチで進めている。プログラマティックディスプレイなどの新たなペイドチャネルへの投資を行っている一方で、クリエイティブリソースの拡大については、同じペースというわけにはいかない。自社のオーガニックとペイドのソーシャル資産をすべて活用できるようにすること。これがハニーブックの頼みの綱だ」。
その結果は上々で、スペースバックのプラットフォームを利用してハニーブックが行っているソーシャルクリエイティブのパフォーマンスは、従来のバナーのそれを少なくとも50%は上回っていると、スキナー氏は話す。ダイレクトレスポンス関連のパフォーマンス目標が定められたキャンペーンにおいて、今後はソーシャルメディアがそのクリエイティブ戦略の柱になってくれることを、同氏が期待するのも無理はない。とはいえ、これをもって同社の各種キャンペーンにおける従来型ディスプレイの役割がなくなってしまうわけではない。そうではなく、今後、ブランド構築に重点が置かれるケースでは、このタイプの広告が用いられるということだ。
従来の広告との数字的違い
デッカーズ・ブランズ(Deckers Brands)のオムニデジタルマーケティング部門を監督するベン・モース氏は、次のように語る。「インスタグラムやTikTokなどのオーガニックソーシャルコンテンツのオリジナルプラットフォーム内におけるパフォーマンスが優れていれば、これにより、同じクリエイティブの画像やエンゲージメントエクイティを、CPMベースで大規模なソーシャルディスプレイフォーマットで迅速に展開するチャンスの芽が広がる」。
ハニーブックのスキナー氏と同様に、モース氏もまた、今後はこの種のコンテンツがデッカーズ・ブランズのディスプレイ広告の大部分を占めるようになると予想している。何よりもまず、それが良い結果を出しているからだ。そのパフォーマンスについての詳細こそ語られなかったが、同氏は次のようにその概要を述べてくれた。
「スペースバックのソーシャル・ディスプレイ(Social Display)は、従来のディスプレイ広告と比べて、一貫してCTRやROAS(広告費用対効果)の点で勝っている。真の消費者エンゲージメントや広告想起リフトがもたらしてくれる付加価値も同様に重要だ」。
プログラマティックの次なる壁
モース氏のこの意見は、ほかのマーケターたちの所見とも一致する。バナー広告にソーシャルコンテンツを用いると、従来のクリエイティブを用いる場合よりも、CTRの向上につながりやすいことを、一部のマーケターたちは発見している。それが実売利益に貢献しているケースさえある。
そのメリットは明白だが、マーケターが考慮に入れるべき、ローンチ前プロセスに欠かせない実用上のポイントはほかにもある。たとえば「ソーシャルディスプレイプレースメントでは、このイメージはどのように表示されるのか?」といったようなことだ。
パフォーマンスマーケティングエージェンシーのミュートシックス(MuteSix)で最高執行責任者(COO)を務めるダニエル・ラトバーグ氏は、次のように語る。「広告主が標準的なディスプレイ広告の同一性から抜きん出ると同時に、ソーシャル的美学が持つ証明されたスティッキネスとエンゲージメントを活用しようとしているように。いまこそプログラマティックのソーシャルクリエイティブに目を向けるべきときだ。あらゆる年齢層の消費者がソーシャルメディアを積極的に利用しており、ソーシャルクリエイティブを活用することで、もっともバイラルな投稿や、もっとも説得力のある投稿を各トップソーシャルプラットフォームから選び出し、それをパフォーマンスファーストのプログラマティック環境に再コンテキスト化することが可能になる」。
もちろん、あらゆるトレンドの裏には普及曲線がある。「クリエイティブ最適化に関していえば、オンライン採用が急速に広がりつつある」と、クリエイティブマネージメントプラットフォーム、Ad-Lib.io(アドテクベンダーのSmartly.ioが2022年1月に買収)の創業者であるオリ・マーロウ・トーマス氏は語る。「このような変更を行うことは非常に難しい場合があり、過去には、多くの広告主がメディアをプログラマティックに移行させるのに時間を要した。デジタルトランスフォーメーションの道のりにおいて、ダイナミックなクリエイティブイネーブルメントの前には、こうした時期があってもおかしくはない」。
SEB JOSEPH(翻訳:ガリレオ、編集:猿渡さとみ)