パンデミック以前、ファッションブランドのプレス向けイベントの招待状が記者や編集者の受信箱に殺到した。こうしたイベントを日常的に可能にしていた要因の多くは変化してしまったが、これはプレスイベントが完全に絶滅してしまったという意味ではなく、その形を変えてきていることを意味する。
ファッションメディアはまだ複数のイベントを次々と渡り歩くような段階にはたどり着いていない。
パンデミック以前であれば、ファッションブランドのプレス向けイベントの招待状が記者や編集者の受信箱に殺到した。これらのイベントは、流行のレストランで開催されるブランドによる発表中心の豪華なイベントから、数人の編集者とブランド創業者の間でおこなわれるカジュアルな店内ミーティングまで、さまざまだった。しかし、パンデミック後の世界ではこうしたイベントを日常的に可能にしていた要因の多くが変化してしまった。多くの編集者はブランドとメディアのハブとなっていたニューヨークやロサンゼルスといった都市から離れ、かろうじて都市に残ったスタッフたちも、オンラインで仕事をすることに慣れてしまった。
これはプレスイベントが完全に絶滅してしまったという意味ではなく、その形を変えてきていることを意味する。ブラジャーブランドのカップ(Cuup)や家庭用品ブランドのパラシュート(Parachute)など、さまざまな企業に起用されているPRエージェンシーのジェニファー・ベット・コミュニケーションズ(Jennifer Bett Communications:以下JBC)が行った新たな調査によると、編集者の大多数はイベントへの参加を希望しているが、そこには注釈がついてくる。
Advertisement
イベントのあり方を熟考するとき
JBCが100人以上のファッションジャーナリストや編集者を対象に実施した調査によると、71%が直接イベントに参加したいと考えている。91%が、イベントに参加するには、事前にセーフティガイドラインすべてと参加者規模を知る必要があると答えた。76%は屋外イベントに参加すると回答したが、屋内イベントに参加すると回答したのはわずか34%だった。そして半数近くが、大規模なイベントよりも、最大5人程度が参加する屋内イベントに参加したいと答えた。
JBCの創設者であるジェニファー・メイヤー氏によると、これらの情報はすべて、自社のプレスイベントを計画したいと考えているブランドにとって価値があるという。ブランドたちはこれらのイベントの規模と価値をどのように参加者に伝えるか、そして計画にコミットする前に投資に対する利益率がどのくらいか、熟考する必要があると彼女は述べた。
「イベントをおこなう確固とした理由がある必要がある」とメイヤー氏は言った。「編集者たちは、我々のスタッフと同じように全国に散らばっているので、もっと小規模で親密なイベントが適した手法となる。しかし、ブランド側も、そもそも直接会うイベントが自分たちにとって正しいかどうかを考えるべきだ。(自身の)以前の仕事では、ブランドが1日かけて(高額のコストをかけた)プレスプレビューをおこなっても、編集者が会場に入ってきて数枚写真を撮って5分後に去るのを見たことがある。したがって、今こそROIを見直す必要がある」。
メイヤー氏によると、対面イベントがどれほどの価値を持つかは、ブランドによって異なるという。たとえばカップは、2018年に設立されたD2Cブランドで、製品のフィット感と快適さを売りにしている。そのため、同社が自社オフィスで開催している月例イベントでは、製品を紹介するためのカスタムのフィッティングをおこなっており、このイベントには時間と費用をかけるだけの価値がある、とカップの共同創立者であるアビー・モーガン氏は述べる。しかし、将来的にはカップのイベントは大きく変わるだろうと同氏は言った。
「私たちはもっと小規模で焦点を絞ったイベントをおこなうだろう」とモーガン氏は言う。「ブランドがローンチしたとき、私たちのローンチパーティーには150人が集まった。しかし今は、どれだけ多くの人を迎え入れることができるかということよりも、少数の人たちとのあいだで構築できる関係の質と深さに重点を置くようになるだろう」。
対面イベントは重要だが
新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前、パラシュートは米国内の10店舗を中心に、さまざまな規模のさまざまなイベントを対面で開催していた。ひとつの店舗につき、平均で月に1〜2回の回数だった。しかし、11月のようにホリデーシーズンを控えたショッピングが盛んな時期には、10件ものプレスイベントが開催された。店内での製品発表のための小規模な集まりから、ブランドが費用を負担する、1週間かけて入念に練り上げた週末の旅行まで、さまざまなイベントがおこなわれていた。
パラシュートのCEOであるエリエル・ケイ氏によると、これらのイベントはブランドの成長に重要な役割を果たしたという。彼女はこれらのイベントの成功を、貢献度の計測が難しいこともある売上高ではなく、ブランド検索のインプレッション数と事後のメディアによる掲載数で計った。
「私たちが実店舗を開いた理由のひとつは、こうしたイベントを主催するためだった」とケイ氏は言った。「(対面イベント)は当社の戦略にとって非常に重要だ。私たちは対面で人と会うことで、多くのフィードバックを得ており、よりよい関係を築いている。同時に、私たちはメディア関係者の時間(を使うこと)に繊細でありたい。仕事や家を離れて、私たちに会いに来てもらうのは大変なことなので、(イベント自体に)それだけの価値を持たせる必要がある」。
ケイ氏によると、今後はハイブリッドモデルに移行して、対面でのイベントを減らしていくという。対面イベントは主に新規ローンチ関連に絞られ、店舗での開催に留まるだろうという。これをZoomのバーチャル製品プレビューなどのデジタルイベントで補完しようとしていると述べた。同氏は、デジタルイベントが効果的であることを、ブランドが受け取ったメディアの報道に基づいて確認したと語ったが、対面イベントの場合のメディア掲載数は、平均値を比較するとデジタルイベントの場合よりも多くなっている。
「Zoomでのイベントは疲れる」
JBCのメイヤー氏は、デジタルイベントに移行するブランドに対して、何か手で触れられる物理的な要素を組み込むことも提案している。
「ブラジャーブランドであれば、ブラジャーを参加者に実際送る、もしくはバーチャルでのフィッティングを行うべきだ」とし、マイヤー氏は続ける。「Zoomでのイベントは疲れるし、記憶に残り辛い。参加者の印象に残るように、何か記憶に残るものを与えなければならない」。
[原文:With just 34% of journalists ready for indoor events, brands are rethinking their press strategy]
DANNY PARISI(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)