コロナ禍が収束しないかぎり、ブランドと小売業者のいずれもが過剰在庫の問題に繰り返し直面せざるをえない。そこで彼らは在庫の負担を減らすための代替チャネルを模索しはじめた。あるものは再販プラットフォームに商品を出荷し、あるものはマーケットプレイスと取引し、またあるものは新しいプラットフォームと連携している。
新型コロナウイルス感染症が収束しないかぎり、ブランドと小売業者のいずれもが過剰在庫の問題に繰り返し直面せざるをえない。小売業者が注文をキャンセルすれば、多くのブランドは過剰な在庫を抱えることになる。伝統的な卸売チャネルでの売上がしぼめば、それはブランドの抱える在庫がさらに動かしにくくなることを意味する。
そこでブランドたちは在庫の負担を減らすための代替チャネルを模索しはじめた。あるものは再販プラットフォームにひっそりと商品を出荷し、あるものは大規模な在庫注文を必要としないマーケットプレイスと取引し、またあるものはもっぱら売れ残り在庫の有効活用を目的として、にわかに台頭してきた新しいプラットフォームと連携している。もちろん、TJマックス(TJ Maxx)のようなオフプライスストアの在庫一掃コーナーもこの在庫危機から恩恵を受けている。
ショップウォーンのプログラム
ショップウォーン(ShopWorn)は高級ブランドから過剰在庫を買い取り、あらかじめ合意した割引価格で販売している。同社のラリー・バーンバウム最高経営責任者(CEO)によると、高級ブランドは自社の製品が大幅な割引価格で買いたたかれ、ブランドの資産価値が毀損されることにうんざりしている。ショップウォーンはそのような高級ブランドに高度な裁量権を与えることで、彼らの参加を促している。
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たとえば、スイスの高級腕時計ブランドのグラハム(Graham)でマネジングディレクターを務めるパトリック・ジング氏によると、同社はショップウォーンとのあいだでひとつのプログラムをまとめたという。このプログラムでは、まずグラハムが小売業者に商品コレクションを10万ドル(約1050万円)前後で販売し、この小売業者はこれを正価で販売する。一定の期間が経過したのち、もしこの小売業者のもとで当該の商品が売れなければ、グラハムが8万ドル(約846万円)前後という正価よりも安値で買い戻し、これをさらに低い価格でショップウォーンに売り渡すと、ショップウォーンがあらかじめ合意した価格で販売する。
多少の損失は免れないが、それでもジング氏はこのプログラムをウィンウィンウィン、いわば三方両得の方策だと見ている。小売業者はたとえ商品が売れなくとも支払った金額のほとんどを回収できるので、従来よりも安心して在庫を仕入れることができる。ブランドには在庫を処分する場が保証され、ショップウォーンは高級ブランド品を低価格で売買できる。グラハムはショップウォーンに同ブランドの腕時計を割引価格で販売する独占権を付与している。
「現下の状況はブランドにとってほんとうに厳しい」と、ジング氏は語る。「多くの小売業者が我々に委託販売を迫る(商品は引き取るが、売れるまで代金を支払わない)が、我々は応じない。小売業者の手元に彼らが所有する既存の在庫と、彼らの所有物ではない我々からの委託品があるとすれば、彼らはいつでも例外なく自分たちが所有する在庫から片づけていく。それで彼らにもショップウォーンとの取り決めを紹介した。これまでのところ、小売業者たち、とりわけ現実的で機敏なアメリカの企業は、このやり方にたいへん満足している」。
この取り決めができたのはパンデミックより前のことだが、ジング氏によると、この仕組みのおかげで同社の過剰在庫は3年分の商品から1年をわずかに上回る程度にまで圧縮できた(理想的には6カ月相当の在庫まで引き下げたいとしている)。次の一手は同ブランド初となるD2Cのオンラインストアの開設で、9月もしくは10月にオープンする。小売業者が在庫の買い入れに二の足を踏む状況で、商品を動かす追加的な手段にしたいという。
再販プラットフォーム
再販プラットフォームに活路を見いだすブランドもある。再販プラットフォームのスレッドアップ(ThredUp)は新型コロナウイルス感染症の蔓延から数カ月でブランドとのパートナーシップが爆発的に増えるのを目の当たりにしてきた。昨年、同社はメイシーズ(Macy’s)、ジェーシーペニー(JCPenney)、リフォーメーション(Reformation)らと提携関係を結んだ。
ブランドパートナーシップに関しては、まさに豊作と言える年だったと広報を担当するナタリー・トムリン氏は振り返る。ところが、今年は4月から6月だけで、すでにアバクロンビー&フィッチ(Abercombie & Fitch)、リーボック(Reebok)、ホリスター(Hollister)、ウォルマート(Walmart)、フレーム(Frame)、トードアンドコー(Toad & Co)との提携がまとまった。
このようなパートナーシップの大半で、スレッドアップとブランドたちは相互にメリットのある関係を築いてきた。たとえば、顧客がブランドから直接購入した商品には、スレッドアップに衣料品を送付するためのキットが添付されている。顧客がこのキットを利用してスレッドアップに商品を送ると、スレッドアップはその代金を当該のブランドで使えるショッピングポイントで支払うことになっている。一方、ブランドが在庫を直接スレッドアップに売り払うケースもある。トムリン氏によると、こちらのプロセスは実験的な取り組みであるため、最小限かつ例外的な扱いにとどめている。金銭的な取り決めの詳細についてはコメントを控えた。
マーケットプレイス
卸売に代わるモデルとして、マーケットプレイスに着目するブランドもある。在庫のやりとりが行われず、ブランドがプラットフォームを通じて直接商品を販売できるマーケットプレイスは、新型コロナウイルス感染症の大流行と相俟ってますます人気が高まっている。
ファーフェッチ(Farfetch)などのマーケットプレイスは10億ドル(約1050億円)規模の収入を稼ぎ出しているが、同社はこの成功の一因として、柔軟性の高さと過剰在庫とは無縁であることを挙げている。
「マーケットプレイス向けのテクノロジーはほとんどないに等しかったが、いまは違う。その人気は高まりつつある」と指摘するのは、ナダーム(Naadam)、タクーン(Thakoon)、サムシングネイビー(Something Navy)のマット・スキャンランCEOだ。同氏はこれらのブランドを通じて商品を販売し、マーケットプレイスを立ち上げてきた。「収入を創出し、在庫処分を助け、低リスクでもある。誰もが置かれているいまの状況に理想的と言える仕組みだ」。
サブスクリプションボックス
さらに、ロストストック(Lost Stock)のような新しいプラットフォームも現れて、在庫問題の解消に役立っている。ロストストックはいわゆるサブスクリプションボックスで、取引先の小売業者に注文をキャンセルされたメーカーから商品を調達し、顧客の好みに基づいて3点の衣料品を送っている。
CEOで創業者のキャリー・ラッセル氏によると、ロストストックが商品を買いつけるバングラデシュの工場では20億ドル(約2116億円)相当以上の注文がキャンセルになっているという。顧客はボックス当たり45ドル(約4760円)から55ドル(約5820円)を支払い、小売店での販売価格より最大50%オフで衣料品を手に入れられる。
ロストストックはつい2カ月前にできたばかりの会社だが、すでに10万ボックスを売り上げている。
「我々に必要なのは柔軟性だ」
「グラハムのようなブランドは小売業者を必要としている」と、同社のジング氏は言う。「現状から学ぶべき教訓があるとすれば、商品を販売するための別の販路、商品を動かすための新しい方法を模索すべきということだ。D2Cであれ、ショップウォーンのような事業者であれ、我々に必要なのは柔軟性だ」。
[原文:With excess inventory piled up, brands are seeking out new ways to move product]
DANNY PARISI(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)