手作りクラフト品のマーケットプレイスを提供するアプリ企業、Etsy(エッツィ)がマーケットプレイスの数を着々と増やし、競合他社の先を行く戦略を推進している。同社は2年近く前にも、新品/中古楽器専門のマーケットプレイス、リヴァーブ(Reverb)を買収している。
手作りクラフト品のマーケットプレイスを提供するアプリ企業、Etsy(エッツィ)がマーケットプレイスの数を着々と増やし、競合他社の先を行く戦略を推進している。
Etsyは6月第1週、中古衣料品販売アプリ企業デポップ(Depop)を16億ドル(約1750億円)で買収すると発表した。同社は2年近く前にも、新品・中古楽器専門のマーケットプレイス、リヴァーブ(Reverb)を買収している。デポップ獲得の理由を、同社はプレスリリース上で説明した――いわく、デポップユーザーの90%は26歳未満であり、そうした若年層へのリーチの一助になるという。ただし、同プレスリリースによれば、今回の買収はEtsyの「ハウス・オブ・ブランズ(各ブランドを独立した形で展開する)」戦略の一環でもある。つまり、Etsy、デポップ、リヴァーブという3つのマーケットプレイスを個別に運営しながら、テクノロジー、マーケティング、プロダクト、カスタマーサービスに関する知見・人的資源を共有していく、ということだ。
EtsyやデポップといったP2P(ピア・トゥ・ピア:個人間)マーケットプレイスの収益性は、顧客にいかに多く、いかに頻繁に購入させるか、そしていかに多くのセラー(販売業者)を保持できるかにかかっている。だからこそ、マーケットプレイス勢はこぞって新しい分野への進出を強化している。たとえばこの数年だけでも、ポッシュマーク(Poshmark)は衣類だけでなく、ペット用品や家庭用品の出品が可能になり、ストックX(StockX)もスニーカーや時計に加えて、コレクターズアイテムの販売が可能となった。
Advertisement
一方、Etsyのアプローチは異なる――同社は3つのマーケットプレイスを同時に運営している。これは、各マーケットプレイスの名前をあえて残すことで、たとえばEtsyとして古着販売を始めるよりも早期に新規顧客を獲得するのが狙いだ。
P2P躍進の年
デポップの獲得はいわば、Etsy史上もっとも高額な買い物となる――リヴァーブの買収額は2億7500万ドル(約301億円)だった。昨年、Etsyは新規顧客の大量獲得に成功しており、その大半はマスクを求めて同サイトを初めて訪れた人々だった。同社の発表によると、2019年から2020年の1年間における収益は111%増の17億ドル(約1860億円)、純利益は264.2%増の3億4600万ドル(約380億円)だった。
「コロナ禍の結果として、Etsyは多くの新規顧客を手に入れた。彼らはいま、そうした顧客の生涯価値の最大化を目指している」と、大手広告代理店ピュブリシス(Publicis)のチーフコマースオフィサー、ジェイソン・ゴールドバーグ氏は指摘する。「今回のデポップ獲得により、Etsyの新規顧客に販売できるセラー(出品者)と販売スタッフを手にすることになる」。
デポップ自体もまた、昨年1年間で爆発的な成長を遂げている。Etsyの発表によれば、2020年度の収益は7000万ドル(約77億円)と、前年比100%増を記録した。
とはいえ、この数字はデポップが依然、大半の米中古販売アプリ勢よりも圧倒的に小規模であることを示してもいる。たとえば2020年度、ポッシュマークは2億6200万ドル(約290億円)、スレッドアップ(ThredUp)は1億8600万ドル(約204億円)の収益を上げた。かたやデポップの創業は2011年、本社はロンドンにあり、米国進出からまだ数年しか経っていない。
収益性への希求
Etsyは、デポップが黒字か否かを明らかにしていない。ただ、現在上場している中古品販売アプリ企業――リアル・リアル(TheRealReal)、ポッシュマーク、スレッドアップ――はどこも、いまだ通期黒字化を果たせていない。モダンリテールでも報じたとおり、これらアプリ勢が黒字化に苦慮しているのは、ひとつにはセラーを集めるために送料を負担しているからであり、さらには有料マーケティングを続けているためでもある。たとえば、ポッシュマークの2021年度第1四半期における総マーケティング費は3200万ドル(約35億円)で、同社によるとマーケティング費は総収益の40%に上るという。
そのため、これら中古品販売アプリ企業は目下のところ、インベントリー(在庫)拡充を目標に掲げている。より多くの人々に購入してもらうことで、セラー獲得に投じざるを得なかった大量の資金を相殺するのが狙いだ。ポッシュマークは実際、美容用品やペット用品など、セラーが出品できる商品幅を拡大している。一方、スレッドアップは、ウォルマート(Walmart)やギャップ(Gap)と提携し、それらリテーラーの中古品販売マーケットプレイス設立に手を貸している。
これらを考慮すると、Etsyの買収戦略がさまざまな目的にかなうものであることがわかる。たとえば、Etsyのセラーがデポップでも販売するようになれば、後者のセラー獲得経費を削減できる。さらに、顧客がEtsyとデポップの両方で買い物をするようになれば、彼らの生涯価値を上げられる、というわけだ。
Etsyは実際、前述のプレスリリースにおいて、デポップは今後もEtsyと別個に運営していくが、両アプリはリヴァーブと併せて、「プロダクト、マーケティング、テクノロジー、カスタマーサポートといった分野における知見を積極的に共有していく」と発表している。
独自戦略の有効性
もっとも、このリソースシェアリングを具体的にどう展開していくのかは、定かでない。Etsyがリヴァーブを買収してから2年近く経つが、両者の共同作業に関する詳細について、同社はほとんど明かしていない。実際、5月に開かれた決算説明会においても、同社CEOジョシュ・シルヴァーマン氏は、リヴァーブは「リヴァーブ内のマーケティングファネルのさらなる効率化を図り」、Etsyが開発したマーケティングツールおよび技術の活用を始めている、としか語っていない。
また、Etsyが展開する「ハウス・オブ・ブランズ」戦略は、少なくとも米国では有効性が証明されていない。たとえば、eBay(イーベイ)やAmazonといった最大手マーケットプレイスの拡大戦略は長年、インベントリーおよびセラー拡充のほぼ一択だ。加えて、複数ウェブサイトの運営には互いのサイトを食い合うというリスクがつきものであり、各サイトが新たな分野への進出を始めた場合、そのリスクはさらに高まることになる。
「古着、中古楽器、ハンドメイドの木製コースターの消費者が重なり合う部分はさほど大きくないと思われるため、この三者を個別のプラットフォームとして生かしておくのは、理にかなっている」と、リサーチ企業マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)のCEOジョー・カイザクーナス氏はeメールで述べた。「ただし、Etsyがいつバーティカルではなくコアプロダクトの拡大に向かうべきかについては、何とも言えない」。
[原文:With Depop acquisition, Etsy is building a ‘house of brands’ to fend off marketplace competition]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)
Illustration by Ivy Liu