TikTokとShopify(ショピファイ)は10月27日、Shopifyの加盟店が同サービスのダッシュボードから直接TikTokのキャンペーンを作成、開始できるようになったことを明らかにした。これに伴い、ShopifyのアプリストアにTikTokの新しいチャネルが公開されている。
TikTokが事業停止に追い込まれる恐れがほぼなくなった今、eコマースのスタートアップがTikTokに広告費をつぎ込む準備を進めている。そしてTikTokも、彼らがより簡単に広告を配信できるようにしたいと考えている。
TikTokとShopify(ショピファイ)は10月27日、Shopifyの加盟店が同サービスのダッシュボードから直接TikTokのキャンペーンを作成、開始できるようになったことを明らかにした。これに伴い、ShopifyのアプリストアにTikTokの新しいチャネルが公開されている。
Shopifyのアプリストアでは、Snapchat(スナップチャット)やFacebook、それにピンタレスト(Pinterest)が同じように統合されている。だが、今回の新たな提携は、TikTokのプレゼンスやTikTokに対するeコマース企業の関心が今も衰えていないことを示すものだ。米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)がデジタル広告エージェンシー4社の幹部に話を聞いたところ、TikTokで広告のテストを希望するeコマースクライアントが増えたと語ったエージェンシーが2社あった。TikTokの事業が禁止される恐れがほぼなくなったことがその理由だ。広告主はFacebookに代わる安価な広告製品や標準的なFacebookユーザーより若い消費者にリーチできる広告機会を強く求めており、そのことがTikTokへの関心を高めていると、彼らはいう。
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クライアント数は20~25%増加
ドナルド・トランプ米大統領は9月末、TikTokを所有することになっている新たな事業体にオラクル(Oracle)とウォルマート(Walmart)が出資するという提携案を「祝福する」と述べた。しかし、この提携が実現するかどうかは不明だ。同じ9月末には、米連邦裁判官がTikTokの配信禁止措置を差し止める命令を下している。
ワラルー・メディア(Wallaroo Media)を創業したブランドン・ドイル氏によれば、TikTokに広告を掲載した同社のクライアントの数は、8月末と比べて20~25%増加したという。「大半の企業は(TikTokの将来に関する)不確実性がなくなったことを理由に挙げている」と、コトパクシ(Cotopaxi)やローン(Rhone)といったD2C(Direct-to-Consumer)ブランドをクライアントに抱えるドイル氏は語った。一方、フリーランスのメディアバイヤーとして活動するサバンナ・サンチェス氏によれば、同氏のクライアントのなかには、TikTokアプリの状況を見極めたいとしてTikTokでの広告を中断したところもあったという。だが数週間前から、11月と12月のTikTok関連予算を決めるためにTikTokに戻る動きが出ているという。「以前の彼らは、第4四半期戦略でその予算を使うかどうか様子見の状態だった」と、サンチェス氏は述べている。
Shopifyでプロダクト部門バイスプレジデントを務めるサティッシュ・カンワー氏は、TikTokでの広告配信に関心を示す小売業者が増えているのかという質問に対し、「Shopifyの加盟店の大半が、書き入れ時のホリデーショッピングシーズンにオンラインセールを開催する準備を進めている」と、eメールで述べたうえで、次のように答えた。「TikTokで、加盟店が信頼される広告コンテンツを利用して新しいオーディエンスとつながりを築けるようにすることが、ホリデーシーズンに向けてきわめて重要だと我々は確信している」。
一方、TikTokの広報担当者はShopifyとの提携について、「Shopifyはコマース業界のリーダーであり、100万を超える加盟店が同社のプラットフォームを利用してビジネスを構築している。さまざまなバックグラウンドを持つ加盟店とTikTokのコミュニティを結びつけることで、TikTokユーザーが好みの商品を探したり見つけたりできる素晴らしい機会が生まれると考えている」とコメントした。
デジタル広告の多角化が進むなか
デジショップガール・メディア(Digishopgirl Media)を創業したカティア・コンスタンティン氏も、TikTokでの広告配信に関心を持つクライアントが増えているとしながらも、その理由はTikTokがセルフサービス広告プラットフォームを展開するなど、この数カ月間でより洗練された機能を追加したことにあると語った。また、カーラ(Caraa)やドールズ・キル(Dolls Kill)といったブランドをクライアントに抱えるコンスタンティン氏は、企業が広告配信先を「Facebookから分散したいと考えている」ことが、TikTokへの関心が高まっている根本的な要因だとも述べている。
ただし、全体的に見ると、ブランドがTikTokに費やしている金額は、FacebookはもちろんSnapchatにさえ及ばないのが現状だ。「予算の20%以上をTikTok広告に投じようと考えているクライアントがいるかどうかはわからない」と、ワラルー・メディアのドイル氏は話す。
ブランドがTikTokへの投資を増やそうとしない背景には、ほかのデジタル広告プラットフォームと比べて、広告パフォーマンスのトラッキングに使える広告主向けツールが洗練されていないという事実がある。TikTokはShopifyと提携するにあたり、Shopifyの加盟店がワンクリックでTikTokのトラッキングピクセルをインストールできるようにする計画だ。これまでは、開発者に依頼しなければTikTokのピクセルをインストールできないケースもあったという。
「ピクセルの統合は素晴らしいことだが、(ピクセルの)トラッキング機能を向上させることも必要だ。SnapchatやFacebookのピクセルに比べてかなり遅れを取っている」と、ドイル氏は指摘する。実際、TikTokで購入をトラッキングできるのは、ユーザーがTikTokで広告をクリックしてすぐに商品を購入した場合に限られる。これに対し、FacebookやSnapchatでは、ユーザーが購入前にほかの複数のサイトにアクセスしていた場合でも、ユーザーがその広告をクリックした後に購入したかどうかを判断できる。
TikTokのメリット・デメリット
ブランドインキュベーターのウォンハウスメディア(Wonghaus Media)でマネージングパートナーを務めるジェイソン・ウォン氏は、自身のブランドのひとつ「ドゥー・ラッシュ(Doe Lashes)」で、TikTok広告に毎月およそ1万5000ドル(約157万円)を費やしているという。ただし、TikTokの広告プラットフォームは立ち上がってからまだ日が浅いため、ウォン氏は直接販売を促進するというより、新しい顧客にブランドを紹介する「発見チャンネル」としてTikTokを利用している。
「(TikTokが)持っているデータの多くは、視聴されたコンテンツのタイプ、視聴した人のタイプ、コメントした人のタイプなど、視聴に関するものだ」と、ウォン氏は話す。これに対して、Facebookは「商品を購入したがっている人のタイプや、カートに商品を追加する可能性が高い人のタイプ」に関する詳しいデータを持っているため、そうした人々をまとめて広告のターゲットにできる」と、ウォン氏は説明した。
eコマースの広告主にとって、現時点でTikTokのもっとも大きな利点のひとつは、Facebookに広告を掲載するより安く済む場合が多いことにある。サンチェス氏の推定では、クライアントの広告単価(CPM)はFacebookの5分の1程度に過ぎない。コンスタンティン氏も、クライアントが支払う広告費はTikTokのほうが80%安くなると推定している。
とはいえ、モダンリテールが話を聞いた広告主の全員が、TikTokの最大の難点として、TikTokが立ち上がってから日が浅いプラットフォームであることを挙げた。そのうえで、同社がeコマース広告主のために、今後も高度な機能を追加していくことへの期待感を示している。TikTokの広報担当者によれば、同社はShopifyとの提携をさらに進め、ユーザーがShopifyの加盟店や加盟店の商品を見つけやすくなる新しいアプリ内機能のテストを始める計画だ。
「彼らが多くのことに取り組んでいることはわかっている」と、ワラルー・メディアのドイル氏は語った。
[原文:With a new Shopify partnership, DTC brands are bullish on TikTok once again]
ANNA HENSEL(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)