ビデオ会議サービスを提供するWebexは、より幅広いオーディエンスを獲得し、オンラインでの収益を上げるためにインフルエンサーをマーケティング戦略の中核に加えた。これはマーケティングの重点を、IT専門職から、同サービスの利用者となりうる個人や起業家へ移行する取り組みの一環となっている。
ビデオ会議サービスを提供するウェベックス(Cisco Webex)が、インフルエンサー活用に力を入れている。先ごろ、より幅広いオーディエンスを獲得し、オンラインでの収益を上げるために、インフルエンサーをマーケティング戦略の中核に加えた。これはマーケティングの重点を、IT専門職から、同サービスの利用者となりうる個人や起業家へ移行する取り組みの一環となっている。
「我々は(インフルエンサーと)緊密に協力し、(人々に)我々のプロダクトとその使い方を理解してもらえるように取り組んでいる」と、ウェベックスでグローバルブランドマーケティングリーダーを務めるディーナ・シングルトン氏はいう。「必ずしも今すぐ人々にプロダクトを売り込もうとしているわけではない。彼らがプロとして歩み出すときに、知っていることのひとつとなれるよう取り組んでいるだけだ」。
ウェベックスのリブランド施策
この取り組みをはじめとして、ウェベックスは最近リブランドを図っている。新型コロナウイルスのパンデミックやリモートワークの増加により、ビデオ会議ツールが企業でも日常生活でも、より身近な存在になったことを受けて始まったものだ。リブランドの一環として、リアルタイム翻訳などの新機能の導入や、ロゴの刷新、グローバルキャンペーンが実施されている。キャンペーンは今夏に入り、地上波およびケーブルテレビ、コネクテッドテレビ、オンライン動画、デジタル、印刷物、ペイドソーシャルなどのチャンネルで展開された。
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全体的には、デジタルマーケティング活動に投じる広告費を増やし(ただしウェベックスは広告費についてそれ以上の詳細を明らかにしなかった)、インフルエンサーを活用して、日常的に利用するユーザー、特にZ世代やミレニアル世代の起業家など、まもなく社会に進出する人々へのリーチを強化する計画だと、シングルトン氏は述べている。
ウェベックスは、ほかの多くのブランドと同様に、TikTokやインスタグラムなどのプラットフォームにおいて、ペイドとオーガニック両方のソーシャル戦略を活用するハイブリッド型のアプローチをとっている。これまでに、TikTokに9万3000人以上のフォロワーを持つジェナ・イーザリック氏や、インスタグラムに約7万人のフォロワーを持つヘレン・ウー氏といったインフルエンサーと有料スポンサーシップ契約を結んでいる。
ウェブサイトにトラフィックを流し、デジタル販売を拡大するために、インフルエンサーを起用したキャンペーンではウェベックスのサイト「Webex.com」にリンクを張り、オンラインの買い物客がプロダクトを購入できるようにしている。ウェベックスは広告費の詳細を明かさなかったが、ブランドの広報担当者は、デジタルでの取り組み、特にインフルエンサーマーケティングを今後も継続していくと述べている。カンター(Kantar)によると、シスコシステムズ(Cisco Systems)傘下のウェベックスは、2019年に490万ドル(約5億4360万円)、2020年に620万ドル(約6億8780万円)をメディア費用に投じたと推定される。2021年は、ここまでですでに推定680万ドル(約7億5440万円)をメディアに費やしている。ただし、カンターはソーシャルメディアへの支出を追跡していないため、これらの数字にソーシャル関連の費用は含まれていない。
「我々はウェベックスのデジタルマーケティング活動を強化している。たとえば、関連費用は前年比で増加しており、今後もこの分野への投資を継続していく予定だ」と、広報担当者は述べている。
なぜインフルエンサーなのか
ウェベックス・コラボレーション(Webex Collaboration)CMO兼バイスプレジデントを務めるアルーナ・ラビチャンドラン氏によると、これはウェベックスのようなB2Bブランドにとっては型破りなアプローチで、前例のない戦略だと考えられる。しかし、ビジネス向けブランドとしてリブランドマーケティングを進めるにあたり、ウェベックスはインフルエンサーマーケティングを通じて、次世代の起業家たちの目に留まることを期待している。
「パンデミックの影響で、多くの人々が新しいビジネスやビジネスモデルを生み出している」と、ラビチャンドラン氏は話す。「以前、実際にIT部門の意思決定者(を対象と)したキャンペーンを行っていたが、パンデミック以降に起こった変化を考えると、エンドユーザーの声が重要だと思われる」。
また、Appleのプライバシーに関する変更、GoogleによるサードパーティCookieの廃止、そのほかのプライバシーやデータの取り扱いをめぐる事情から、ウェベックスのようなインフルエンサーマーケティングは、ほぼすべてのブランドにとってますます重要になっていると、デジタルマーケティングエージェンシー、ソーシャルフライ(Socialfly)の共同創設者でCEOのコートニー・スプリッツァー氏は述べる。
「すべてのものにインフルエンサーが存在」
現在、ソーシャルフライのリード(見込み客)の半数以上をインフルエンサーマーケティング関連が占め、数年前の30%程度から増加していると、スプリッツァー氏はいう。また、インフルエンサーマーケティングに参加しようとしているのはB2B企業だけではない。医療関係者からも、インフルエンサーマーケティング戦略について問い合わせがあるという。
「インフルエンサーマーケティングというと、ファッション系やフィットネス系のインフルエンサーを思い浮かべる人が多い。しかし、ビジネスやゲームのコミュニティなど、さまざまなタイプのインフルエンサーが存在する」と、スプリッツァー氏はいう。「基本的に、人々が思いつくほとんどすべてのものにインフルエンサーが存在する」。
そして当面、その勢いが衰える気配はない。インフルエンサーのエコシステムが成長を続けるのに伴い、ブランドはインフルエンサーに、ライブ配信や短編動画、eコマース機能などのプラットフォーム技術を戦略に組み込むことを望むようになるだろうと、スプリッツァー氏は予測している。
「この種のサービスに対する需要は高く、多くのブランドが消費者に直接販売しているため、eコマース機能も拡充している。これまでは小売店に依存していた。このような変化は、今後も定着すると思われる」とスプリッツァー氏は述べている。
ウェベックスとしては、これからもこの路線を継続していくと同社のシングルトン氏はいう。今後、ワクチン接種によってニューノーマルがさらに進めば、屋外広告を戦略の中核に組み入れる計画もある。しかし、インフルエンサーによって拡大するデジタルとソーシャルが、引き続き主導的な役割を果たすことになるとシングルトン氏は述べている。
[原文:Why video conference app Webex is betting big on influencer marketing]
KIMEKO MCCOY(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:小玉明依)