製品を作るための研究にオープンデータベースのジェネレーティブAIモデルを使うことは、自社データを持つ大企業にとって依然として高いリスクとなっている。大きな問題は、所有権だ。データを使ってジェネレーティブAIにより作成された製品の所有者は誰になるのだろうか。
研究開発におけるジェネレーティブAI利用の懸念
マーケティングやキャンペーンにジェネレーティブAIを活用しているブランドとは異なり、研究開発などのさらに深い用途にジェネレーティブAIを使いたいと考えているブランドは、データのプライバシーと使用に関して多くの懸念に直面している。
美容業界の場合は金融業界などに比べてリスクは少ないが、外部データの利用や外部データが信頼できるかどうかといった不確実性は依然として課題である。EUは6月に加盟国でのAI使用を規制するために迅速に動いたが、米国には現在のところはAIの規制はない。EUの規制が発表された直後に、スタンフォード大学の基礎モデル研究センター(Center for Research on Foundation Models、CRFM)の研究者により調査が行われ、GoogleのPaLM 2やオープンAI(Open AI)のGPT4など大部分のAIモデルが準拠していないことが判明した。
社内ジェネレーティブAIを使った成果
一方、タッチャ(Tatcha)、レン(Ren)、アワーグラス(Hourglass)などのブランドを所有する複合企業、ユニリーバ(Unilever)は慎重に事業を進めている。それはなぜか。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
製品を作るための研究にオープンデータベースのジェネレーティブAIモデルを使うことは、自社データを持つ大企業にとって依然として高いリスクとなっている。大きな問題は、所有権だ。データを使ってジェネレーティブAIにより作成された製品の所有者は誰になるのだろうか。
研究開発におけるジェネレーティブAI利用の懸念
マーケティングやキャンペーンにジェネレーティブAIを活用しているブランドとは異なり、研究開発などのさらに深い用途にジェネレーティブAIを使いたいと考えているブランドは、データのプライバシーと使用に関して多くの懸念に直面している。
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美容業界の場合は金融業界などに比べてリスクは少ないが、外部データの利用や外部データが信頼できるかどうかといった不確実性は依然として課題である。EUは6月に加盟国でのAI使用を規制するために迅速に動いたが、米国には現在のところはAIの規制はない。EUの規制が発表された直後に、スタンフォード大学の基礎モデル研究センター(Center for Research on Foundation Models、CRFM)の研究者により調査が行われ、GoogleのPaLM 2やオープンAI(Open AI)のGPT4など大部分のAIモデルが準拠していないことが判明した。
社内ジェネレーティブAIを使った成果
一方、タッチャ(Tatcha)、レン(Ren)、アワーグラス(Hourglass)などのブランドを所有する複合企業、ユニリーバ(Unilever)は慎重に事業を進めている。それは、研究開発中に、外に漏洩するリスクを冒さずに自社ブランド全体で独自のデータを使う必要があるためだ。また、顧客の悩みに効果的に対応できる製品を開発するためには使用するデータが信頼できるものでなければならない。したがって、データプールは小さくなるが、ユニリーバは社内のジェネレーティブAIモデルに依存している。
ユニリーバは、同社の包括的な美容・ウェルビーイング部門について、2022会計年度の合計売上高が123億ユーロ(約138億ドル、約1.9兆円)であると報告した。これにはプレステージビューティ部門とヘルス&ウェルビーイング部門が含まれており、両部門とも2023年の第1四半期には9四半期連続で2桁の成長を記録している。
アワーグラスに対しては、ユニリーバは独自のAIを使用して、カーマインレッドの代替となる製品用の顔料の新しい色の組み合わせをテストした。通常、新しい顔料の作成には何百万回もの物理的な実験が必要である。また、レンやファーヴァースキンケア(Ferver Skincare)といったブランドのためのユニリーバの最近のマイクロバイオーム研究ではAIが活用されており、結果のタイムラインを10年から2年に短縮することに成功している。
ユニリーバの研究開発のデジタル&パートナーシップ担当グローバル責任者、アルベルト・プラド氏は次のように述べている。「ジェネレーティブAIをどのように活用できるか、そして研究開発や組織のほかの部署に関して、何をすべきか、何をすべきではないかについて考えている。法案の制定が待ち遠しいが、それには時間がかかる。企業は自分たちがすべきこと、すべきではないことを明確に伝えることができるように、自社が何を支持しているかをしっかり考える必要があるだろう」。
ユニリーバは、マイクロソフト(Microsoft)とそのAzureクラウドプラットフォームと提携して、4月にクラウド専用データストレージへの移行を完了した。現在は事業においてAzureのオープンAIをどのように適用できるかをテスト中である。ユニリーバは、現時点では、社内に限定して、オープンデータAIシステムにはアクセスがない独自のデータを使用して研究開発AIモデルをトレーニングしているところだ。一方、ダーマロジカ(Dermalogica)などの同社のブランドは依然としてChatGPTを使っている。ダーマロジカは、マーケティングプロセス、そして「Dermalogica: The Book」(スキンケアトリートメントのマニュアル)にChatGPTを使っており、「The Book」のChatGPT統合により専用サイト上で情報がもっと簡単にアクセスできるようになっている。
「AIモデルが優れているかどうかは、基礎となるデータ次第だ」と述べているのは、ユニリーバの美容・ウェルビーイング部門の科学・技術担当グローバルバイスプレジデント、サム・サマラス博士だ。「実験であれ人が関与する研究であれ、データを収集する方法を確立するのに多くの時間と労力を費やしている。我々にはデータ収集に関して非常に強力な倫理フレームワークがある。当社のモデルは、すべて適切に管理され、十分に参照されたデータに基づいている。それがなければ、AIによって進む必要のない方向に導かれてしまう可能性があるからだ」。
データを社内に留める大企業の意図
ジェネレーティブAIの使用には、知的財産の所有権など、信頼できる研究分析を超えた別の問題も存在する。異なるブランドを数多く抱えるユニリーバにとってIPは差別化要因である。「生成されたコンテンツのアウトプットを誰が所有するかについては、現時点では明らかではない」とアルベルト氏。「ブランド名やマーケティングキャンペーンの名称を作成するためにジェネレーティブAIを使うなら、AIモデルは与えられたデータからインスピレーションを得るが、アウトプットされた生成コンテンツの所有者が誰であるかは100%明確ではない」。
マーケティング作成のためにジェネレーティブAIを使ったことを明記するのは、免責事項を付け加えるのと同じように容易だが、製品開発のための研究に対してはこれは難しい。いまのところ、大量のデータと保護されたブランドを持つ企業は、規制によってオープンジェネレーティブAIがもっと安全で魅力的な選択肢になるまではデータを非公開にしている。
[原文:Why Unilever is foregoing open AI for beauty R&D]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)