一部のパブリッシャー幹部たちは、使命を背負い理想に燃える戦士のように、広告主はリスクをはらむニュース記事を過剰に避けていると心から信じ、高尚な目標を掲げ、なりふり構わず戦いつづけている。
残念ながら、彼らの努力は全体の枠組みのなかで効果を発揮しているとはいいがたい。
要するに、多くのマーケターはいまも、よほど明るく心温まるものでないかぎり、ニュースのそばに広告を提示することをタブー視しているのだ。パブリッシャーがどれだけ声高に訴えたところで、状況は容易には変わりそうにない。それでも、彼らが諦めず努力を続けていることは特筆に値する。
ニュースとブランドセーフティを両立するには
米DIGIDAYは先日、こうしたパブリッシャー幹部のひとりである、トーマス・ルー・リッツェン氏に話を聞いた。同氏はデンマークのパブリッシャーであるエクストラブレード(Ekstra Blade)で広告販売および技術担当ディレクターを務める。
ステップネットワーク(STEP Network)の製品およびパブリッシャー担当バイスプレジデント、ウルリク・クリステンセン氏とともに、ルー・リッツェン氏は今年の夏、公開書簡を執筆した。そのなかで2人は、マーケターに対し、自分たちがなぜこれほどニュースに神経質になっているのかを真剣に考え直すよう促した。
こうした意見表明には他にも前例があるが、彼らの公開書簡は窮状の訴えというよりも、実践的な指針だった。ニュースコンテンツの近傍に広告を掲載しつつ、理性を保ってブランドセーフティを享受するにはどうすべきかという、マーケター向けの戦略ガイドとして読むことができるのだ。
内容は多岐にわたるものの、結局のところ一点に収束する。ブランドセーフティはいまや終わりのないもぐら叩きゲームと化していて、ニュースサイクルとともに変動を繰り返している。そして、マーケターが利用しているキーワードツールは、こうした波を乗り切るのに役立っていないばかりか、むしろ「有害なターゲティング」と呼ばれる現象を加速させ、問題を複雑化させている。結果として、黒人の権利擁護運動であるブラック・ライブズ・マターや自然災害など、ブランドにとって安全であるだけでなく、ブランドメッセージと調和した重要な対話を促せるようなトピックが、広告に敬遠されている現状がある。この問題は、キーワードツールが利用されているかぎり解決しないだろうと、ルー・リッツェン氏は論じている。こうした風潮は、賢明なコンテンツクリエイター、パブリッシャー、デリケートな話題に対する意見などに広範な影響を及ぼしていようとも、広告購入を進んで危険にさらすマーケターはいない。
「我々はかつてないほど痛みを感じている」と、ルー・リッツェン氏は主張する。
この痛みは、広告市場の浮き沈みによってさらに増幅される。現在、広告支出は増加しているものの、パンデミックの初期と比べてペースは鈍化している。
「ニュースのブロック」が与える損害
「ブランドセーフティがニュースビジネスの衰退の一因になるとしたら、不運というほかない。とりわけローカルパブリッシャーはいま、重いプレッシャーにさらされている」と、ルー・リッツェン氏は述べている。
もちろん、彼の主張は的を射たものだが、広告主がかつてないほどニュースを回避している理由も想像にかたくない。昨今のヘッドラインを斜め読みするだけでも、心温まるストーリーが盛りだくさんとはとても言えない。こうした混沌ぶりに加え、ブランドセーフティフィルターはエージェンシーがゴーサインを出した時点ですでに広告計画に組み込まれている。そのため、買い手のつかない広告枠がいたるところに溢れかえっているのだ。控えめに言っても、状況は厳しい。
「さらに悪いことに、我々はデータを見るまで損失の規模の大きさに気づかない」と、ルー・リッツェン氏は言う。
彼の意図するところは、広告収入に生じた損失は、キャンペーンが終了し、広告枠がブロックされたあとにしか評価できない、ということだ。こうした損失はしばしば、ニュースビジネスの不都合な真実とみなされるものの、状況はますますパブリッシャーの士気をくじくものになりつつあると、彼は指摘する。たとえば、ある世界的ストリーミングサービスは、エクストラブレードで展開したキャンペーンにおいて独自のブランドセーフティフィルターを適用した。このフィルターにより、パブリッシャー側は場合によっては、予測されたキャンペーンの広告収入の実に90%を失ったという。
一部のパブリッシャー幹部たちは、使命を背負い理想に燃える戦士のように、広告主はリスクをはらむニュース記事を過剰に避けていると心から信じ、高尚な目標を掲げ、なりふり構わず戦いつづけている。
残念ながら、彼らの努力は全体の枠組みのなかで効果を発揮しているとはいいがたい。
要するに、多くのマーケターはいまも、よほど明るく心温まるものでないかぎり、ニュースのそばに広告を提示することをタブー視しているのだ。パブリッシャーがどれだけ声高に訴えたところで、状況は容易には変わりそうにない。それでも、彼らが諦めず努力を続けていることは特筆に値する。
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ニュースとブランドセーフティを両立するには
米DIGIDAYは先日、こうしたパブリッシャー幹部のひとりである、トーマス・ルー・リッツェン氏に話を聞いた。同氏はデンマークのパブリッシャーであるエクストラブレード(Ekstra Blade)で広告販売および技術担当ディレクターを務める。
ステップネットワーク(STEP Network)の製品およびパブリッシャー担当バイスプレジデント、ウルリク・クリステンセン氏とともに、ルー・リッツェン氏は今年の夏、公開書簡を執筆した。そのなかで2人は、マーケターに対し、自分たちがなぜこれほどニュースに神経質になっているのかを真剣に考え直すよう促した。
こうした意見表明には他にも前例があるが、彼らの公開書簡は窮状の訴えというよりも、実践的な指針だった。ニュースコンテンツの近傍に広告を掲載しつつ、理性を保ってブランドセーフティを享受するにはどうすべきかという、マーケター向けの戦略ガイドとして読むことができるのだ。
内容は多岐にわたるものの、結局のところ一点に収束する。ブランドセーフティはいまや終わりのないもぐら叩きゲームと化していて、ニュースサイクルとともに変動を繰り返している。そして、マーケターが利用しているキーワードツールは、こうした波を乗り切るのに役立っていないばかりか、むしろ「有害なターゲティング」と呼ばれる現象を加速させ、問題を複雑化させている。結果として、黒人の権利擁護運動であるブラック・ライブズ・マターや自然災害など、ブランドにとって安全であるだけでなく、ブランドメッセージと調和した重要な対話を促せるようなトピックが、広告に敬遠されている現状がある。この問題は、キーワードツールが利用されているかぎり解決しないだろうと、ルー・リッツェン氏は論じている。こうした風潮は、賢明なコンテンツクリエイター、パブリッシャー、デリケートな話題に対する意見などに広範な影響を及ぼしていようとも、広告購入を進んで危険にさらすマーケターはいない。
「我々はかつてないほど痛みを感じている」と、ルー・リッツェン氏は主張する。
この痛みは、広告市場の浮き沈みによってさらに増幅される。現在、広告支出は増加しているものの、パンデミックの初期と比べてペースは鈍化している。
「ニュースのブロック」が与える損害
「ブランドセーフティがニュースビジネスの衰退の一因になるとしたら、不運というほかない。とりわけローカルパブリッシャーはいま、重いプレッシャーにさらされている」と、ルー・リッツェン氏は述べている。
もちろん、彼の主張は的を射たものだが、広告主がかつてないほどニュースを回避している理由も想像にかたくない。昨今のヘッドラインを斜め読みするだけでも、心温まるストーリーが盛りだくさんとはとても言えない。こうした混沌ぶりに加え、ブランドセーフティフィルターはエージェンシーがゴーサインを出した時点ですでに広告計画に組み込まれている。そのため、買い手のつかない広告枠がいたるところに溢れかえっているのだ。控えめに言っても、状況は厳しい。
「さらに悪いことに、我々はデータを見るまで損失の規模の大きさに気づかない」と、ルー・リッツェン氏は言う。
彼の意図するところは、広告収入に生じた損失は、キャンペーンが終了し、広告枠がブロックされたあとにしか評価できない、ということだ。こうした損失はしばしば、ニュースビジネスの不都合な真実とみなされるものの、状況はますますパブリッシャーの士気をくじくものになりつつあると、彼は指摘する。たとえば、ある世界的ストリーミングサービスは、エクストラブレードで展開したキャンペーンにおいて独自のブランドセーフティフィルターを適用した。このフィルターにより、パブリッシャー側は場合によっては、予測されたキャンペーンの広告収入の実に90%を失ったという。
「彼ら(ストリーミングサービス)は事実上、ニュースカテゴリー全体をブロックした」と、ルー・リッツェン氏は説明する。
通説に反して、どのエージェンシーもこうしたアプローチに満足しているわけではない。一部のエージェンシーは広告主を説得し、厳格すぎるニュースブロッキング手段を緩和させるといった、踏み込んだ取り組みを進めていると、ルー・リッツェン氏は言う。いわば商業的利他主義だ。彼らはニュースが必要不可欠だと認識しているだけでなく、広告を提示できるニュースコンテンツが増えれば、キャンペーンが表面的なものとみなされるリスクが下がるとも考えているのだ。こうした転換が勢いを増せば、商業的リスクも増大するだろう。
「先のストリーミングサービスの事例では、エージェンシーはすでに我々をブランドにとって安全なパブリッシャーと認めていたこともあり、なんらかの措置が必要だという主張を支持してくれたが、それでも我々はブランドセーフティ技術によってブロックされ続けた」と、ルー・リッツェン氏は言う。「それに対して、こちらの事例ではエージェンシーは我々の味方だ」。
進まないブランドスータビリティへの転換
こうした協力関係は広告業界では比較的まれだが、実際の事例を見てみると、これが一般化したら状況はどう変わるのだろうと想像せずにはいられない。言うまでもなく、今後はブランドセーフティ技術のベンダーに対して、より懐疑的にならざるを得ないだろう。とはいえ、決定的な解決策が近いうちに登場する見込みは薄い。エージェンシーがブランドセーフティ技術の利用に固執する理由は、財務的なものから監査担当者の要求までさまざまであり、こうした要因のすべてに対処するのは困難を極めるだろう。
「大手エージェンシーはニュースパブリッシャーへの支援を約束するが、彼らが推進するブランドセーフティ技術のせいでニュース業界の広告枠が売れなくなっているとしたら、そうした約束は実態を伴っていない」と、ルー・リッツェン氏は説明する。
率直に言って、現状に欠けているのはニュアンスだ。ブランドセーフティからブランドスータビリティへの転換は、大いに議論されているものの、現実のものになっていない。あるいは少なくとも、ルー・リッツェン氏のようなメディア幹部の目に映る形にはなっていない。「マーケターはニュースに関する何もかもを潜在的な負債とみなしている、というのが現状だ」と、同氏は言う。
ここから、ブランドセーフティ技術の本質的問題が浮き彫りになる。マーケターの手元にあるツールが金槌だけなら、彼らがすべての問題を釘とみなすようになるのは無理もない。
こうした難局に陥るのを避けるため、マーケターはいくつか重要なポイントを考慮すべきだ。ブランドセーフティ技術が本当に問題のある場所への広告掲載を回避するのに役立っているかどうかを精査し、またこうした技術がどの程度頻繁にコンテンツスキャンを行っているかを検証することが望ましい。一般企業が製造手段、労働条件、環境影響などの評価を行うように、マーケターは適用する技術の真価を精査すべきであり、ローカルなコンテンツやニュース文化への理解のない、あるいはコンテンツを正しく理解し解釈していない判断基準を盲目的に採用することは避けなくてはならない。
「残念ながら、こうした(避けるべき)ことが市場の現実としてまかり通っている」と、ショーヒーローズ・グループ(ShowHeroes Group)でシニアバイスプレジデントを務めるケイ・シュナイダー氏は述べる。
現状を生み出した2つの要因
同氏の考えでは、こうした現状を生み出した主要因は2つある。第一に、Cookieの利用以外の、実用化されているさまざまなターゲティング手段に関する知見が、マーケターのあいだに十分に浸透していないことだ。
たとえば、動画広告の分野では、意味概念の活用により、ニュースサイト読者のなかのスポーツファンにリーチしたい広告主が、ページ全体を除外対象とすることなく目的を達成できるようになっているという。
第二に、クライアント側の問題として、KPIの測定結果に満足し、関連性や適合性に関する分析を求めないケースがあまりに多いと、シュナイダー氏は指摘する。
時代遅れの概念に巨額の広告費が流れているかぎり、いまの不幸な状況は改善されないだろうと、シュナイダー氏は語った。
[原文:Why the pivot to brand suitability never happened for this publisher]
Seb Joseph(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:分島翔平)