米国がパンデミックに襲われて以降、大手ホームセンターのホーム・デポは長年店頭で行ってきた対面ワークショップをライブ配信に切り替えた。いまやライブ配信は顧客に対する新たなエンゲージメントとリテンションの手段となりつつある。かつては店頭で度開催していたワークショップだが、現在は毎月約40本の番組が配信されている。
2020年の春に米国がパンデミックに襲われると、大手ホームセンターのホーム・デポ(Home Depot)は長年店頭で行ってきた対面ワークショップをライブ配信に切り替えた。自宅のガレージからアドバイスを発信する2人のアソシエイト(従業員)のおかげで、いまやライブ配信は顧客に対する新たなエンゲージメントとリテンションの手段となりつつある。
かつては店頭で月5回程度開催していたワークショップだが、現在はホーム・デポのウェブサイトで視聴できるライブ配信を活用し、毎月約40本の番組が配信されている。ホーム・デポのブランド開発・マーケティング担当ディレクター、マーシャル・ワイス氏は、現在配信中のライブ番組(「DIY」と「Homeowner 101」)がそれぞれ毎回平均で「数百人の参加者」を集め、参加人数には上限を設けていると語る。
上限に関する具体的な数字は教えてもらえなかったが、たとえばホームシステムを取り上げた「Homeowner 101」の最近の回では、登録がすぐいっぱいになってしまうとチャットボックスで嘆く視聴者が見られた。
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顧客とのつながりを維持する
ワークショップには氏名とメールアドレスを入力して申し込む。配信にスポンサーはついておらず、配信からの購入もできないが、視聴者が質問すれば番組ホストのアソシエイトが商品のリンクをQ&Aのチャットに入力してくれる。番組の最後に、その配信がどれだけ役に立ったか、今後どのような内容を見たいかを尋ねる視聴者アンケートがある。「Homeowner 101」シリーズの場合、視聴者が自分のメールアドレスを入力すると、配信の数日後にオンライン購入で利用できる15%オフのクーポンが送られてくる。
ワイス氏は「(クーポンは)新規のお客様と、家を新築した人たちに活用していただくためのもの」と語ったが、実際に何パーセントのクーポンが使用されているのかについては明かさなかった。
ホーム・デポのブランド戦略担当バイスプレジデントのリサ・デステファノ氏は、ライブ配信は以前から企画されていたもので、パンデミックでその取り組みが加速されたのだと述べる。「急いで開始したのは、日曜大工をする人がかつてないほど増えているなかで、ノウハウを提供せずにお客様を放っておくことをしたくなかったからだ」。
パンデミックによるロックダウンで、米国の人々が自宅にいる時間をありとあらゆるDIYに向けるなか、ホーム・デポの売上は大きな伸びを見せた。ホーム・デポの広報担当によると、2020年のオンラインとアプリ経由の売上は2019年に比べ86%増えている。今後はすでに人気の高い番組をさらに拡充し、アソシエイトのノウハウを家庭の消費者に直接届けることで、新規顧客獲得と既存顧客維持のための主要な手段とすることを狙う。
あえて自社サイトで集客
ライブ配信はホーム・デポのソーシャルメディアチャンネルでは宣伝されていない。同社が公開しているYouTubeの動画内にリンクが貼られていたり、顧客へのメールにリンクが記載されたりはしているが、ほとんどの集客はウェブサイトで行っている。現在の計画では、今年の夏に店内看板を新しくして実店舗でもライブ配信の周知を図るほか、今後パンデミックが終息に向かっても、オンラインで提供している地元店舗情報に、対面ワークショップに加えてライブ配信ワークショップの情報も掲載することを予定している。
ライブ配信の顔は、長年ホーム・デポに勤めているジョージア州のジョー・コブ氏とリーランド・スプロール氏である。裏ではプロデューサー、ITサポート担当者、インストラクショナルデザイナーが番組の円滑な流れを支える。2人はどちらも正真正銘の自分たちの自宅ガレージから、デモに役立つと思う商品を手にパソコンひとつで配信している。先日の「Homeowner 101」では、コブ氏がさまざまなエアフィルターを手に持ち、それぞれのよい点と悪い点を説明していた。
ゼロパーティデータとファーストパーティデータに重点を置くメールマーケティング企業、チーター・デジタル(Cheetah Digital)のコンテンツ・データ担当バイスプレジデントのティム・グロンブ氏は「賢い新規顧客獲得方法だ」と言う。「誰が視聴しているのかを詳しく把握できないYouTubeとは違い、ライブ配信ではブランド体験をコントロールできる。自分たちでライブ配信すれば視聴者情報を活用し、さらに質問してフォローアップすることもできる」。
ライブ配信はYouTube動画より視聴者の数は少なくなるかもしれないが、特にクーポンとの組み合わせで考えると、効果的な市場調査手段だ。「大規模である必要はない。ほんの数百程度の本当に優良なデータポイントがあれば十分だ」とグロンブ氏は付け加える。
パンデミックの勝ち組が取る戦略
ホーム・デポやロウズ(Lowe’s)、トラクター・サプライ(Tractor Supply)は、米国の人々が自宅周りの手入れにいそしみ始めたために家や芝生の修繕・整備グッズの需要が急拡大している恩恵を受け、パンデミックの勝ち組となっている例である。ホーム・デポは昨年、オンライン受注の60%を店頭受取で渡している。
カンター・リテール(Kantar Retail)のグローバル・インサイト&テクノロジー担当シニアバイスプレジデント、デイブ・マーコット氏はこう語る。「誰もパンデミックなど望んではいないが、昨年起きたことはホームセンターには思いがけずいい結果をもたらした」。消費者に日曜大工、塗装、タイル貼りを教えることは、ホーム・デポが長年取り組んできた戦略の一環である。「どのような形であれ修繕の方法を教えれば、道具や材料を買ってもらえることホーム・デポはわかっていた」と同氏は言う。
なぜライブ配信から買い物ができるようになっていないのかを尋ねると、ワイス氏は「今は始まったばかりで、今後予定していることはたくさんある」と答えた。「ライブ配信は当社ワークショップが次のステージへ進むための第一歩にすぎない」。
[原文:Why The Home Depot quietly brought live streaming to its consumers]
ERIKA WHELESS(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)