D2Cブランドの多くは、長いあいだAmazonでの販売を避けてきた。とはいえ、eコマースの世界でいまだに大きな影響力をもつAmazonという販路を完全に無視するつもりはないらしい。その傾向は、毎年恒例のAmazonプライムデー(Prime Day)の期間を見れば明らかだ。
D2Cブランドの多くは、長いあいだAmazonでの販売を避けてきた。とはいえ、eコマースの世界でいまだに大きな影響力をもつAmazonという販路を完全に無視するつもりはないらしい。その傾向は、毎年恒例のAmazonプライムデー(Prime Day)の期間を見れば明らかだ。
プライム会員に対する、いわば「大感謝祭」であるこの期間中、さまざまなブランドの型落ち商品がお買い得価格で販売される。そんななか、寝具を扱うブルックリネン(Brooklinen)やキャスパー(Casper)といったブランドはこれまで、自社ECサイトを中心にセールを開催していた。Amazon経由での販売は片手間程度といってもいい。しかし現在、上記のブランドたちはAmazon経由での販売にも注力しているという。また、CNBCのインタビュー取材によれば、男性下着のマック・ウェルドン(Mack Weldon)やアクティブウェアのヴォリ(Vuori)は、プライムデー向けの割引商品の販売はしないものの、ブライムデーをきっかけに購買意欲が高まっている消費者をターゲットに、広告を出稿しているという。
Amazon経由の販売を避けているD2Cブランドは、かなりの数にのぼる。化粧品のグロシエ(Glossier)、アイウェアのワ―ビー・パーカー(Warby Parker)、 シューズのオールバーズ(Allbirds)、スーツケースのアウェイ(Away)などがそうだ。一方、ネット直販で成長してきた先発ブランドのなかにも、Amazonへの出店に踏み切る企業が出てきた。先陣を切ったのは一部の消費財ブランドで、D2Cのみでの事業拡大はいつか壁にぶつかるとの見通しから、早い段階でマルチチャネル展開を開始。そんななか、最適な販売チャネル構成を模索する際のテストとして、Amazonを選ぶ企業が多い。
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また、D2Cブランドの後発組にも、同様の動きがみられる。顧客体験への一定の関与が維持でき、ECサイトとのカニバリゼーションが起きないという確信が得られれば、Amazonへの出店に乗り出す決断をしているようだ。
「懐疑的な見方」
D2Cブランド各社は、設立時からAmazonに対して懐疑的な見方を持つ企業が少なくない。新興ブランドはもともと、自社ECサイトを通じて直接消費者と繋がることで、販顧客体験にかかわるすべての側面を、意のままに管理できていた。しかしAmazon経由の販売ではそれが叶わない。Amazon側の仕様変更に影響を受けたり、広告枠獲得争いで競合他社に負けたりする可能性があるからだ。また、Amazon上で模倣品業者に売上を奪われるケースや、Amazon自体がD2Cブランドの競合製品をAmazonで販売するケースなども見られる。
だが、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、D2Cブランドの多くがeコマースの売上を伸ばす一方、Amazon経由の販売はそれを上回る勢いで拡大してきた。市場調査のイーマーケター(eMarketer)によれば、Amazonの売上高は2020年10月時点で米国内eコマース売上高合計の39%に達している。eコマース領域でAmazon優位が続くかぎり、同社のプラットフォーム経由で販売すべきか否か、D2Cブランドは悩み続けることになるだろう。
「ブランドの種類を問わず、オムニチャネル販売戦略を取る企業を私は評価する。市場の反応を確かめるためのAmazonへのテスト出店は、どんなブランドでも事業戦略の一環として進めてみるべきだと思う。競合他社がAmazon経由の販売で成功を収めているのなら、なおさらだ」。こう語るのは、天然デオドラントで知られるシュミッツ・ナチュラルズ(Schmidt’s Naturals)の創業者、ジェイミー・シュミット氏だ。同氏現在、シードステージおよびアーリーステージのベンチャー企業を中心に出資する投資会社、カラー(Color.)の共同創業者も務めている。
テストの場としてのAmazon
ヒーローコスメティックス(Hero Cosmetics)の創業者兼CEO ジュ・リュウ氏は、2017年の同社設立後、まもなくAmazonに出店する決断をした。ヒーローコスメティックスは現在、自社のECサイトやAmazon、そしてターゲット(Target)、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters)、CVSファーマシー(CVS Pharmacy)といったリテーラーを通じて、ニキビ治療パッチを販売しているが、最大の販売チャネルはAmazonで、同社の売上高のうち50%以上を占めている。リュウ氏がAmazonへの出店を決めたのは、自社製品の市場適合度を確認するためだ。「Amazon経由の販売は、投入するリソースが少なくてすみ、出店手続きも迅速だった。Amazonというプラットフォームによって、オーディエンスとの接点を最大化できた」とリュウ氏は指摘する。
リュウ氏によると、Amazon活用を巡る最大の懸念は、同社が化粧品のプライベートブランドを立ち上げて、競合化するおそれがあることだった。ちなみに、まだその兆候はない。また、ヒーローコスメティックスの事業が当初Amazon中心に拡大したため、ほかの小売チャネル経由で販売し辛くなる可能性も懸念されていた。
「Amazonといえば、低価格商品を扱うという、ブランドイメージが強い。それもあり、小売企業の多くはAmazonを好ましく思っていないだろうという印象があった」とリュウ氏は語る。「ところが、いざ小売業者に売り込みをかけてみると、我々のブランドがAmazon経由で拡大したことについての反発は、まったくなかった。むしろAmazonでの展開が実績とみなされ、当社にはプラスに働いた」 。
前出のシュミット氏は、新興ブランドに早期のAmazon出店をすすめる理由として、すでに確立された、Amazonの巨大な顧客基盤を相手にビジネスができる点を挙げている。また、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の費用を、まだ単独でまかないきれないブランドの場合、Amazonに出店していれば同社のフルフィルメントサービスを利用できるメリットもある。
Amazon経由販売のコントロールを維持
一方、D2CブランドがAmazon提供のサービスに何もかもまかせていると、不利益をこうむる場合もある。
家庭用品を提供するブルックリネン(Brooklinen)で、グロースマーケティング、およびeコマース担当 バイスプレジデントを務めるジャスティン・ラピダス氏によると、同社が2年前にAmazon経由の販売を開始したのは、多くの人にブランド体験を提供できる可能性を感じたからだという。
というのも、同社がAmazonに出店する前から、何万の人々がAmazonのサイト内でブルックリネンというKWを検索しており、その大半がAmazon内で他ブランドの商品を購入していたのだ。「ブルックリネン製品の需要を生み出したのは我々だが、売上の多くはAmazonにもっていかれていた」とラピダス氏は述べた。
そこで同社は現在、Amazon経由でも顧客にブランド体験を提供すべく、出店。Amazon経由の注文を自社の倉庫で処理し、包装工程まで自前で行っている。これが可能なのは、ブルックリネンが自社の倉庫を、プライム(Prime)の対象となるよう、2日以内に十分な注文を顧客に届けられる体制を構築できているからだ。しかしこれは、どの新興ブランドでもできることではない。
あくまで自社チャネル中心
ブルックリネンは昨年、Amazonプライムデーと同時に自社ECサイトでのセールを開催した。ラピダス氏によるとその理由は「Amazonでは安く商品を購入できるのに、自社ECサイトでは購入できない状況は容認できないからだ」と述べる。結局このセールは、ブルックリネンのECサイト上ではブラック・フライデー(11月第4木曜日の翌日)に次ぐ、2番目の売上高を記録するに至った。
なお、今年もブルックリネンは、同様のセールを実施している。これは、Amazonプライム会員を対象に20%オフのセールを適用しながら、自社ECサイトでは15%オフのセールを展開するというものだ。「Amazonプライムデーには凄まじい影響力がある。我々のeコマース事業全体にハロー効果をもたらしている」とラピダス氏は語る。
しかし、Amazonでセールを展開しつつも、ブルックリネンは商品の大半を自社サイトで販売し続けている。ラピダス氏によると、同社がAmazonで扱う商品が50SKU(ストック・キーピング・ユニット:受発注・在庫管理を行うときの、最小の管理単位)であるのに対し、自社ECサイト掲載の商品は3000SKUにのぼり、自社チャネル中心の体制を貫いている。
「セール企画で、新たな販売チャネルを開拓する際は、テスト期間を設けている。本格的に導入するか否かの判断は、テストの結果しだいで、柔軟に判断することにしている」。
[原文:Why some DTC brands’ Amazon strategies have changed]
(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)