資生堂 はなぜ、米・新興スキンケアブランドを買収したか?:ドランクエレファント、M&Aの背景

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資生堂(Shiseido)は10月8日、アメリカのスキンケアブランド、ドランクエレファント(Drunk Elephant)を8億4500万ドル(約895億円)で買収した。エスティローダー(Estée Lauder Companies)やユニリーバ(Unilever)などが買収先の候補として取り沙汰されるなか、結局下馬評の低かった資生堂が勝ち取った形になった。

美容業界における勝者総取りのM&Aで、資生堂はライバルに遅れをとりがちだった。同社が最後に買収したのは2017年から2018年におけるテクノロジー企業のマッチ・コ(MatchCo)、ギアラン(Giaran)、オリボ・ラボラトリーズ(Olivo Laboratories)となっている。美容ブランドに限っていえば、最後に買収したのは2016年のローラ・メルシエ(Laura Mercier)とリバイブ(Revive)にまでさかのぼる。さらにそのうちリバイブは昨年テングラム・キャピタル・パートナーズ(Tengram Capital Partners)に売却している。資生堂が最後に米国で大規模M&Aを試みたのは2010年で、失敗に終わっている

だが、あくまでスキンケアをコアコンピテンシーとする資生堂にとって、米スキンケアブランドのドランクエレファントはもっとも自然なパートナーといえるだろう。

コアサイト・リサーチ(Coresight Research)によれば、ユニリーバは6月にタッチャ(Tatcha)を5億ドル(約540億円)で買収する前に、総額23億ドル(約2500億円)をかけてダーマロジカ(Dermalogica)、ケイト・ソマーヴィル(Kate Somerville)、リヴィング・プルーフ(Living Proof)、アワーグラス(Hourglass)、レン(REN)、ミュラド(Murad)、ガランシア(Garancia)の6社を買収している。高級品から安価なものまで幅広く展開するユニリーバに対し、資生堂は常に高級路線を貫いてきた。

ドランクエレファントは一時期時価総額が10億ドル(約1080億円)にまで達し、2019年の総売上は1億ドル(約108億円)に到達する見込みだ。2013年のローンチから飛躍的な成長を遂げた同社だが、アジアにおける存在感は、ほぼないといっていい。資生堂にとって最大の市場は米国ではなく、日本と中国だ。ドランクエレファントのアジア初参入は2018年11月、シンガポールのポップアップストアとなっている。

スキンケア製品の重要市場

ユーロモニター・インターナショナル(Euromonitor International)の市場データによれば、資生堂の美容およびパーソナルケア製品の売上のうち、日本国外の占める割合は2013年が52%、2018年は56%だった。海外市場が伸びているなかで、米国を拠点とするドランクエレファントの買収は理にかなったやり方といえるだろう。ユーロモニター・インターナショナルの美容アナリスト、ガブリエラ・ベックウィズ氏は「2019年から2023年にかけて、スキンケア市場が世界でもっとも伸びるとされているのが、アジア太平洋地域だ。同市場の成長率は年4%ともされており、ドランクエレファントはクリーンビューティーを強く求めるアジアの消費者のあいだで大きく花ひらく可能性がある」と分析する。

また、エディテッド(EDITED)の市場アナリスト、カイラ・マーシ氏は「アジアはスキンケア製品が高い地位を占める重要な市場だ」と語る。「ドランクエレファントは香港と中国への拡大だけで、世界全体の収益の10%を稼ぎ出す可能性がある」。

資生堂は最近、トリーバーチ(Tory Burch)と新ライセンス契約を結んだ(同社はその前にELCとフレグランス商品の短期契約を結んでいる)。同契約は2020年1月から開始する予定だ。同時に米国資生堂のCEOであり、資生堂の最高成長責任者のマーク・レイ氏は「女性デザイナーと提携したのは今回が初だ。トリー氏のもたらすモダニティとエンパワーメントの力は、特にメイクアップやスキンケアにおいても力強いメッセージとなるだろう」と語る。ドランクエレファントと創業者のティファニー・マスターソン氏との契約は、まさに同様のモデルともいえる。

ミレニアル世代の心を掴む

マスターソン氏は製品開発とソーシャルメディアマーケティング、メッセージングについて非常に実践的であることで知られる。同氏はドランクエレファントに最高クリエイティブ責任者として残り、プレジデントの役職につくと見られている。マスターソン氏は米DIGIDAYの姉妹メディアであるGlossy(グロッシー)の独占インタビューで「自由にやらせてもらえる企業と提携したかった。ドランクエレファントというブランドのあり方を残し、私のビジョンを尊重してくれる企業だ」と語っている。「資生堂はドランクエレファントに対してイノベーションのための驚異的なリソースを提供してくれる。このリソースがあればパッケージングや製品開発においてさらに前へと進める。企業文化も素晴らしく、資生堂はドランクエレファントを次の成長段階へと導いてくれる。このような世界企業の一員となれることを誇りに思う」。

マスターソン氏はクリーンビューティーに反する成分を「サスピシャス6(Suspicious 6)」と名付けてカスタマーに大きな衝撃を与えた。同社はクリーンビューティーへの大きな潮流を生み出し、現在のカラーコスメやフレグランスに強い影響を与えている。NPDグループは、直近に発表した女性用フェイシャルスキンケアレポートで「社会的責任や信頼、クリーン、『肌に悪い成分』を含まないといった観点において、消費者はドランクエレファントをトップブランドに位置づけている。いずれも今日の市場で成功を収めているブランドの多くに共通する要素である」と、分析している。

資生堂系列のナーズ(Nars)やローラ・メルシエは、ある時点で創業者によるワンマンブランドだったといえる。フランソワ・ナーズ氏とメルシエ氏は、現在ブランドの日常業務を行っているわけではない。だが、ナーズはブランドとしてインフルエンサーを活用した大規模な取り組みさまざまなテーマを入れ替えながら展示するポップアップストアなどを実施。美容に関心のあるミレニアル世代の消費者の話題の中心に返り咲いた。親会社の資生堂も、カラーコスメファンデーションで同様の戦略を活用し、若いカスタマーへのリーチを試みている。

大きな成長のチャンス

「資生堂には歴史があり、世界的なリーチの面でも強い。ほかの有名美容ブランド以上にイノベーションや技術投資を行うことで、飽和している市場のなかで中心的な存在であり続けている」と、マーシ氏は分析する。

ドランクエレファントはインスタ映えするパッケージや、創業者を中心としたブランドの立ち上げにまつわる物語によってミレニアル世代の心を掴んだ。同社にとってこうした取り組みと、スキンケアを中核とした事業を続けることが肝要だ。資生堂のアジア市場における強さと近年の技術投資と組み合わせれば、大きな成長のチャンスがあることに疑いの余地はない。

Priya Rao(原文 / 訳:SI Japan)