テック界の巨人の直営店もまた、新型コロナ禍の犠牲者となることがわかった。 Microsoft は米時間6月26日、Apple Storeへの対抗措置として2009年にオープンし、現在は全世界で展開する店舗のうち、83店を閉めると発表した。
テック界の巨人の直営店もまた、新型コロナ禍の犠牲者となることがわかった。Microsoftは米時間6月26日、Apple Storeへの対抗措置として2009年にオープンし、現在は全世界で展開する店舗のうち、83店を閉めると発表した。
閉鎖費用は1株あたり0.05ドル、「税引き前でおよそ4億5000万ドル(約482億円)に上ると思われ」、これは6月30日締めの今年度第2四半期に計上するとMicrosoftは述べており、その大部分を「減損および損金処理」するという。とはいえ、すべてを諦めるわけではない。4つの旗艦店――ニューヨーク5番街店、ロンドンはオックスフォードサーカス店、ウェストフィールドシドニー店、本社「キャンパス」のあるワシントン州レッドモンド店――は「エクスペリエンスセンター」として維持していくという。
コロナ禍のせいで死期が急激に早まったのは間違いない――実際、全直営店は3月以来いまだ閉鎖されている。ただ、今回の閉店劇が同社の抱えるブランディング問題を改めて浮き彫りにしたのも事実だ。そもそも、Microsoftは卸売を生業としており、最終消費者への直販売については歴史が浅い。それゆえ、直営店には社の顔として、そして消費者と相対して商品/サービスを提供する新生面の象徴としての役割を期待していたのだが、結果は出なかった。
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コロナ共生時代を迎えるなか、業種にかかわらず、店舗再開は難易度を急速に増しており――米ローカルビジネスレビューサイトYelp(イェルプ)による最新のウィークリー情報によると、閉鎖中の小売店の35%が「再開不能の様相を呈している」という――実際、Microsoftの悲劇に目新しさはない。
小売進出への性急な決断
直営店は長らくコンピュータ企業勢の悩みの種であり、MicrosoftもまたDellやIBMと同じ轍を踏む結果となった。たとえば、米パソコンメーカーDellは2002年に直営店をオープンさせたが、2008年前半には早くも、140あった全店舗の閉店を決め、米家電量販大手ベストバイとの提携を選んだ。
Microsoftの直営店は、ミニマリスト的内装とゲーミングラウンジで客寄せを図ったが、すぐ近くに店を構えるApple Storeとは違い、販売指向型のフットトラフィックは明らかに得られていなかった。同社が直営店で目指したのは、カスタマーサービスの提供とともに、商品を自由に試してもらうハブとしての機能だった。
最大の問題は、ユーティリティにフォーカスしたソフトウェア界のリーダーというMicrosoftの立ち位置にあると、リサーチ会社グレイハウンド・リサーチ(Greyhound Research)のチーフアナリスト、サンチ・ヴィール・グギア氏は分析する。「Microsoftは長らく、ハードウェア界において自己の存在意義を見出せない、いわゆるアイデンティティクライシスと苦闘している」。実際、1990年代から2000年代にかけて、同社は数々の目新しい機器に大量の資金を投じたが、依然として、ソフトウェア製品の売上が収益の大半を占めている。
事実、Microsoftの事業の中核は昔もいまも企業アプリケーションソフトウェアが担っている。最近発表されたSlackの好敵手となる、仮想の職場を実現するビジネスチャットツールのTeams(チームズ)もその一例だ。法人顧客へのフォーカスは、2016年に行なった、ビジネスに特化したSNS、LinkedIn(リンクトイン)の買収でも明らかだった。こうした動きはこれまでのところ成功と見なされているが、どちらの人気ソフト/サービスも小売店の環境に馴染むものではない。
当初、Microsoftは直営店をライバルAppleへの対抗策の数々を人々に示す、いわば見本市と位置づけていた。だが、iPodおよびiTunesの対抗馬として送り出したZuneは、2000年代初頭、消費者の関心をまったく得られなかった。2012年10月に発表した人気のタブレット型端末Surfaceも、同社のハードウェア界進出にかける意欲の現れにほかならない。以降、同社はヨーロッパおよびアジアにも急速に手を広げ、最盛時には世界各国に116以上の店舗を有した。
このたびの規模縮小はつまり、Microsoftが物販をサードパーティリテーラーに戻すと決めたことを意味する。同社はこれまで物理的な商品をいわば運を天に任せて売り出してきた。スマートフォンのWindows Phoneは最近の失敗例で、2019年12月にサポートを打ち切っている。一方、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)、ベストバイ(Best Buy)といった大手をはじめとする数々のリテールパートナーの力もあり、ゲームコンソールおよびタブレットは今後も実店舗で存在感を誇ると思われる。
「エクスペリエンス」のダウンサイズ
Microsoftはしかし、すべてを失うわけではない。前述のとおり、主要4店舗は「リイマジンド(reimagined:再想像)」を具現化する場として生き残ることになる。2年の計画期間を経て、ちょうど1年前にロンドンにオープンした3階建ての旗艦店もそのひとつで、営業再開後は、Surface機器、拡張現実ウェアラブルコンピュータのHoloLens(ホロレンズ)、そして人気ゲーム機Xboxの拠点として営業を続けていく。
また、直営店数の大幅な縮小はeコマースへの注力を意味しており、これは同社にとっては明るい兆しともいえる。Microsoftのハイタッチ店舗はようするに「自社商品がAppleのそれに勝るところを誇示する」ためのものだったと、ヴィール・グギア氏は分析し、「Appleには太刀打ちできるものがない分野」の商品であるXboxにとっては、いまも非常に重要な意味を持つと指摘する。
目立った結果を出せなかったMicrosoftの直営店ではあるが、少なくとも同社が進出を希求するハードウェア界に確かな足跡を残す一助にはなった。また、直営店ならではのフィードバックループとブランドアウェアネスはデザインのさらなる進歩にも貢献したと、ヴィール・グギア氏は指摘する。事実、近年のAppleとの顧客争奪戦は、Surface ProシリーズやSurface Arc Mouseといった革新的機器の誕生につながった。
業界大手Microsoftによるこのたびの撤退劇は、テック企業の実店舗経営に関しては、Appleが例外的存在であることの証にほかならない。その他大勢にしてみれば、直営店は勝ち目の薄い賭け、という場合も少なくない。
[原文:Why Microsoft is closing most of its experiential stores]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:長田真)