2021年5月、オンラインゲーム・プラットフォームのロブロックス(Roblox)内で、グッチ(Gucci)の「バーチャルな」バッグが、リアルでは3400ドル(約37万4700円)で販売されているにも関わらず、それよりも高額な4115ドル(約45万3400円)で購入され話題を呼んだ。
2021年5月、オンラインゲーム・プラットフォームのロブロックス(Roblox)内で、グッチ(Gucci)の「バーチャルな」バッグが、リアルでは3400ドル(約37万4700円)で販売されているにも関わらず、それよりも高額な4115ドル(約45万3400円)で購入され話題を呼んだ。
ロブロックスのブランド提携担当バイスプレジデント、クリスティーナ・ウットン氏によると、グッチがロブロックスの活用を開始したのは2020年12月。ロブロックスのプレイヤーによって制作された、ふたつのバーチャルアイテムを、ロブロックス・アバター・マーケットプレイス(Roblox Avatar Marketplace)で販売したのがはじまりだという。つまり同社は、はやくからロブロックスとのコラボレーションに可能性を見出していたと考えられる(グッチの広報担当者からのコメントは得られていない)。
「ロブロックスは、クリエイティビティに溢れている」とウットン氏は強調する。同氏によると、現在ロブロックスには800万人以上のアクティブなクリエイターがおり、2021年第1四半期、同プラットフォームのデイリー・アクティブユーザー数は180カ国で4210万人に達したという。特に13歳以上のユーザー数は111%増加し、現在のユーザーベースの49%を占めるほどに成長しているとのことだ。なお、2020年末の時点で、ロブロックスのユーザーベースの44%は女性となっている。
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コラボレーションの中身
クリエイターエコノミーに投資しているアトリエ・ベンチャーズ(Atelier Ventures)のリー・ジン氏は、米DIGIDAYの姉妹メディア、グロッシー(Glossy)の取材に対し、ロブロックスは「子供たちのためのパッションエコノミー」であると語っている。8歳といった低年齢ユーザーも少なくない。「広告主は常に、消費者が時間を費やすプラットフォームに赴き、出会いを求めている。多くの若者が訪れるその場所が、いまやロブロックスなりつつある。加えてロブロックスは、ほかでは実現できないような、没入感のあるブランド体験を作り出すことができる」。
だからこそ、グッチが5月に実施したコラボレーションは、単なるバーチャルアイテムの販売にとどまらないものとなった。同社は2021年5月17日から31日のあいだ、イタリアのフィレンツェで開催されたグッチの生誕100周年を記念する現実の展示と時期を合わせて、ロブロックス上でグッチ・ガーデン(Gucci Garden)と呼ばれるバーチャル展示会を開催した。このバーチャル展示会に訪れたプレイヤーは、真っ白なマネキンとしてスペース内を移動し、その過程でパーソナライズされたテクスチャとパターンを吸収し、マネキンを唯一無二の芸術作品にすることができるという。なお、このグッチ・ガーデンを訪れたプレイヤーの数や、その後グッチの製品を購入したプレイヤーの数は明らかにされなかった。
テッククランチ(TechCrunch)とのインタビューで、グッチのCMOであるロバート・トリーフス氏は、ロブロックスとのコラボレーションにより、通常であれば何十年もかかるビジネス規模の拡大を、わずか100日間で達成することができたと述べた。またトリーフス氏によると、同社は2020年後半に発表した、ブロックチェーン技術に精通したアバタースタジオであるジーニーズ(Genies)との提携を活かし、NFT(代替不可能なトークン)サービスの強化も検討していると述べている。
この戦略のおかげもあり、グッチを所有するケリング(Kering)によると、2021年第1四半期の決算で、グッチの売上は対前年比で20%以上増加したという。なお、ケリング全体の収益もパンデミック前の水準を上回っていた。
ロブロックスのユニークさ
グッチは、自らのバーチャルグッズ戦略を、ロブロックスとのコラボレーションに限定しているわけではない。たとえばグッチは、『シムズ4(Sims 4)』『どうぶつの森(Animal Crossing)』『ポケモンGo(Pokemon Go)』といったビデオゲームでもバーチャル・グッズを展開している。
しかしロブロックスには、これらのビデオゲームにはないユニークさがある。それは、プラットフォームにおけるプレイヤーの役割だ。
たとえばロブロックスのプレイヤーたちは、グッチからインスピレーションを受けたバーチャル衣装を自作したり、ピアツーピアのマーケットプレイスでそれを交換している。つまり、2020年にはじめてグッチが発売したふたつのアイテムが話題になったように、クリエイターエコノミーを活用することが可能なのだ。2020年のバーチャル・グッチ作品のひとつは、19歳の@cSapphireが制作したものだが、彼女はまた、ロブロックスでのファッション・デザインをどのようにカスタマイズしているかを伝えるチュートリアル動画を、Youtubeで展開している。
「ブランドの存在は、クリエイター側にとってマネタイズを行ううえで、非常に重要だ」とジン氏は述べる。
メタバースの可能性
バーチャルファッションは大きな可能性を秘めている。グッチのような高級ブランドが、物理的に流通する製品をティーンエイジャーに作らせることはできない。しかし、ロブロックスのようなバーチャルなプラットフォームでならそれは可能だし、よりインタラクティブな機会を提供できる。
「グッチとのコラボレーションは、メタバースの創造性を拡張した事例といえる。単に物理的な世界の空間や体験を再現するというアプローチから前進し、現実には不可能と思われる体験を、バーチャルで実現することに成功したのだ」。
[原文:Why luxury brands are doubling down on Roblox]
LEIGH CUEN(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)