多くのブランドや小売企業は、目下、新しいマーケティングチャネルの試験的な運用に及び腰だ。ところが、リーバイス(Levi’s)は、今月、かねてより計画していたTikTok(ティックトック)でのショッパブル広告のテストを、予定通り進める決断を下した。
多くのブランドや小売企業は、目下、新しいマーケティングチャネルの試験的な運用に及び腰だ。売上の減少にともない、可能なかぎりのコスト削減に必死だからだ。ところが、リーバイス(Levi’s)は、今月、かねてより計画していたTikTok(ティックトック)でのショッパブル広告のテストを、予定通り進める決断を下した。多くの人々が自宅に閉じ込められ、TikTokのようなアプリに釘付けの毎日をおくるなか、新規の顧客とつながる場として、このプラットフォームはこれまで以上に重要だと、リーバイスは考えている。
一部のブランドは、重要な収入源を閉ざされ、マーケティングへの投資を増やすことに慎重だが、彼らにとって大きな機会があることも確かだ。ほかのブランドが広告費をほとんど全面的に凍結しているのであれば、新規の顧客を格安なコストで獲得できるチャンスかもしれない。とくにTikTokのような新興のプラットフォームは、もともと広告を出稿する小売企業も少なく、自分たちの存在をアピールするのも比較的容易だろう。
リーバイスは、卸売り業者にほとんど全面的に依存するほかのブランドに比べて、消費者に直接商品を販売する自社のD2C事業は、現在のコロナ危機を有利に乗り切れるのではないかと考えている。リーバイスのウェブサイトでの売上は、3年前より倍増し、いまや同社の総収入の15%以上を占めている。当然、D2C事業の成長はリーバイスの最優先事項でもある。同社が今月発表した第1四半期の業績報告によると、D2C事業の売上は全体で10%増加したとある。また、当期の純収入は5%増の15億ドル(約1600億円)だった。
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とはいえ、リーバイスの前途は多難だ。4月の第1週現在で、同社の小売店舗の7割近くが閉鎖を余儀なくされており、来期の収益はさらに大きく落ち込みかねない。
米国リーバイスのD2C事業を統括するブレイディ・スチュワート氏によると、TikTokのみならず、インスタグラム、Snapchat、ピンタレストのような、新興のソーシャルコマースプラットフォームの試験運用を早期に行うことは、同社のD2C事業の成長に必要不可欠だという。リーバイスのストアが閉まったままの状況では、D2C部門はことさらに重要だろう。
ベンチャーキャピタルのレアラーヒポー(Lerer Hippeau)でプラットフォーム事業を担当するステファニー・マニング・コーエン氏が、先週、モダンリテール(Modern Retail)に語ったところによると、多くの新興D2Cが広告予算の一部を削減している一方、TikTokやインスタライブ(Instagram Live)のようなプラットフォームを試してみようという企業は少なくないという。コーエン氏はその理由として、マーケティングコストが比較的安く済むこと、また、自宅に閉じこもることを余儀なくされた多くの消費者が、常にも増して、このようなアプリを使用している点を挙げている。
なぜいまTikTokなのか
リーバイスはTikTokで一連のショッパブル広告を配信した。新型コロナウイルスの感染拡大がはじまる以前に、同社はマイアミで期間限定のポップアップストアを主催し、この場でTikTokのインフルエンサーたちと動画を作成していた。このリーバイス後援の動画は4月8日から19日にかけて配信され、同社が提供するカスタムオーダーサービス「フューチャーフィニッシュ(Future Finish)」で作成したカスタム製品を紹介した。顧客は「フューチャーフィニッシュ」を活用することにより、レーザー加工でジーンズ製品をカスタマイズできる。動画の下部には、「いますぐ購入」ボタンを表示した。リーバイスによると、このキャンペーンの実施以降、TikTok動画で紹介したすべての商品は、その閲覧回数が倍以上に増えたという。
多くのZ世代の消費者にとって、ソーシャルプラットフォームはすでに商品に関するインスピレーションを求める場となっており、そこでの取り組みを活発化させることにより、リーバイスは容易なデジタルショッピングエクスペリエンスを構築できる。そしてゆくゆくは、自社のウェブサイトにこのようなユーザーを誘導したい考えだ。
「TikTok、インスタグラム、Snapchatを比べてみると、それぞれのカスタマージャーニーが大きく異なることが分かる」と、スチュアート氏は指摘する。「このようなプラットフォームで成功するブランドとは、それぞれのチャネルに最適のカスタマーエクスペリエンスを構築できるブランドで、我々リーバイスもそのようなブランドであると自負している」。
たとえば、インスタグラムで重要なのは「自分の最高の人生を伝えること」であり、「強い向上心と高いキュレーション性」だと、スチュアート氏は語る。3月も終わるころ、リーバイスはインスタライブで「5:01」というコンサートシリーズを開始した。このコンサートは、毎日、太平洋時間の5:01PM(午後5時1分)にはじまり、スヌープドッグやブレット・ヤングらのアーティストが、それぞれのパフォーマンスを自宅からライブ配信する。リーバイスはアーティスト自身が選んだ慈善活動に、出演ごとに最大1万ドル(約106万円)を寄付する仕組みとなっている。
TikTokについては、「なにか視覚的にハマる、いわゆるイマーシブなコンテンツを作りたかった」とスチュアート氏は言う。昨年、TikTokでは、「#oddlysatisfying(妙に心地よい)」がハッシュタグランキングの上位に上がったが、これは基本的に、クッキーのアイシングや火のついたロウソクを潰すシーンを撮影した動画だった。そこでTikTokは、リーバイスの「フューチャーフィニッシュ」を軸として、カスタムプリントでジーンズやデニムジャケットに装飾を施す動画を配信することにした。
将来を見据えた戦略
新型コロナウイルスへの対応として、スチュアート氏は、「当然、我々も誰もがやるようなコスト削減はやっている。だが、この危機を乗り越えてさらに強くなるための戦略的な投資は継続する」と述べている。具体的なコスト削減策についての言及はなかったが、同氏は「大きな音楽祭では、リーバイスは常に際立つ存在だ」と言い添えた。そのようなイベントは、当面、すべて延期の状態である。
昨年夏、ビヨンセがコーチェラ音楽祭(Coachella Valley Music and Arts Festival)でリーバイス501のショート丈のカットオフデニムを着用したところ、直後の四半期で同商品の売上が50%増加した。この部門のマーケティング予算が基本的にすべて削られたいま、リーバイスが新興のソーシャルプラットフォームで強い印象を刻むことは、ことさらに重要な課題となっている。
さらに、スチュアート氏によると、リーバイスは2月と3月に中国の小売店舗が閉鎖された際の経験をもとに、ブランドマーケティング戦略を構築しているという。この間、中国ではDIYコンテンツが成功していた。そこでリーバイスは、自社のブログでも、この種のコンテンツをもっと配信する予定という。また、この機に乗じて、1月に出した新しいモバイルアプリのプロモーションにも余念がない。
「いまのような状況では、不確かさに直面する消費者は、信用のおけるブランドを頼りとし、継続的な対話と関係を期待する」と、スチュワート氏は語る。「そしてリーバイスは、D2C事業をテコに、そのような信頼関係を構築し、危機の最中にあってもそれをよりどころにできるだろう」。
Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)