Gap の訴訟で変わりつつある商業施設のリース契約:「家主とテナントがWin-Winの関係を築けるよう見直すべき」

小売店の売上が伸び悩むなか、家主もテナントも斬新な解決策を見出そうと苦慮している。

だがなかには裁判沙汰になるケースもある。たとえば商業用の不動産を扱うブルックフィールド・プロパティ・パートナーズ(Brookfield Property Partners)は、サイモン・プロパティ(Simon Property)と同様、Gap Inc.(ギャップ)の賃貸料の不払い対して訴訟を起こした。また5月上旬には48thアメリカスLLC(48th Americas LLC)が、マンハッタンのミッドタウンにある店舗の賃貸料を支払わなかったとして、Gapをニューヨーク州南部の連邦地方裁判所に告訴している。

全米でショッピング施設を運営しているブルックフィールドは、6月第3週にテキサス州でGapを訴えている。同社はテキサス州だけでも200万ドル(約2億1500万円)以上の賃貸料の返済を求め、Gapの所有する店舗に対して同州での営業再開を要求している。ブルックフィールドは訴状のなかで、過去3か月間「ブルックフィールドの施設に出店しているほとんどの店舗でGapは家賃を支払えていない」としている(本稿の発表時点でブルックフィールドからのコメントは得られなかった)。

家賃をめぐるテナントと家主のせめぎ合い

一連のGapに関する訴訟は、リテーラーと家主の双方にとって今がいかに困難な時期であるかを端的に示す例といえるだろう。こうして裁判となった例もある一方で、将来的に事態がもとに戻ると見越して、家賃支払いを一時的に停止する合意契約を結んでいるところもある。また一部では、今回のような前例のない危機も織り込んだリース契約を結ぶ再交渉も行われている。総じて、今後の商業用不動産契約に変化が生じつつあるといえるだろう。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、実店舗を抱えるリテーラーのあいだでは家賃支払いをいかに削減するかが主要な課題となっている。最終的に返済することを条件に、支払いの延期を提案する家主もいる。だがこうした要求に応じないところが一般的となっている。賃貸料がタダになったり安くなったりするのを嫌う家主が多いのだ。いま家賃の削減や支払い延期で注目を集めているのは、スターバックス(Starbucks)やチーズケーキファクトリー(Cheesecake Factory)といった、全米に展開している資金豊富な企業が大半だ。だがデータを見れば、特に要請が多いのは実店舗への依存度が高い企業となっている。

リテールシェア(RetailSphere)がショッピングセンターのオーナー3300人を対象に行った最新の調査によれば、家賃の削減や支払い延期を求めているのはビューティやファッション関連のサロンが大半だという。実際のところ、調査を受けた企業すべてがサロンからの要請がもっとも多いと回答しているのだ。それについで多いのは、スポーツクラブなどのフィットネス関連で、平均16.3%が家賃の減額または支払い延期を求めている。一方、全米規模のブランドやフランチャイズ店舗は12.2%となっている。

求められるリース契約の再検討

財務管理コンサル会社のラミーグループ(Lamy Group)のCEO、ケネス・S・ラミー氏は、Gapらに対する訴訟によって、商業施設の家主と小売テナント間で今後新たな契約条件が広まる可能性があると指摘する。同氏のチームは3月以降、テナントとの交渉を仲介してほしいという要求を家主から多数受けており、その数はこの30年で最多となっているという。同社は現在までに「数十の店舗とレストラン」のリース条件の交渉を仲介している。これは2008年の不況をも上回る規模だ。

交渉に関わる者は全員、大きなプレッシャーのなかでの交渉を余儀なくされている。「各リースをケースバイケースで検討しなければならない状況だ」とラミー氏は語る。だが2021年になれば「リース契約の更新に伴う『再出発』が増えていくだろう」と同氏は述べている。

リテーラー側の意見で多いのが、リースの不可抗力条項(契約履行を妨げる「予測できない状況」)に公衆衛生に関わる政府の強制的な営業停止は含まれるという主張だ。現状では、不可抗力条項に当てはまる場合は家賃の全額免除ではなく、支払い延期としているリース契約が大半となっている。だがラミー氏は条件を更新するにあたって、危機前のテナントの財務状況と実行可能性に基づいた対応を定めているという。「両者にとってWin-Winの関係を築くべき」であり、パンデミック後の未来に向けてリース契約を再構築し、契約内の表現を慎重に検討するべきだと同氏は主張する。

実店舗の閉鎖によりチェーン店は大きな打撃を受けた。一方、全国規模のチェーンよりも小規模なレストランやDNVB(Digitally Native Vertical Brand)、全国チェーンよりもレバレッジの低い小規模ブランドなどのテナントのあいだでは、今後リース契約を結ぶべきかを検討するところも出てきている。たとえば、EC収益に大きく依存しているD2Cブランドの場合、リース契約に柔軟性がないのであればそもそも契約をおこなわないという選択肢をとりやすい。実店舗でのショッピング体験に価値を見出しているD2Cブランドは、交渉を代わりにおこなってくれる不動産プラットフォームを介した短期のレンタルというのも現実的な選択肢となっている。

ラミー氏は、不動産の所有者は契約者無しの状態よりもなんらかの形で契約があることを望むところが大半であり、その点は小売テナントにとっては好材料だろうと述べている。

[原文:Why Gap’s lawsuits could usher in new commercial real estate terms

Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)
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