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小柄女性向けD2C「COHINA」は、なぜTGCを目指したか? :「もはやニッチなカテゴリではない」

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2020年の秋冬向けに開催された「東京ガールズコレクション(TGC)」は、かつてない奇妙な雰囲気に包まれていた。

いまや日本のZ世代の女性から絶大な支持を獲得している、この国内有数のファッションショー。同年9月5日に開催された回は、「第31回 マイナビ 東京ガールズコレクション 2020 AUTUMN/WINTER ONLINE」と改名され、その名が示すとおり、はじめてオンライン配信で実施されたのだ。実際、リアルにランウェイは執り行われたものの、もちろん無観客。しかし、最新テクノロジーを活⽤し、ファッションショーやイベント業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を感じさせる内容となった。

そんななか、ひときわ異彩を放っていたのが、日本のD2Cブランド、COHINA(コヒナ)である。なにしろ、ランウェイに登場してきたのは、ファッションモデルのイメージとは異なる、かなり小柄な女性ばかり。「155cm以下の小柄女性向けブランド」という明快なコンセプトを掲げる同ブランドは、多様性(ダイバーシティ)や包括性(インクルーシビティ)が特に重要視されるようになったファッション業界において、日本独自のアンサーを提供していた。

「一般的な『モデル体型』とはイメージがかけ離れた人たちが、TGCという日本で一番大きな舞台に立てたのは、とても意味のあることだと思う」と、COHINAの共同創業者である田中絢子氏は語る。「TGCに参加したことで、新しい人たちに認知していただけたというのは、もちろんうれしい。だが、それよりも創業以来、応援してくれたファンの人たちが喜んでくれたというのが、なにより印象的だった」。

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TGCにおけるCOHINAのランウェイ

主に「口コミ」でブランド認知を向上

ユーザーの納得感や信頼感の醸成が、D2Cスタートアップには、なにより重要だ。プロダクトアウトではなく、あくまで社会的な課題解決が、そういった企業の目的だからである。

2017年11月に創業したCOHINA(コヒナ)は、その1年半後、2019年3月には月商5000万円を突破。2019年度の売上は前年比2.2倍、顧客数も同2.8倍を達成している。2020年はステイホームによるEC需要の高まりも受け、さらに同様の拡大をしているという。

そんな急成長を支えているのが、インスタグラムだ。特にインスタライブに注力し、毎日配信することで、すでに16万人超という大規模なフォロワーを獲得している。しかも、これはオーガニックに伸ばしてきたものであり、いままで大規模な広告宣伝はほとんどしてこなかった。

COHINAは2020年11月、初となるテレビCMを地域限定で放送したが、これまでコミュニケーションに活用してきたのはインスタグラム、Twitter、LINE、WEAR(ファッションコーディネート特化サイト)などのSNSが中心。ブランドの認知度向上に寄与してきたのは、主に口コミなのだ。

COHINAによるはじめてのテレビCM

ストロー型の効率的なマーケティング

「COHINAのこのようなアプローチは、見込み顧客を広く集めてから絞り込む、いわゆるファネル型のマーケティングではない」と、アライドアーキテクツのCPO兼プロダクトカンパニー長を務める村岡弥真人氏は語る。同社はソーシャルテクノロジーを活用したマーケティング支援を行うテクニカルベンダーだ。「これは熱量の高いユーザー属性をきちんと特定してメッセージを発信する、ストロー型の効率的なマーケティング活動である」。

ニーズがすでに顕在化していたり、競合他社からの乗り換えを想定している場合には、ファネル型のアプローチが力を発揮する。だが、潜在的なニーズを掘り起こして課題を解決していくCOHINAのようなブランドにとって、まず重要なのはユーザーの納得感や信頼感の醸成だ。その点で、「顧客体験や口コミ、リピート顧客の存在にきちんと投資してきたことが、『広告宣伝をほとんど実施してこなかった』というCOHINAのマーケティング施策の本質」だと、村岡氏は捉えている。

「お客さまとの距離感が近く、一人ひとりとの関係性を重視したいブランドにとっては、マスに対してばらまくよりも、本当に興味を持ってくれた人と長くお付き合いしていくほうが理想的」と、田中氏も説明する。「初めてCOHINAを知ってもらう人たちに対して、自分たちがイメージしていなかったような見え方にならないよう、ブランドイメージを自分たちできちんと管理していきたい」。

インスタライブは年間365日配信

COHINAがもっとも力を入れるコミュニケーション施策は、インスタグラムで毎日配信するインスタライブだ。縦長の短尺動画「リール(Reels)」や長尺動画「IGTV」なども運用しているが、あくまでもインスタライブを訪れてもらうことが重要だという。

インスタライブに登場する「ライバー」は、COHINAを支持する会社員や主婦など、20名前後の一般人。それぞれの担当が配信できるタイミングで分担することで、毎日の配信を実現している。しかも、この配信にあたり、COHINA側からライバーたちに細かいディレクションはしていないという。

「紹介してほしいアイテムは伝える。だが、そのコーディネートの仕方までこちらが決めてしまっては、ライバーに出てもらっている意味がなくなってしまう」と、田中氏は補足する。「その人らしいカラーを出し、やりたいようにやってもらうからこそ、年間365日という配信頻度で運営できている」。

ライバーたちによるインスタライブで順調にファンを獲得してきたCONIHAは、コロナ禍においてもライブ配信を滞りなく運用してきた。実店舗がないため、売上が大きく落ち込むことはなく、むしろオンラインでの買い物に対する抵抗感が薄れたこともあって、オーディエンス数は右肩上がりに増えた。

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COHINAのインスタライブは毎日開催されている

コロナ禍だからこそ必要なこと

それでも、最初の緊急事態宣言中のライブ配信の舞台裏は、なかなか大変なものだったと、田中氏は振り返る。通常のライブ配信では、1時間のあいだに10コーディネートほど紹介しており、このために20着ほど用意する。これを、在宅勤務に切り替えたスタッフの自宅に郵送する作業が、大きな負担となった。だが「ライバーの皆さんの知識量や運営への理解が、社員と同じくらいにあるので、1人での配信に切り替えても比較的スムーズに対応できている人が多かった」という。

製品の調達もなかなか予定通りには進まず、苦戦を強いられることもあった。特に夏は、シーズンイベントに関連したアイテムが売れる時期だが、今年は夏祭りなどが軒並み自粛対象となったため、浴衣を企画したものの生産中止となった。結婚式も開催延期や中止が増えたため、参列者用のドレスも型数を減らして発売した。一方で、リモートワークに適した華やかなトップスへの需要は高まった。

世の中の変化に合わせて商品構成を大幅に組み替えるといった対応を迫られるなかで、取引先との良好な関係の維持がいかに大切かを再認識したと、田中氏は振り返る。たとえば、ある工場での生産が見込めなくなり、別の工場に振り替えてもらう際に、D2Cブランドの資本力は大手に比べて不利だ。そのため、「OEMの製造工場との日ごろからの関係性が試された」のだという。

期日通りに納品されるかに注意を払うことはもちろんだが、それで工場に負荷がかかり過ぎていないかを気にかけた。「長期的にお付き合いしていただける関係を築くことは、コロナ禍だからこそ必要なのだと感じている」。感染者数がまた増えている今、「取引先の状況を、いつも以上に丁寧に見ていきたい」と、田中氏は語る。

インスタに依存しすぎない体制

2020年、コロナ禍福によるEC需要の高まりを受けて、各プラットフォームでは、コマース機能を拡充してきた。インスタグラムも例外なく、商品のタグ付け機能「ショップ(Shop)」や、直接購入できる機能「チェックアウト(Check Out:日本では未実装)」など、スムーズな購入体験を実現する機能を実装している。このような選択肢にも、田中氏は興味を示すが、「こうした機能を経由して、ものすごく売れるというわけではない」と考えている。というのも、「ある程度の価格帯の商品を購入する際、お客さまは何回かブランドに接触して、ブランドや商品への理解を深めてから購入することが多い」からだ。

また、インスタグラムのような外部プラットフォームの比重が高まると、顧客データが社内に蓄積されないという課題に直面する。COHINAでもまだ手探りの状態ではあるが、「最終的にリピーターは自社の公式ECサイトに戻ってくる」と、田中氏は信じているという。

「ひと目惚れした商品を1回買うだけならば、外部プラットフォーム経由の決済は便利だが、もう1回買おうかと考えたときには、もっと多くの情報が欲しくなる。その際には、情報量が多くて、比較検討しやすい公式サイトを訪れるのではないか」と、田中氏と推測している。「インスタグラム上の決済機能はあくまでも導入のためのきっかけ。そこに依存しすぎない体制での運営を心掛けたい」。

「もはやニッチなカテゴリではない」

そのため、インスタグラムやその他SNSへ頼りきりになるわけでなく、新規獲得施策の多角化を進めている。たとえば、ポップアップ店舗の展開であったり、冒頭で紹介したようなテレビCMへの投資などだ。TGCへの出展は、その最たる試みのひとつだった。

だが、TGCへ出展したとしても、売上が即座に急増したわけではないではない。それよりも、TGCという国内最大級のファッションショーに出展したことで、既存顧客からの「感動して泣きました」といった熱量の高い声に、大きな手ごたえを感じたという。

「我々もそうだが、D2Cというと、どうしても独自コミュニティだけの内輪で盛り上がっていくという部分が大きい。だが、TGCくらいオフィシャルな場というか、社会とつながった場に出ることも、D2Cにとってひとつの新しい見せ方だと思った」と、田中氏は振り返る。「COHINAは小柄女性に特化したブランドではあるが、もはやニッチなカテゴリではない」。

Written by 田崎亮子
Edited by 長田真