エピックゲームズの「アンリアルエンジン(Unreal Engine)」は、ゲーム業界でもっとも人気の高いソフトウェアフレームワークのひとつだ。その用途は多岐に渡っていたが、2021年、もうひとつ新たな用途が加わった。ファッションデザイナーがゲーム世界の内外で作品を制作し、発表する場となったのだ。
エピックゲームズ(Epic Games)が運営する「アンリアルエンジン(Unreal Engine)」は、ゲーム業界でもっとも人気の高いソフトウェアフレームワークのひとつだ。現在、この開発ツールは、750万人以上のライセンスを持つ開発者に愛用されている。その用途はこれまでにも、映画のセットや自動車のデザインに広げられてきたが、2021年、アンリアルエンジンにもうひとつ新たな生命が吹き込まれた。ファッションデザイナーがゲーム世界の内外で作品を制作し、発表する場となったのだ。
アンリアルエンジンは、「トニー・ホーク・プロ・スケーター(Tony Hawk’s Pro Skater)」や「バロラント(Valorant)」といった人気タイトルのゲームに加え、エピックゲームズを代表する世界的人気のバトルロイヤルゲーム「フォートナイト(Fortnite)」の開発ソフトウェアでもある。2017年のリリース以来、フォートナイトはゲームから、本格的なメタバースプラットフォームへと進化してきた。そして、この転換に伴い、ゲーム業界の外のブランドも、エピックゲームズとパートナーシップを組んで、若い消費者に精力的にリーチしてきた。こうしたパートナーシップの多くは、ブランドの実物の製品をフォートナイトの世界、つまりアンリアルエンジンに組み込むというものだった。
今年9月、高級ファッションブランドのバレンシアガ(Balenciaga)はエピックゲームズと提携し、自社デザインのいくつかをフォートナイトのスキンとして再現した(さらに、フォートナイトブランドのアパレルラインを実世界で発売した)。「アンリアルエンジンでは何もかも、きわめて現実に忠実につくりだせる」と、エピックゲームズのブランド・アドバタイザー・ソリューション担当責任者、ラファエラ・カメラ氏はいう。「モデルでさえ、一部は我々のメタヒューマン(MetaHuman)ツールを利用してつくられている。我々は、バレンシアガが起用している現実のモデルをスキャンするところから始めた」。
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消費者がこうしたバーチャルアクティベーションに馴染みつつあるなか、バーチャルファッションの世界に進出するゲーム業界企業は、エピックゲームズだけではない。
限定アパレルライン「LQD」
今年8月、eスポーツ組織チームリキッド(Team Liquid)は、アンリアルエンジンで制作した服をデジタルモデルに着用させ、限定アパレルライン「LQD」を発表した。「我々が行うすべてのことに、ストーリー性をもたせるにはどうすればいいか? そのための最新の方法は何か?」と、チームリキッドのアパレル・コマース担当クリエイティブディレクター、フランク・バン・ローイェン氏は語る。「今回のケースでは、ポストアポカリプス的な世界観を創出し、ゲームとのかすかなつながりをもたせたかったが、ゲームそのものを制作する必要はなかった。そこで、アンリアルエンジンに目をつけた」。
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12_PM_PDT / 9_PM_CESThttps://t.co/Xl3YIalJDI pic.twitter.com/y8kHCMwN0y— Team Liquid (@TeamLiquid) August 24, 2021
アンリアルエンジンのファッションの世界への進出がスムーズなものになるよう、チームリキッドは、フリーランスの環境アーティストであるエミエル・スリーガース氏を採用した。「残りはすべて社内で開発した。わが社にはすばらしい社内3Dアニメーションチームがある」と、バン・ローイェン氏は述べた。同氏によれば、同社はデザイナーの採用を強化し、今後のアンリアルエンジンでのプロジェクトでは工程を完全にインハウス化する予定だという。
スリーガース氏は、以前はユービーアイソフト(Ubisoft)に勤め、ゲームアセットデザインの教材を提供する企業ファストトラック・チュートリアルズ(FastTrack Tutorials)のオーナーでもある。同氏はアンリアルエンジンの有用性について、ポストプロダクションの調整が難しい画像や動画の要素を容易に操作できる点を強調する。「たとえば、ライティングを変えてみたらどうかな? と思った瞬間に、すぐに調整できる」と、スリーガース氏はいう。「現実世界でやろうと思うと、そう簡単にはいかない。現場にディレクターが必要になる」。
スリーガース氏はまた、ゲーム以外のプロジェクトにアンリアルエンジンを利用することには、ユニティ(Unity)などのほかの人気ゲームエンジンの利用と比べて、どのようなメリットがあるのかを説明した。「一般に、ユニティはよりゲームに特化しているため、クオリティに関していえば、超現実的といえるレベルに達するのにより苦労する。もちろん、やろうと思えば本格的な映画並みのクオリティも実現できる。その場合はマヤ(Maya)、3ds Max、ブレンダー(Blender)などを使うことになるだろう」。
「もちろん有望な選択肢だ」
実際、アンリアルエンジンは、チームリキッドがLQDのために制作したポストアポカリプス空間のような仮想環境の基盤となっているが、チームリキッドのアニメーターは、ブレンダー、ZBrush、サブスタンスペインター(Substance Painter)といったほかのプログラムも利用して、「衣服のテクスチャーづくりや細部の仕上げ」を行っていると、バン・ローイェン氏はいう。
アンリアルエンジンを用いた衣服のデザインとモデリングは、ゲームの世界に端を発し、のちにその枠を突破した。2021年4月、ファッションデザイナーのゲイリー・ジェイムス・マックイーン氏は、このゲーム開発ソフトウェアを利用して、バーチャル衣類のランウェイショーを開催し、デジタルファッションプラットフォームのドレスX(DressX)上で独占販売した。
マックイーン氏のバーチャル衣類は実世界では再現されなかったが、アンリアルエンジンを使ったこのファッションショーは、BMWが自動車デザインに利用しているように、ソフトウェアを使って本物の服飾デザインを行う可能性を示した。実際、ファッション業界ではすでに、生産工程の効率化のためにバーチャルモデルが利用されている。「もちろん有望な選択肢だ」と、バン・ローイェン氏はいう。「CLO 3Dのように、ファッション・アパレルデザイン専用に設計されたソフトウェアと組み合わせて使うことも考えられる」。
デジタルファーストの衣類販売
バン・ローイェン氏は、自身や同僚のクリエイターがアンリアルエンジンを使って実物の服飾デザインをおこなうかどうかに関係なく、チームリキッドは近い将来、マックイーン氏と同じように、デジタルファーストの衣類販売に着手するだろうと考えている。
「詳しくは言えないが、実は今まさに、そうしたコラボレーションが進行中だ」と、バン・ローイェン氏はいう。「我々のつくった服をゲームの中で着られるようになる未来は、完全に視野に入っている」と、同氏は述べた。
[原文:Why companies inside and out of gaming are designing and showcasing clothes in Unreal Engine]
ALEXANDER LEE(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)