米国がコロナ禍に見舞われた際、コカ・コーラは「限定商品の詰め合わせボックスが毎月届く」、サブスクリプションサービスを中止した。だが同社は、2020年12月、コカ・コーラ・インサイダークラブのキャンセル待ち申し込みの受付を再開。既存の会員向けには、1月中にも限定ボックスの送付を行うとしている。
コカ・コーラ(Coca-Cola)が、D2C戦略の一環として、一時停止していたサブスクリプションサービスを再開する。
コカ・コーラ・インサイダークラブ(Coca-Cola Insiders Club)呼ばれるこのサービスは、もっぱらコーラの「大ファン」を対象としており、従来のサブスクリプションサービスのように、割安感をアピールしたものではない。なお、料金は3カ月分45ドル(約4700円)から利用可能で、限定商品が購入できるほか、NFL選手によるワークアウトセッションや、有名シェフによる料理教室といったバーチャルイベントに参加できる点が売りだった。
しかしコロナ禍に伴う売上減により、2020年初頭、コカ・コーラは「限定商品の詰め合わせボックスが毎月届く」という、発表したばかりのサブスクリプションサービスを中止した。映画館やレストランの休業が相次ぎ、年間売上の30%を占める店舗売上の減少が痛手となったという。代わりに同社は、食品小売向けの卸売チャネルに舵を切り直していた。
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だが、同社は2020年12月、コカ・コーラ・インサイダークラブのキャンセル待ち申し込みの受付を再開。既存の会員向けには、1月中にも限定ボックスの送付を行うとしている。
再開の背景
再開した理由のひとつは、売上が回復傾向にある点が挙げられる。前述したように、同社は食品小売をはじめとする卸売チャネルにフォーカスしていたが、これが功を辞したのだ。事実、コカ・コーラの2020年第3四半期の売上高は9%減の87億ドル(約9000億円)と、依然落ちこんではいるものの、第2四半期の28%減に比較すると上昇傾向にある。
「ただし、大量販売とマルチパックがメインの卸売チャネルでは、売上量が増大しても利益が小さい」。調査企業のフラクタル・アナリティクス(Fractal Analytics)で、消費財・小売・ホスピタリティ部門担当 CPO(chief practice officer:最高実践責任者)を務める、アミターブ・ボーズ氏はこう指摘する。
また、コカ・コーラはここしばらくシェアも大きく低迷しており、2020年12月にはリストラ策として2000人を超える人員削減を強いられている。
中止すべきではなかった
コカ・コーラをはじめとする大手消費財ブランドにとって、D2Cはエンゲージメントを獲得するには優れた戦略かもしれない。しかし基本的に、実売で大きなインパクトを残せるかというと話は別だ。にもかかわらず、業界でD2C戦略を展開する企業は増えている。ボーズ氏は「理想をいえば、コロナ禍においても、コカ・コーラは引き続きD2C戦略を続けるべきだった」と指摘。D2C戦略を採用する消費財大手にとって、コロナ禍はむしろ好都合であり、「平常時以上にエンゲージメントを高められる可能性もあったし、実売にも繋がったかもしれない」と述べている。
コカ・コーラと同様の動きを見せる大手ブランドはほかにもある。サワー・パッチ・キッズ(Sour Patch Kids)やテイツ(Tate’s)の親会社モンデリーズ(Mondelez)は、ブランドごとにD2Cサイトを開設。消費者はスナックやお菓子を自由に組み合わせて購入することが可能だ。クラフトフーズ(Kraft Foods)傘下のモンデリーズは、同じグループに属する小売企業、キャドバリー(Cadbury)の英国消費者向けに、ギフトショッピングサイトも展開している。ハインツ(Heinz)も先頃、ソースや食品をセット購入できるオンラインプラットフォームのハインツ・トゥ・ホーム(Heinz to Home)をローンチ。2020年半ばには、コカ・コーラのライバルであるペプシコ(Pepsico)がSnacks.comを開設し、同年第3四半期の売上が倍増した。
まだ長い道のり
しかし、ボーズ氏は、これら大手消費財ブランドのD2Cモデルは、まだ長い道のりがあると、Snacks.comの流通システムを例に指摘する。現在のフルフィルメントプログラムでは、消費財大手はスピーディなデリバリーを実現できないというのが同氏の見方だ。
それでもなお、リスクが小さくて済むという点において、D2Cは大手ブランドにとっては良い戦略だ。調査会社フォレスター(Forrester)でアナリストを務めるスチャリタ・コダリ氏は、「コカ・コーラのD2C戦略にはまだ改善の余地がある。ブランド・パートナーシップなど、別のアプローチを試してみるのもいいかもしれない」と分析する。その一方で、「現時点でペプシコをはじめとする多くのブランドのD2C戦略は、中途半端といわざるを得ない」とも論じていた。
新興飲料ブランドの場合、D2Cチャネルは、あくまでブランド認知度を高めるために活用し、そこから店舗売上の拡大を狙うのが一般的だ。しかしコダリ氏は、コカ・コーラのD2C戦略について「商品を誰がどこで購入しているのかといった、顧客データやインサイトを集めるために活用するべきだ」としている。
「消費財メーカーのD2C戦略はまだ初期段階にあり、極めて未熟だ。統合的な取り組みができるようになったあかつきには、ディスラプションを起こせる可能性もある」と、コダリ氏は続けた。
[原文:Why Coca Cola is reviving its subscription service]
Gabriela Barkho(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)