日本ではソーシャル上のトラブルもあってか鳴かず飛ばずではあるものの、世界中で大ブームを起こしている映画『バービー』。そのマーケティングキャンペーンは多数のライセンスパートナーシップを生み出しており、それ自体は称賛を集めて […]
日本ではソーシャル上のトラブルもあってか鳴かず飛ばずではあるものの、世界中で大ブームを起こしている映画『バービー』。そのマーケティングキャンペーンは多数のライセンスパートナーシップを生み出しており、それ自体は称賛を集めている。
グレタ・ガーウィグ監督、マーゴット・ロビー主演のこの映画は、7月21日の全米公開以来、約5日間で3億5千万ドル(約507億円)以上を稼いだ。バービー人形を販売するマテル(Mattel)ブランドは大規模にマーケティングを展開し、驚くような大成功を収めている。
しかし、エージェンシーの経営陣にとっては、この成功例はひとつのケーススタディであり、単純に模倣すべきものではないようだ。ほかのエンターテイメントマーケティングがすぐに真似できるものではない。
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バービーというIPがあってこその結果
「賢明なマーケターであれば、一時的な大盛り上がりのなかでも、このプロモーションキャンペーンが独特なものであることを本能的に理解しているだろう」と、ブランドマーケティングを扱うホイールハウス・ラボズ(Wheelhouse Labs)の戦略責任者、トラビス・マクマイケル氏は語る。「バービー(人形)と同じくらい深く広いレガシーIPを持つブランドはほとんどない。大半のブランドは、マテルと同じくらいパートナーシップ戦略を広げる機会がそもそもない」。
バービーには長い歴史と広範な魅力があるため、さまざまなブランドがバービーの人気を利用して広範な消費者をターゲットにする、独特の機会をマーケターに与えている。エージェンシーの経営陣たちは、バービーがポップカルチャーと深く結びついているという点について、「(ほかのIPにとっては)普遍的なものではない」と付け加える。
フレーミン・ホット・チートス(Flamin’ Hot Cheetos)やテトリスなど、多数のブランドがハリウッドと協力して自社の知的財産に基づいたエンターテイメント作品を制作し、今年公開された。しかし、これらの作品はバービーと同じ魅力を持っていないとも言える。
マテル社の手法という最大の学び
映画公開前の段階で100以上のブランドがバービーを巻き込んだキャンペーンに参加したと、DIGIDAYのバーティカルメディアであるモダンリテール(Modern Retail)が報じている。
マーケティングおよびクリエイティブエージェンシーのマーケティングアーム(The Marketing Arm)でエンターテイメント部門バイスプレジデントを務めるジェニファー・カウアン氏は、「この種のバズやさまざまなブランドからの関心を生むことは、特殊なケースである」と言い、「ほかのブランドがバービーの成功に触発される可能性は高いが、バービーブームのような現象がほかの映画でいつまたはどのように起こるかは不明だ」と言い添えた。
マーケターが単純にバービーのマーケティング戦略をコピーすることはまずないだろうが、マーケターはどのようにして自分たちがカルチャーのなかで存在感を示すことができるかについて、もっと考察を重ねるだろう。この議題は、ブランド戦略家のモーシェ・アイザキアン氏が説明しているものだ。同氏はX(旧Twitter)でバービーのパートナーシップを紹介するスレッドを投稿し、今年の6月末にバイラルヒットした。
「(マーケターは)より楽しいキャンペーンをすること、予算をもっと創造的に使おうと考えるだろう」とアイザキアン氏は語る。「マーケターにとって最大の学びは、(マテル)が誰とパートナーシップを結んだか、そしてブランドをカルチャーのさまざまな場面でエキサイティングかつ重要な存在にするための同社の手法を見ることにある」。
映画マーケティングに予算の基準はない
バービーのマーケティングは映画のプロモーションにおよそ1億5千万ドル(約217億円)を費やしたと報じられている。カウアン氏によれば、映画マーケティングの予算には決まったレートはなく、映画の種類や魅力によって異なり、バービーは「あらゆる層をターゲットにできる映画」だと判断されたという。
「1億ドルを使うパターンもあれば、500万ドルを使うパターンもある。(ブランドとの)パートナーシップを中心に据えることもあれば、SXSWが中心の場合や、コミコンを重視する場合もある。それは製品、映画、物語、クリエイター、スタジオ上層部による。『平均コスト』というものはなく、基準もない」と、映画マーケティングについてカウアン氏は話す。
エンターテイメントにおけるマーケティングにとって、(映画バービーの大成功が与える)即時の影響が何であるかは不明である。とくに俳優や脚本家が公正な雇用を求めてストライキを続けており、ハリウッドのスタジオ側であるAMPTP(米国の映画およびTVプロデューサー同盟)が交渉のテーブルに戻るのを待っている現在は、見通しは不透明だ。
「ハリウッドがまだ素晴らしい映画を作り、大金を稼げることをバービーが証明している」と、クリエイティブエージェンシーのリバイバルハウス(Rivival House)のパートナーであり、マーケティング・運営部門の最高責任者であるジャレッド・スコット氏は言う。「この映画の持続的な影響のひとつは、昔からの映画製作に戻りたいという欲求かもしれない。人々をワクワクさせ、それを(ストリーミングではなく)映画館だけで公開し、よい物語を見せれば、観客は来るだろう。そして、人々がそれを見たいと思うように説得するためにそこに大量のお金を使う。だからこそ、予算は一部戻るかもしれない」。
[原文: Why ‘Barbie Fever’ is a one-of-a-kind promotional campaign, but may inspire fun movie marketing ]
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)