Appleは、App Storeのポリシーを巡って、ここ数年でさまざまな批判を集めている。Facebook、クラスパス(ClassPass)、エアビーアンドビー(Airbnb)を含む多くの企業は、App Store経由でAppleが徴収する手数料に関して何カ月も争ってきた。これは、ほんの一部の動向でしかない。
Appleは、App Storeのポリシーを巡って、ここ数年でさまざまな批判を集めている。連日のように起きる変更に、オンラインに進出したブランドたちは追い付けずにいる。
Facebook、クラスパス(ClassPass)、エアビーアンドビー(Airbnb)を含む多くの企業は、App Store経由でAppleが徴収する手数料に関して何カ月も争ってきた。App Storeでは、アプリ購入とアプリ内課金で得た売上の30%が、手数料として徴収される。そのため、アプリ内で開催された有料のオンラインイベントに関しても、アプリ内で得られた売上と見なされ、30%の手数料が引かれていたのだ(Facebookは2020年8月、アプリ内で有料イベントを作成できる機能を実装している)。この抗議により上記3社は、有料のオンラインイベントに関する手数料の支払いを、年内いっぱいは猶予されることになった。しかし、今年もあと約3カ月を切ったいま、来年の状況がどうなっているかの見通しは立っていない。
Appleに抗議する企業たち
これは、AppleとApp Storeを利用する企業との争いの、ほんの一部の動向でしかない。特にFacebookは、オンラインイベント事業を強化しており、Appleに激しく対抗している。
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「パンデミックによって、さまざまなコミュニティが活動を抑制されるなか、小規模事業者やクリエイターたちは困難に直面している。我々が、有料のオンラインイベントから手数料を徴収していないのも、それが理由だ」と、Facebookの広報担当であるジョー・オズボーン氏はCNBCへの声明で回答した。「3カ月という、わずかな手数料停止期間にAppleは同意した。しかしそれが終了すれば、Appleに対してアプリストアの税金である、売上の30%を支払うことになる」。つまり、イベント主催者に売上のすべてが支払われなくなるのだ。
争いに参加しているのはFacebookだけではない。7月にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)が報じたように、エアービーアンドビーやクラスパスのようなサービスもまた、Appleへ売り上げの30%を手数料として支払うことに不満を持ち、減額交渉をしていた。両社とも、パンデミックによリ、デジタルの強化を強いられた企業だ。彼らもまた、手数料の支払い停止措置を受け、今後数カ月は手数料を支払う必要はない。
ほかにも、Appleと争っている企業は複数存在する。たとえば、フォートナイト(Fortnite)の運営企業であるエピック・ゲームズ(Epic Games)は、反トラスト法を論拠にAppleを連邦裁判所で訴えた。彼らの主張はほかの企業と似ている。Appleが徴収する「税金」避けるため、エピック・ゲームズはユーザーからの支払い処理を、アプリ内からWebサイト経由に移行しようとした。それに対し、Appleはエピック・ゲームスをApp Storeから排除したのだ。
グレーゾーンとなる新規事業
こうした多くの大企業が、Appleによる支配の拡大に抵抗しようとしている。この争いは、デジタル・フィットネス分野の企業など、大手企業が「新たに」立ち上げたデジタルブランド/サービスにも影響を及ぼす可能性がある。彼らは、デジタルへのピボットが、しっかり結果に繋がるかどうかだけでなく、今後Appleがどのような変化をもたらすかにも、注意しなければならない。
「App Storeでは基本的に、限界費用がかからないサービスを扱っているので手数料モデルが成立する」と、eマーケター(eMarketer)の主任アナリストである、アンドリュー・リップスマン氏は指摘する。App Storeの場合、リテール取引のようにマージンが存在していない。だから、ブランドたちはダイレクトに利益を得ることができ、メリットを享受することができる。
しかし問題は、リテーラーが、収益多様化の手法として(自社アプリを開発するなどして)メディアスペースに参入していることだ。このことが、将来的にアプリ事業を構築したいと考えているブランドにとって、問題を引き起こす可能性がある。
そうした要因によって、Appleの手数料が今後変更されることがあれば、コロナ禍で成長しているビジネスにも影響を与えるだろう。ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者であるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、先述したように、多くのリテーラーが売り上げの損失を補うため、デジタル・サービスを構築している点に着目する。「オンラインイベントだけでなく、こうした新規事業には、Appleの手数料の対象になり得るグレーゾーンが存在する」と彼は述べる。たとえばセフォラ(Sephora)は、デジタルでのオンラインビューティ教室を開催している。また、ナイキ(Nike)のナイキ・プラス(Nike Plus)では、ストリーミングフィットネスを提供している。「彼らは、App Storeが手数料を要求してこないか怯えながら事業を推進しているはずだ」。
今後が注目されるナイキの動向
特にナイキは、今後が注目される事業を抱えている。というのも同社は、現在D2C部門とデジタル部門を拡大しているが、ここにはペロトン(Peloton)、そしてAppleという競合がいる。これらの企業はどこも、オンラインフィットネス教室といった、オンラインイベントに近しいプロダクトを抱えている。また、「AppleのCEO ティム・クック氏は、ナイキの取締役会に参加している。オンラインフィットネス分野におけるより直接的な競合になる将来は簡単に予想される」と、リップスマン氏は語る。
こうした状況は、新興企業がどのように自身のサービスを成長させていくかに、大きく影響するだろう。また、これまでリアルイベントに頼ってきたブランドたちも、その補完策として一層デジタル分野に注目している。「Appleが定めたルールが、新興企業の戦略のあり方を決めることになる。有料コンテンツを抱える新興D2C企業たちのビジネスモデルが、そのときどきのApp Storeの財務モデルの状況によって制限される光景が想像できる」とゴールドバーグ氏はいう。
Appleが来年に入ってポリシーを大幅に変更するかどうかはまだ分からない。「長期的には、Appleが根本的にガイドラインの見直しをするとは予想していない」。
[原文:Why Apple’s App Store fight could extend into retail]
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)